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嘘から出た実

 元々才能が豊かだったお兄様はあっという間に実力をつけていった。流石にステータスはそこまで上昇はしなかったものの、戦闘訓練にしてはとてもいい収穫になったのは間違いない。


 まず初めに弱点が減った。魔法構築と肉体運動を同時に行うのは難しいことのはずなのだが、お兄様は結構すんなりと会得していた。


 魔法の使い方も色々と増えた。元から目くらましに使ったりしていたのだが、それが進化して軽い発光を起こせるようになったのだ。


 光魔法ではない、太陽の光を反射させているのだ。これによって、目くらましの効果が増えると同時に、外側から見ているお兄様には相手の位置がスポットされているのと同義。


 つまり、魔法の命中率も上がったのである。


「これだけ戦えればSランクなんてすぐね」


 元よりステータスではAランクトップなので、冒険者になっていればSランク入りは間違いないだろう。


 Sランク冒険者って私とかミサリー……身近なところに二人もいるから感覚が狂うかもしれないけど、この広い世界でたった数人しかいない超エリートなのである!


 というより、レオ君やユーリはそこら辺のSランク冒険者なんかより強いため、Sランクという指標は当てにならないと最近感じてきたが。



 ♦



 お兄様の訓練が終わった後、街から離れたところで戦闘を行っていたのにも関わらず、ユーリたちに訓練していたのがバレてしまった。


「探知にずっと引っかかってたよ」


 だそうである。


 忘れちゃいけないのが、このクリクリの目でこちらを見つめてくる愛らしい少女の姿をしたユーリ(男)は魔王だったこと。


 首を傾げるようなしぐさをするな!可愛いなおい!


 《また負けましたね》


 なにが!?


 っていうか負けてないし!


「ご主人様?」


「えぇい!ユーリは今日ご飯抜きよ!」


「ええ!?なんでぇ!?」


「なんとなく?」


「理不尽!」


 ユーリによっていろんな人に私がお兄様を訓練していたことがバレされた。ライ様にも、


「義妹殿やっぱりとっても強い!」


「あはは……」


 無駄に羨望の眼差しを受ける羽目になった……これは大いなるプレッシャーに過ぎないのだよ!


 と、一時の平和が街には訪れていた。私の内心は平和ではなかったけど。いまだに街に出ると英雄扱いされる。


 貢献度でいえば決して高くないんだけどな。


「そういえば最近、冒険者組合の依頼書ないわね」


 冒険者組合に足を運んだ私はそう呟く。すると、受付さんが答えてくれた。


「最近はここら近辺で地震が多いらしく……魔物も寄り付かないんですよ」


「ア……そうなんですね」


 確実に私たちの工作活動である……。


「あ、でも依頼ならありますよ?」


「依頼あるの?でも、ボードには何も張ってないけど」


 依頼というのは基本依頼板という板に依頼書が張り付けてあり、冒険者はそれを引っぺがして受付に提出する……これで冒険者の仕事が始まるのだ。


「たしかここのあたりに……ありました!」


 そう言って取り出した紙には、Sランク用という文字が見えた。


「これは……」


 急募『謎の仙女の調査』


「場所は都近辺って……」


「そうなんです!どうやら将軍様と殺し合いをなさったという仙人が出たらしくて!」


 あ……


「その余波で山が壊れたとか!」


 修復した……と言っても、それは見た目を取り繕っただけに過ぎない。破壊した後までは完全に消せないのだ。


「なんか……ごめん」


「はい?なんか言いましたか?」


「いえ!何も言ってません!この依頼は謹んで私が拝命します!」


「どうしてそんなに力んでいるんですか?」


 これ、ここに乗っている仙女ってまんま私じゃねえか!どうしてこうなった……適当にその場で話を合わせるためについた嘘が、どうしてこうも大事になってあらわになるのだ!


 幕府軍の人たちが一番納得しやすい回答をして、その場を乗り切ったが……今度はうわさがここまで広がるとは思わなかった。


 それだけ幕府軍は私のこと……というよりも、その謎の仙女のことは危険視しているようだ。光栄なことととらえるべきなのかもしれないけど、これは一刻も早く私が納めなくてはならない。


 なぜなら、仙女なんていないのだから。


 冒険者は依頼を失敗すると、組合からの評価と周りからの評判が落ちる。ありもしないクエストで誰かが不幸になるかもしれないと……そんなの絶対にダメだ!


 幸いこれはSランク冒険者限定のようだし、被害者が出る前にさっさと引き受けてしまおう。


「はい、これ。Sランク証」


「わぁ……こうやってみると、やっぱりSランク冒険者って感じがします!」


「どういう意味です?」


「だってほら……ベアトリスさんって妹みたいな感じじゃないですか?だから……失礼ですが、強そうには見えないのです」


「なっ!?」


 確かに私は末っ子だが、強そうに見えない……いや、わかっていたことだけど、面と向かって言われると結構傷つく。


 というより、受付さんメンタル凄いな。私が怒るとか思わないのだろうか?


 多分なんも考えてないんだと思う、そういう顔をしている。


「大丈夫です!こう見えてSランク冒険者の中でも強い方だと思うので!」


「そうですね!では、頑張ってください!あ、期限は二週間です!それまでに成果がなければ依頼は失敗扱いになります」


「わかってる。じゃあ、行ってきまーす」


 そういって私は堂々と組合を出た。


 これだけ、さも当然にクリアできるという風に組合を出てしまっては失敗することはもはや私のプライドが許さない。


 ということで、この依頼は絶対にクリアする。


「嘘から出た真ってことで……どうにか頑張りますか」

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