力の引き出し
そこから将軍の無双が始まる。
マナブレードによる高速の斬撃は、一撃たりとも掠ることはなく、気づけば将軍の手刀が迫っており、それをギリギリで回避する。当たれば即死、そして速度は向こうが圧倒的に上。
冷や汗が止まらない。
少し次の行動を考えている間に距離は詰められ首元に刃が置かれるのだ。ユーリのカバーがなければ軽く十回は殺されている頃である。
鋭い大鎌の刃が複雑な軌道を描きながら、私に向かって連撃をお見舞いする。
(左……次は右!)
即座に回避するが、顔を少し掠った。
「うっ……」
少しの判断ミスも許されない。どんどんと将軍の攻撃は複雑になっていく、まるでさっきまで手を抜いていたかのように。
フェイントを一つ読み間違えればそのまま死ぬ。もう、幻花はない。
次はもう確実に死ぬ。
十メートルほど先で将軍が大鎌を振り上げている。ユーリの風魔法が足元を狙うが、将軍はそれを飛び上がって回避し、私の炎が将軍を中心に広範囲を包み込む。
が、
「おいそれと喰らうわけにはいけません」
背中にある翼が魔法を吹き飛ばす。そして翼の推進力でさらに加速した将軍の一撃が私に迫る。
とっさにマナブレードを作り上げ迎え撃ったが、所詮は即興で作った武器。将軍が扱う大鎌に当てられ、一瞬にして粉々に砕けた。
「ご主人!」
体勢を崩した私と将軍の間にユーリが入り込む。
「邪魔です」
ユーリの軽い体は吹き飛ばされ、外壁にぶつかり顔を歪める。
「先にあのキツネを殺しましょうか」
「え、ちょっと!」
将軍を止める間も無く、その場から姿が消える。次に目にしたのは、ユーリの体に大鎌が当てられている情景だった。
(だめ!私はどうなろうといいけど、ユーリは……!)
すでにボロボロな体はあまりいうことを聞いてくれない。
「さよなら、魔王」
「っ!」
目の前で将軍が至近距離で魔法の構築を始めた。一瞬で、魔法は構築され、そしてまた一瞬でそれはユーリに直撃する。
それを見ていながら、私は止めることができなかった。
「ユーリ!?」
煙でよく見えなかったが、確実に無事では済まなかったはずだ。
《大丈夫、まだ息はあるようです》
その報告を聞いても私は安堵できない。
「どうして……」
私が少しパワーアップすると、それを上回る敵が必ず現れるのだろうか?少し強くなって、今まで苦戦していた敵にも勝てるようになって……そしたらそれを超える難敵が出てくるの?
だが、これは私にはどうしようもない。
今まで生きているのが奇跡なのだ。もうここに普通の公爵令嬢の生活なんて一ミリもない。
だが、私にとってはこれが普通。目標はあるけど、いつ死んでも後悔のないように生きているつもりだ。
だが、
「仲間を傷つける奴は絶対許せない!」
それだけは許せない!
「だったら、あなたがなんとかすればいいじゃないですか?それができなくては、あなたは私の『友人』のようにはなれません」
将軍がカツカツと足音を立てながらこちらに迫ってくる。その時、
《久しぶりに出番かしら?》
頭の中に不快な声が響いた。
(うるさい、出ていけ)
《あらぁ?そんな口聞いていいのかな?このままだとあんた死んじゃうよ?》
私はどうなろうと関係ないの。そして、言っておくけど私は負ける気なんて微塵もないのだ。
《本当に馬鹿だね、実力差わかんない?》
私は持っているもの全てが力だと思っている。
《急に何?》
だから、あなたのような力も私は武器として使うわ。
何度も何度も私はこいつに体を預けたことがある。それは仕方ないにしても、力を得るためだった。
体を預けるたびに理性を失ったりしたが、感覚はずっと残っていた。力を受け取る感覚だ。
その感覚は今でも覚えている。無論、『力の引き出し方』も。
《……っ!お前ぇ!》
将軍の足が止まった。
「何が……」
困惑している将軍を尻目に私は体の奥底にある『力』を引き出す。
(今まで乗っ取られた時、どうやってパワーアップしてたのか疑問だったけど……どうやら元々私の力だったみたいね)
何度も体の奥底から引っ張り出される感覚を味わってきたんだ。もう、一人でもできる。
《主、その力は……?》
珍しくツムちゃんが困惑している。
《おかしいです。こんなこと『世界』ですら認識していません》
体が充足感に包まれる。だが、今はまだ完全に自分の力として扱えていない。
「無理やり引っ張り出しただけだからね……維持するだけでも神経が擦り切れそう」
「あなた、どこからそんな力を?そんな……ドス黒い力……」
「さあね?私にもよくわからないけど、使うものは全部使うよ?だって……あなたは私の友達を傷つけたんだから」
もう許さない。
全身から溢れる魔力をマナブレードに変形させる。
「次はもう負けない!」
「ふん」
再び急速に間合いに入ってきた将軍。その動きを捉え、マナブレードを叩きつける。
「なっ……」
大鎌で粉々にするつもりだったのだろう将軍が初めて顔の表情を変えた。粉々にするはずだったマナブレードは健在であり、その代わり大鎌が振動し、将軍の手を痺れさせたのだ。
ツムちゃん、サポートよろしく。
《お任せください。攻撃の最適化、将軍の攻撃パターンの解析は終わっております》
そんなこともできるのだからツムちゃん様様である。
そして、再び戦闘が始まるのだった。




