嫌な予感
次の日、特に意味もなく森の中を歩いていた。色々と考えたいことがたまっていたので、時間があるときに消化しておこうと思ったのである。
まだ謎のままになっている問題がいくつか残っている。
まず、私のステータスが開けない問題である。解析鑑定のスキルを持っている人物なら開けるであろうこのステータスというものが、スキルを持っているのにもかかわらず開くことが出来ないのだ。
他人が私のステータスを覗こうとしても同じである。
《ステータスに過度な開きがある場合は開くことはできません》
それはそうだが、それにしても私自身が開けないのはおかしい。絶対に何かおかしいのだ。
「強くなってるのは分かってるからいいけど……」
実害はないので、これは後回し。
そして、次。私が日ノ本の国へ行った後から、今日の段階まで魔族による襲撃が一切なかったそうだ。
これは偶然?私の知らないところで何かがあるのかもしれない。
「魔族領へ行くって言ってたら今頃教えてもらったのかもしれないけど……」
だが、言ってしまったものは仕方ない。それに、私は博愛主義者ではないのだ。
王国民の命と、父様の命、どちらが大切かと聞かれれば迷わず後者を選ぶ。
「そういえば、黒薔薇の動きも追えてないな」
最近は悪魔のほうばかり……というわけでもないが、そちらにかかりきりだったせいで、黒薔薇の組織の動きは一切分からなくなってしまった。
いつどこで仕掛けてくるのやら……なんか嫌な予感がする。
「あれ?またお前来たのか?」
気づけば私はドワーフの住まう小屋のところまで来てしまったようだ。
「用はないけど、来ちゃった」
「なんだ、用ないのか」
つまらなそうにドワーフは鼻を鳴らす。
「そんなに暇なら、うちの街に来てくれない?」
「それは無理だ」
「えー」
なぜ街に降りてこないのかは分からないが、無理やりというわけにはいかない。根気強く……かつ、なるべく早めに決着つけたいところだ。
「ドワーフさん、私またしばらくいなくなる予定なの」
「なんだ、またどっか行くのか?」
「ええ、父様を探しに……」
冒険者組合本部所属のSランク冒険者の道案内があると助かるのだが……ミサリーはいまだ交渉中らしい。こういう時は経歴の長さってやっぱ大事なんだなって思い知らされる。
私には何の情報も入ってこないのに、ミサリーには入ってくる。まあ、ミサリーは長年冒険者やってたからしょうがないにしろ。
「父親捜しか。母親は今どこに?」
「……いないわ」
「す、すまない。悪いことを聞いたようだ」
私の顔色が悪くなったので、察してくれたようだ。
「ううん、二人は私のせいで亡くなったの」
「二人?二人母親がいたってのか?」
「ええ……二人ともバカだよ」
私を助けるために死んで、私に学ばせるために殺された。ほんとバカだよ。
そして、私はもっとバカだ。
メアリ母様は、ほとんどの時間を一緒に過ごさずに生きてきたのに、そんな私のために命を投げ売った。ヘレナ母様は、最初こそ敵だったのかもしれない……だが、最後は私を守ってくれた。
どちらも、もっと私が強ければ防げたことだ。
「ドワーフさんは家族いないの?」
「俺の家族は全員とっくに死んでらあ。あ、気にする必要はないぞ?聖戦の時代だったからな……」
聖戦というと今より二百年ほど前の話だ。
「その時の俺は、自惚れてたな。なんでもできるって思ってた。だが、違ったんだよ」
「そんなことないと思うよ?ドワーフさんの腕は確かだもん」
実際に作ってもらった武器がそれを証明している。仙人、天使、悪魔を相手に、打ち合っていたのだ。
普通に考えれば良作の域を超えている。業物……もしくはそれ以上だ。
「ああ、そう言ってくれると助かる……だがな、上には上がいたんだ」
「もっと腕のいい人がいたの?」
「いや違う……俺が作った武器を『世界で一番の武器』だと言ってくれた奴を死なせちまった。それがずっと頭から離れないんだ」
「……その人はきっととてもいい腕の持ち主だったのでしょうね」
「ああ、誰にも負けないと思っていた。俺の作った武器がもっと強力だったら違ったかもしれない。そいつはいろんな国で慕われてたからな、死んだのは俺の武器のせいだっていろんな奴らから言われたよ」
「それが、街に降りない理由?」
「それ以外にもあるがな」
ドワーフは苦笑する。
「でも、私には武器作ってくれたんだね」
そういうと、ドワーフは声を出して笑った。
「お前の武器にはまだ、全力を注いでねえよ!それに、お前の武器にはまだ俺の名前を刻んでない」
名前を刻んでないということは、それは誰の作った武器かわからないということだけでなく、鍛冶師にとって「本気じゃない」ということを示している。
「いつか刻んでくれる日を楽しみにしているわ」
「期待せずに待っておけ。あと数百年先じゃあねえか?」
「なら、それまで待っとくわ」
冗談のつもりだと思うが、私は本当にそれぐらい生きられる。
その時――
「お嬢様!」
「ミサリー?」
突然大急ぎで走ってくるミサリー。
「ど、どうしたの?」
「大変です!王都が!」
「えっ――?」
その時、私の予感は最悪な事にあたってしまったようだ。




