将軍の末路は
「え、なあんで生きてんの」
自殺していたはず、いやそれよりも先に瓦礫に埋もれていたはず……ただの人間が重いが例を持ち上げることができるわけがない。
「あんた一体何者?」
まあ、正体などどうでもいいので、さっさと殺してしまおうとした時。
「ストップ!」
「ユーリ?怪我はもういいの?」
「うん、それはもうバッチリ!」
ユーリは先ほど将軍の攻撃を喰らっていたが、ユーリは腐っても元魔王だから、あの程度で死なないことはわかっていた。わざわざ先にユーリを退場させる……しかも殺さなかった将軍の意図は分かりかねるが、それも終わったことだ。
「で、どうして止めるわけ?」
構築した魔法を解除する。
「そいつは大臣じゃないよ」
「え……待って話が読めないんだけど?」
助けてツムちゃん!
《確かに大臣ではありません。魂の輝きが違います》
何それすごい、魂みえるの?
《大臣の魂は穢れに侵食されていましたが、今体内にいる魂は穢れが一切ありません》
要するに、
「あんた誰」
そうきいた次の瞬間、大臣の体が真っ二つになった。文字通り、体の真ん中からパッかんと割れたのだ。
「うぇ……」
と、最初は思ったが、何やらおかしい。体の中から白い光が漏れている。
一体何が起こっているのかと思い、中を覗き込もうとしたら中から手が出てきた。
「ぎゃああああ!」
その手は大臣の体を掴んで、脱ぎ捨てるように中から這い上がってきた。
「って、あんた!」
背中についた翼が大臣の体を吹き飛ばし、中から天使が出てきた。それも、
「将軍っ!」
「あ、お久しぶりです」
「どんなところから出てきてんの!?っていうか私今あんたを倒さなかった!?」
状況が全く理解できない、困惑しているのは私だけのようでユーリと将軍は平然としている。
「ユーリ、ちょっとどういうことか聞いてもいい?」
「ご主人様……あの、そもそも前提が違ったんだよ」
「前提?」
「この将軍?が、ボクらの敵だっていう前提が」
「え」
将軍の方に目をやるとこくこくと頷いているのが見えた。
「ええ、少しばかり利用させてもらいましたが」
「ちょっとどういうこと!?」
「もう疲れたんですよ、将軍をするのは」
将軍はいった。
「私は自由に生きろと前創造神に生み出されたはずなのに、なぜ女神の言うことを聞いて隔離されなくてはいけないのか」
「は、はあ……」
「私はもう自由になりたい、もう誰の命令も聞かない。だから、少しばかりあなたを利用させてもらいました」
「利用?」
「今さっき、私を倒してもらいましたが……あれは女神を騙すために行ったのです」
女神はこの世界に干渉はできないが、観察することはできる。女神は自身の部下が負けたと思い込み、将軍のことはすぐさま忘れ去るだろう。
「えっと……つまり、将軍はもう女神側じゃないってこと?」
「そういうことになりますね」
「女神に見つからない?」
「おそらくはもう大丈夫、女神は見た目で私を識別していたわけじゃないので。そこに転がっている大臣の魂を私が乗っ取りました。よって、女神の目には私がただの一般市民に見えるわけです」
の、乗っ取った!?
「そんなこともできるの?」
「仮にも私は長生きなおばあちゃんです。なんでもできます」
「お、おう……」
「それと、私はもう女神側についている天使ではありませんので、一言。もうあなたたちに敵対するつもりはありません。ですが、もしよろしければまた会いにきてもいいですか?」
将軍はそう寂しそうに告げる。
あれ、将軍が捨て猫に見えてきたぞ?おかしいな……こんな化け物ステータスの猫がいてたまるかって感じだけど可愛く思えてきた。
「そんなの全然いいよ。元々、私は将軍にいろいろお世話になっていたしね」
「っ!」
「また一緒にお店回ろうか」
「感謝します」
心なしか将軍が笑っているように見える。
と、そんなことをしている間に、野次馬がたくさんこっちを見ていたようだ。
「うわー、その翼もうみんなにバレちゃったけど?」
「問題ありません、私は幻覚を見せるのが得意なので彼らには翼は見えてません」
「そうなんだ」
ってことはさっきまでまだ手加減されてたの?いや、それは考えないでおこう。
《将軍のステータスは測定不能……おそらく主よりも高い数値なのでしょう。それに対抗できただけで十分かと》
慰めありがとツムちゃん。
「あ、お兄様方」
野次馬に気付いたのか、お兄様方一向がこちらにきていた。酒場を一つ粉々にしてしまったのもあってか、怒るかなと思ったが……何やら頭を抱える様子。
あ!お兄様は将軍の顔を知っているんだった!
「大丈夫でござるか!」
「あ、蘭丸さん」
蘭丸さんがこちらへ寄ってくる。
「ひどい有様ですが、何があったのでござるか?」
「あーちょっと色々……」
どう話を誤魔化そうと思って、ふと将軍の方を向いた。
「あ、蘭丸さん。この間、将軍様に会ってみたいと言っていましたよね?」
「へ?ああ、そんなこともあったでござるなぁ」
照れたように頭を掻きむしる蘭丸さんを将軍の前にぐいんと引っ張る。
「蘭丸さん、こちら将軍様です」
「え?」
蘭丸さんは驚いたように、将軍の顔を見つめる。
「あなたは?」
将軍は優しい声音でそう聞く。
「ら、蘭丸でござる……」
蘭丸さんはひどく赤面している様子、クーっ!青春って素晴らしいねぇ!?
そんなことを考えていたら、将軍がいきなり蘭丸さんの肩を掴んだ。何をするのかなと思って見守っていたら、まさかの予想外のセリフがその口から飛び出したのを聞いてしまった。
「一目惚れです」
「「「え?」」」
「蘭丸さん、私と付き合っていただけませんか?」
「「「ええええええええ!?」」」
「はい?どういうことでござるかぁ!?」
当の本人も状況が掴めていないようで、困惑している。将軍の方を見ると、私はこんな将軍の顔を初めてみた……なんと、顔が紅潮していたのである。
「これが、人間の感情というものですか、とても心地いい。蘭丸さん、あなたは私の理想の人です。どうか気持ちを受け取ってほしい」
「え、え?」
《天使には基本戦いに邪魔になる感情は全て抑え込まれるように種族特性が定まっていますが、将軍は座天使でありながら人間の魂を使って生き残ったため、人間のような喜怒哀楽をうまく表現できるようになったのでしょう》
いや、そういうことじゃない!
「あの、将軍?それまじ?」
「マジです。私にだって、好みはあります」
「あーそうですか……」
なんだかよくわからないけど、一件落着?なのか?
こうして、日ノ本の反乱は幕を閉じることになった。