名持ちの天使
投稿がなかなかできずにすみません!
「さて……」
もう見慣れた感がある将軍の顔がそこにあった。
状況が掴めていなさそうに、大臣と私を見比べている。
「え、あなたですか?私が仕事を押し付けた人を殺そうとしたのは」
「まあ、そうなるね」
しばらくの間、将軍と私はにらみ合う。大臣の死体をちらりと見た後、体を横に逸らした。
光の閃光が私のいた場所を通過し、壁に穴を空けていた。視界の端に将軍がもう一度閃光で攻撃しようとしているのを捉え、お兄様の使っていたミストの魔法を展開し、将軍の懐にもぐりこむ。
魔力で身体強化を行い、更にその上から魔力で拳を覆った魔力撃でアッパーを仕掛けるが、それは将軍の掌で受け止められた。衝撃でミストが一気に吹き飛んだ。
「一応、女神様から任された仕事なので、いくらベアトリスでも殺すしかないようですね」
「あらそう?せっかく、仲良くなれそうかなと思ったのに」
そう、嫌味のつもりで言った言葉に将軍が若干反応する。その隙を見逃さず、空いている手で大剣を召喚し振る。
《次元転移、六時の方向です》
背後に向けて大剣を振り下ろすが、止められると同時に将軍の鎌が横なぎに振るわれる。大剣を盾に変換させることでそれを受け止めた。
「将軍がこっちに来るとはね、驚きだけどこの街で私を殺せると思わないことね」
こっちには今ユーリもいるのだ。他のみんなはまともに戦えるかは正直わからないが、ユーリと私の二人でかかればそんなの関係ない。
「ほう?」
その瞬間、背後から何かが将軍に向かって飛んでくる。大鎌で将軍はそれを斬りつけたが、飛んできたそれは大鎌を足蹴にくるりと私のいる方向に着地した。
「ユーリ!」
「なんだか、懐かしい魔力だと思ったら……」
「え、知り合い?」
ユーリはため息をつきながら、将軍の顔を見ている。
「驚きました、こんなところに魔王がいるとは」
「もう魔王じゃないよ、今はご主人様のペットだよ」
「ペット?それに、その呪いは?私が引きこもっている間に色々と変わったようですね」
「ちょっと待って!二人とも知り合いなの?」
ユーリにそう問うとユーリは苦々しい表情で答えた。
「あれは、ボクが唯一倒せなかった座天使なんだ」
唯一?
「って、ちょっと待ってそれ昔のことでしょう?ユーリが弱体化する前に倒せなかったの?」
呪いのせいで力が半減していたとしても座天使には勝てるといっていたが……。
「あれは『名持ち』の天使だ」
「ネームドってこと?」
《通常、名前を与えられるのは最高位の天使である熾天使のみですが、彼女は特例のネームドであるようです》
ネームドであるそれすなわち、強い。
「私が相手をするのは二人だけですか?なるほど、では同時に相手をさせてもらいます」
将軍が視界から消える。手合わせをした時とはけた違いの速度で大鎌の攻撃が直撃し、思わず顔を歪めた。
ユーリはそれをどうにかうまく避けたようだが、私は脇腹に鈍い痛みを感じる。大鎌の追撃を避け、転移で距離を取る。
ユーリが背後から将軍を狙う。片手であしらうかのように軽く受け止められるユーリの攻撃だが、
「追加だよ!」
背後から炎弾が現れ、将軍に向かって飛んでいく。それに合わせて私もここら一帯に結界を張った。
炎弾が将軍に直撃し、煙が吹き上がる。
《後ろです》
っ!
「そこ!」
煙で悪い視界の中、私目掛けて寸分たがわず振られた大鎌を大剣で逸らし、斬り返し。将軍の体に大剣が食い込むが、
「ちっ」
将軍の体は思った以上に硬く、大剣はそれ以上先に刃を進ませられなかった。
「黒炎」
食い込んでいた大剣が突然黒い炎に包まれる。それに触れないように私も急いで手を離した。
「しゃがんで!」
ユーリの声が聞こえ、私は姿勢を低くする。頭上から、水魔法が飛来し、同時に空から雷が将軍を打った。
将軍は水魔法を風魔法で払いのけ、大鎌を天に向かって振った。雷はそれで真っ二つに切られてしまった。
「私の大剣が……」
大剣はすでに燃え尽き、修復が難しい段階までボロボロになっている。
ユーリが隣までやってきたと同時に、将軍が大鎌を振り下ろした。ユーリが結界を張って防ぎ、その間に私が横から飛び出しマナブレードを生み出してそれを将軍に向けて投げる。
それを目にもとまらぬ速度で回避した将軍に、ユーリの放った魔法が直撃した。
重力魔法で、将軍とその周りの重力は通常の千倍ほどになったが、将軍はいまだに立っている。すかさず、マナブレードをもう一本生み出し、結界で重力魔法を受けないよう加工した後放った。
それを軽く体を横にずらして回避する将軍。
「準備運動はこれくらいでいいですか?」
突如として、将軍の魔力が膨れ上がる。私の張った結界にひびが入り、すぐにパリンと音を立てて割れてしまった。
地面は揺れ、将軍を中心に亀裂が入る。
全身を巨大な魔力に当てられ、軽く気分が悪くなる。
「さて、そろそろ本気でいきます」
瞬間、私は地面に伏していた。何も見えなかった。
いや、残像だけは見えたのだが、将軍が地面を軽く蹴ったと同時に、次の瞬間には目の前あと数センチのところで見えた。
顔を地面に押さえつけられ、それを抜け出すために転移を使ったが、転移し終えた時にはすぐ目の前に将軍がいた。
ユーリが目の前に飛び出し、代わりに私から攻撃を防いでくれる。
「ユーリ!」
「大丈夫」
吹き飛ばされたユーリの腕には大鎌の切り傷がはっきりと見える。かなり深くえぐられたようだ。
「正直、気乗りはしませんが……終わらせましょう」
将軍は淡々とそう言った。