先生の次は……
更新が遅くなってすみません!
大臣が来るにあたって私たちはまた忙しくなった。暇そうにしていた私が言うべきことじゃないが、証拠隠滅には私も協力できることがあったのである。
現在作成中のでこぼこ台地には幻覚魔法&適当な土を敷き詰めて立体感を作り、ミサリーを呼び戻して一時的に帰還させる。
将軍は基本自室に引きこもっているとのことなので、実質的な政治のトップは大臣であり、それらすべての権利を委任された大臣が好き勝手しないわけない。
天使と人間は違うのである。女神の命令に忠実……なのかは疑問が残るが……な天使と私利私欲にまみれた人間。
私はまだステータス種族的に人間であることを信じている。
《諦めたほうがよろしいのでは?》
そういわけにはいかない。気づかぬ間に『人』生が終わってたなんて少し悲しい。
私は自分のステータスが解析鑑定できない。その理由はツムちゃんも把握しかねることらしい。
《世界の言葉の代弁者、言葉を紡ぐ者としての私が知らないということは明らかに、『世界』が感知しかねる何者かが干渉したということでしょう》
つまり、怪しいのは女神陣営。
《女神は地上に降り立ち、歴史を変えるようなことをしでかすことはできませんが、人っ子一人に対し嫌がらせ程度なら何の問題もなくできます》
女神がそんな小細工するか?
ステータスがいつの日か見れるようになるまでの間、私は人間だと信じている。
そんなこんなで大臣を迎えるまでに証拠隠滅をしてしまおうと忙しくしていたころに、お兄様が私の元を訪れた。
「私の実力を見てほしい」
「へ?」
「今の私は未熟であると洗脳されたときに思い知らされた。自力で洗脳を解いたあの二人に対し、私は最後まで洗脳されっぱなしだったことがどうも心に引っかかるんだ」
あの二人って……ユーリとレオ君でしょう?レオ君はともかくユーリみたいな元魔王が途中まで洗脳に気づけなかったんだからぶっちゃけしょうがない気もするけど……お兄様がこんなお願いをしてくるとは。
妹としてとても嬉しい!
「勿論です。でも、お兄様は自分を卑下する必要はないですよ?」
お兄様だってAランク冒険者トップクラスの実力者だ。相手が悪かったとしか言いようがない。
ユーリより長い時を生きる仙人だったんだから。
♦
平原にはあまり優しくない水しぶき合戦が行われていた。優しくないというのはその威力がだ。
ビーチとかできゃっきゃうふふで男女がするような水鉄砲とはわけが違い、地面や石が水によって粉々に砕かれる。それを行っているのはもちろんお兄様であった。
お兄様の得意な魔法は水魔法。風も得意らしいが、一番は水だと聞いた。
本来魔法使いは一つの属性しか扱えないらしいが、お兄様のように複数の属性を扱える存在は稀らしい。
お兄様の場合、『ダブル』と呼ばれる。
ミサリーはシングルの魔法使い、風魔法オンリーということだ。
え?私?
全属性扱えますけど?
お兄様の魔法は水を一点に集中させて攻撃するのが主な戦闘スタイルだった。細かく言えば、水を細かく霧状にし、持ち前の戦闘の勘で相手の場所に向けて貫通の水魔法を放つ。
格下相手ならこの戦法でいちころ、ただし探知魔法使いを除くが……。
私の場合は、勘で避ける・探知魔法を使う・魔力感知を使う・ツムちゃんが教えてくれる等々、避けようはいくらでもある。
いくら威力が高い攻撃だとは言っても攻撃範囲が狭ければ自分より強い敵とは戦えない。
霧を晴らすかの如き風魔法が起こり、その霧はお兄様の意思で形を変え、貫通力に特化させた氷柱のようになる。
それが竜巻となって私を囲んだ。
「これが今の私にできる最高の攻撃だ」
風と水を合わせた複合魔法。竜巻だけでも十分な殺傷能力はあるものの、そこに氷柱が飛び回ることでどれか一つにでも当たれば動きが鈍り、その後ずたずたに引き裂くことが出来る。
竜巻の中に入ってしまえば、高強度の防御を張らなければ切り抜けることはできないだろう。
ただ、ちょっと妹を信用しすぎでは?私がただのか弱い妹だったらとっくに死んでるところだよお兄様!
《一度生き返った人が何をいまさら》
うぐっ……。
とにかく!お兄様の魔法は決して悪くない。肉弾戦もできるお兄様にとっては相性がいいかと聞かれればわからないけど、噛み合っているとは思う。
しかし……
氷柱の一本が体に命中する。だが、それは傷すらつけることを許されずに粉々にされた。
そもそも論として、皮膚が高強度な私には効いてない。
こっちの番と言わんばかりに、風魔法で竜巻を吹き飛ばす。
「弱点一つ目、霧と竜巻の中は視界が悪く、相手が何の魔法を準備しているかがわからない。弱点二つ目、同じ属性同士でぶつかった時、押し負ける可能性がある。弱点三つ目、貫徹力はあってもそれは一定の強さの敵に対してだけ効果がある」
一つ目はそのまま、二つ目は竜巻という風魔法を拡散させて起こす魔法は一点集中で練り上げた同じ風魔法で簡単に押し負けるということ、三つ目は今私が体験した通りだ。
魔族龍族あたりには効き目が薄そうである。
私に効かなかったことはこの際置いておくとして、問題はそのくらいかな?
「なるほど……戦ってみて思ったが、近接戦の回数が少なかったように思う。やはり魔法と近接戦を行うのは必須条件だろうか?」
「必須ですね。同時に行えない人にとってはいい一手になるし、Sランク冒険者くらいになればみんなできると思うから」
ステータスがいくらSランクに近くても力の扱い方、もとい戦闘に慣れてないと意味がない。
「よくわかった。参考にさせてもらうよ、『師匠』」
「し、師匠と呼ばないで!」
「では何と呼べと?私に戦闘の術を教えてくれる師匠だろう?」
「くぅ……」
《先生の次は師匠ですか……》
思えばエルフの森では教官をやっていた。もしかして、私教師職に縁があるのかしら?
「つ、次の反省を生かしてもう一戦行くわよ!」