鍛治師の元へ
日ノ本での任務が完了したというわけで、王国へ帰ることになった。帰るにあたって、私たちは集団転移を使って帰宅することにした。
圧倒的にそっちの方が速度が速い。いつになっても転移とは便利なものだ。
普通であれば、宮廷魔術師クラスが十数人単位で行う儀式魔法であるのだが、それを一人でできるようになったことで、やれることは格段に広がった。過去の自分を褒めてあげたいくらいだ。
ただ、転移の上位互換である「次元移動」という技を最近知ったことで、どうしてもそっちに目移りしてしまう。
《次元移動は時空魔法の中でも難易度の高い技の一つです。転移は空間を把握すればいいだけに対し、次元移動は時空間把握能力が必要となります。次元移動が転移より予備動作が少ないのは、時空間を把握し、数秒前にジャンプしているからです》
うん、やっぱり性能面だけで言えば、次元移動しか勝たん。
まあ、それはおいおい学んでいこう。将軍が友達?になったことで教えてもらうこともできるかもしれないし。
そんなわけで王国の公爵領に転移する。そこで一度レオ君たち3人を置いてきて、再度私は王城の玉座の間に転移した。
「ただいま戻りました、国王陛下」
「うわ!びっくりするじゃないか!」
国王の仕事は政治やら軍備やら多岐に渡るものの、その中でも象徴というのは大きい。よって王国の国王はこのように何もしないで玉座に座るのも仕事の一環なのである。とてもかわいそうに思えるのは私だけではないはず。
仕事すらさせてもらえない国王に同情しつつ、私は報告を始めた。
「日ノ本の内乱の鎮圧は終わりました」
「そうか、こちらも獣王国の反乱に勝利したところだ」
「あれ、マレスティーナはいないんですか?」
「あいつは……また何処かへ行ったよ。おそらく魔族領に戻ったのだろう」
元々マレスティーナこと大賢者に与えられた任務は魔族の動向を調査するために魔族領に侵入しろというものだった。これは、ほぼ永久的な任務であり、マレスティーナの監視があるからこそ、王国は魔族の襲撃に対応できる。
魔族側もそれをわかっているのかはわからないが、魔族が王国に攻め込んでくるというのはいまのところない。大賢者のネームバリューのおかげであろう。
「長らく拘束してしまった悪かった。もし、教師の職に復帰したいのであれば、直ぐにでも……」
そう国王は頭を下げた。しかし、
「いえ、それには及びません」
「それはどうしてだ?教師を続けたいのでは……?」
「私にはやるべきことが見つかりました……父様の捜索です」
「っ!」
国王と父様は仲の良い兄弟であり、つまり、国王も自らの弟の安全が心配であった。だからこそ、顔に緊張が走る。
「場所はわかるのか?」
「おおよその検討はつきました」
「どこにいる?可能な限りベアトリスが動きやすいように手配を回すぞ?」
「それはできません、なぜならこの大陸にはいないからです」
「大陸?なぜ、それを……」
国王はもうすでに冒険者本部から話を聞いているようだ。
「ご存知の通り悪魔は空を飛ぶことができます。別大陸に連れて行かれたという線は十分に考えられる話です」
古代クラトン大陸、こっちの大陸で絶滅したとされている生物の多くがクラトン大陸で暮らしている。そんなところで父様が生きているというのは信じがたい話ではあるのだが、私は一つ疑問を感じていた。
父様はSランク冒険者に発見されたと私は聞いた……なのにも関わらず、なぜその場で連れて帰ってこなかったのか?仮にも王国という巨大国家の公爵だよ?連れて帰ってこれない事情があったのかそんな余裕がないくらいに危険な場所だったのかはわからないが、どちらにせよ、
「私が父様を連れて帰ってきます」
「……わかった。兄として礼を言う。馬鹿な弟をどうか連れて帰ってほしい」
「もちろんです!」
♦︎
公爵領に転移すると、そこはもうお祭り騒ぎだった。
「二人とも!何が起きてるのこれ?」
レオ君とユーリを見つけて話しかける。
「僕たちが帰ってきたからってさ」
「私たちが?」
とても嬉しいことこの上ない。
「今日は授業の日だから生徒たちはいないとしても……」
なんだか行く時より人数増えてない?
「ふふん!それはおいらの頑張りだぞ!」
「ターニャ!」
後ろから声がしたと思ったらターニャが飛びついてきた。
「あはは……久しぶりだね」
「心配したんだぞ!ベアが危ない目にあってないか!」
まあ、一回死んだけど。
「死んだりしたらどうしようかと!」
死んだけど。
「ほら、私ピンピンしてるでしょ?」
「それもそうだね、ほらお祭りやるよ!」
連れて行かれた先にも、やっぱり街の住人の数が増えていた。ボロボロだった街にも家と呼べるものが何軒も建っているから、土木工事のために集めたのかな?
そう思ってターニャに聞いたが、答えはノーだった。
「もちろん街の復興っていう目的が大きいんだけど……最近この辺りで魔物が急増しているの。それも、前年比の三倍とかのレベルで」
「やばいじゃん!?」
「だからただでさえ、人が少ないこの街じゃあ対抗するのは厳しかったの」
鬼人たちは人間と比べ圧倒的に強い代わりに彼らは人数の母数が少ない。だから、大勢の魔物相手にはむしろ人間よりも不利に置かれてしまう。
「それ以外にも色々人材が足りてないんだよね。薬師とか商人とか、鍛治師とか……」
「鍛治師!」
「え、どうしたの?」
「実は武器を壊しちゃって……だから、鍛治師に修理してほしいんだよね」
「そっかぁ。でも、この街にはいないからなぁ」
「大丈夫、私がいい人を知ってるから。ついでにその人も街に連れてこようか?」
「そんなことできるの!?」
「大丈夫だと思うよ、だってその人森の中に住んでるんだもん」
そう言って、私はあのドワーフのもとへ向かうのだった。