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騎士と少女

獣王国国王視点です

「反乱軍大将であるライオン種の獣人の身柄は確保しました。これで残党はすぐに鎮圧が可能です」


「そうか」


 執務室でそう文官から報告を受ける。それはつい最近起きた我が獣王国での反乱の話であった。


「協力してくれた王国には感謝しなくてはな」


 我々だけでは手を焼いていたのは明白だ。ステイラル王国は我々の友好国であり、我々とは治めている所属が違うがゆえに軋轢がないとは言えないが、私はそれを失くそうと努力してきた。


 利己的な理由だけではない……のだが、今回は最大限に利用させてもらった。


「圧巻でしたね、世界でただ一人の大賢者というのは」


 大賢者という称号は、王国所属のマレスティーナという女性のためだけに作られたものである。


 魔法使いと魔術師の職を両方修めた者を魔導師と呼び、魔導師を修めた者を大魔導師と呼び、大魔導師を修めたものを賢者と呼ぶ。


 その更に上が大賢者という位置づけだ。


 通常、凡庸な才能の持ち主は魔法使い、魔術師のどちらかを修めるに終わるが、マレスティーナという名の女性はそれらをはるかに飛び越えているのだ。


 現に戦場を目にしていた騎士たちは口揃えて敵には回したくないと言っていた。


「貴族の子息にはいい勉強になったことだろう」


 今回の戦いには一部の貴族の子息たちを参戦させた。その理由としては、早いうちに戦場を体験させるということ、そして一種の挑発だ。


 貴族が王の立場を狙うことはよくあることで、その貴族たちへの挑発……逆らったら子供を戦場に送るぞという意味合いでの狙いもあった。


 ただ、公爵家嫡男のルイスは死なせる気は毛頭なかったが。自分の息子のシルと仲の良い少年には、死んでもらうつもりなど毛頭なかった。


 では何で戦場に出したのかといえば本人の希望だったからだ。なんでも、シルと同じく急に剣の道に目覚めたのだとか。


 実力はシルのほうが上だが、戦場に出ようとするくらい熱中しているのだからその心意気は賞賛に値する。


「志願して本当に向かった時は肝が冷えたが……よかった」


 貴族の子息で死んだ者はいなかった。


 書類に目を通しながら、戦死者欄のページに来る。


「ん?」


 思わず疑問の声を上げた。


「どうされましたか?」


「この戦死者の数、可笑しくないか?なぜ中央戦線の死者が一番少ない?」


 本来であれば中央に行けば行くほど戦闘は過激になる。右翼、左翼……どちらを崩されても戦線は瓦解するだろうが、中央を突破されることが一番恐ろしい。


 だから、敵も中央を食い破ろうと必死になり、死者は多くなるはずなのにも関わらず、右翼左翼を合わせた死者数よりも少ないではないか。


「マレスティーナか?流石に人間離れしすぎだろう?」


 そこまでだったら、王国には怪物がいるのだなという感想で終わったのだが、文官は顔を引きつらせた。


「実は、それは獣王国の騎士団のメンバーの活躍がでかいとの話でして……」


「なに!?」


 我が国にそこまで腕の立つ奴はいただろうか?いくら強くても、戦場を一人で受け持つような奴は我が国の騎士団にはいなかったはず……。


「それが……ベアという名の騎士でして」


「……はは!あやつか!」


 二年ほど前に突如として現れて突如として姿を消した騎士である。騎士団長の紹介で会ったものの、その時から違和感を感じていた。


「やはりただものではなかったか。それよりも、この二年の間どこに行っていたんだ?」


「それが、戦場に現れたと思ったら、すぐに姿を消してしまったようでして。また消息不明です」


「なるほど、面白い」


 二年前に現れたベアトリスの当時の目的はもうすでに調べがついている。当時侯爵だったとある人物が国家転覆を密かに狙っていたと。


 それを阻止したのが同じ名前の人物だったことは証言が取れている。


「救世主か何かなのか?」


「いえ……ですが、その実力はもはや疑いようのないものになったようです」


「どういうことだ?」


 引きつった顔をしていた文官は遠い目で答えた。


「何があったのかは不明ですが、大賢者マレスティーナ様と戦闘になったようです」


「はっ?」


「二人は昔からの知り合いのように気さくな態度で話していた……と。内容までは聞こえませんでしたが」


 マレスティーナと知り合い?その時点でもうベアの重要度は格段に上がった。


 と、それよりも。


「戦闘だと!?ベアは死んでないだろうな!?」


 称号や二つ名持つものは英雄として語られ、その中でも大賢者は不敗の存在として名高い。そんな生きる伝説と戦ったということは生命の危機であることと同義。


 少なくとも私はそう思っていた、だがそれは違ったらしい。


「その実力はお互い互角。攻防を見切れたものはひとりとしていませんでした。ただ、わかったのは無数の魔法が展開され、その最中に激しい近接戦が行われたということだけです」


「ご、互角!?」


「互角です」


「嘘だろ?」


 それはつまり、ベアは生きる伝説と互角に渡り合うことが出来る実力があるということ。


 一国すら簡単に滅ぼせるほどの実力者であるのだ。


「して結果は?」


「マレスティーナが最初に膝をついたかのように見えましたが、最終的な勝者はマレスティーナ様だったようですね」


「それでもおかしいぞ?」


 互角に戦い、最初に膝をつかせたのだ。異常以外の何物でもない!


「ベアとは一体何者なんでしょうか?」


 文官はそういった。確かにそうだろう。


 何も知らない人であればその存在が今までどこに隠れていたのかと不思議がるはずだ。


 だが、私は知っている。


(王国には隠し玉が何個あるんだ……)


 十年以上も前のこと、ベアトリスという名の少女が我が地に一度足を踏み入れた。と言っても、国境ギリギリでお昼寝をしていただけのようだが。


 ベアトリスという少女の英雄譚のようなものは王国ではかなり有名だ。


 それとベアと何の関係性があるのかと聞かれれば特にない、私の勘だ。だが、ベアは()()をしていたようだし、あり得るかもしれないだろう?


 王族に受け継がれている魔眼からは逃れられない。すべてお見通しだ。


「ふふっ」


 そういえばベアトリスの生存が確認されたと王国では言われていたな。王国が国民の士気を高めるためのプロパガンダかとも思ったが、どうやら違ったようだ。


 ベアトリスという一つの障壁がなくなったと敵対国はどうやら喜んでいるようだが、ここは王国から受けた恩を我々も返すべきだろう。


 たとえ、ベアがベアトリスと同一人物ではなかったとしても、王国にとっては恩返しとなりうるのだから。


「よし、翌朝の新聞に掲載しておけ。ベアトリスは生きていると」

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