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遠い道

フォーマ視点です

 それは笑いが込み上げてくるほど、訳のわからない光景だった。


「ははっ、こんなに遠かったの?」


 私は、ベアトリスの仲間になって……そして、悪魔の少女と敵対した。その時から、私は強くなってベアトリスの負担を減らせるほど、いやベアトリスよりも強くなって手助けをするつもりだった。


 マレスティーナからベアトリスは無事であるという報告を聞き、マレスティーナの元で鍛え直してもらい、この二年間で強くなった。


 それもだいぶ。


 マレスティーナの反則的な未来視という力と似たような能力を持っている私ならきっともっと強くなれる……そう信じてきた。


 だけど、私が目指していた先にいる二人は、私が思った以上に遠い場所にいたようだ。


 目の前で繰り広げられる有り得ないほどの弾幕と同時並行で行われる近接戦闘。


 一般人は一つ、宮廷魔術師でも三つほどが限界と呼ばれる魔法の起動を1000近く同時起動させながら、マナブレードでベアトリスに斬りかかっているマレスティーナは異常の一言だが、それよりもさらにすごいのはベアトリスである。


 まるで後ろに目があるかのように完璧な軌道で魔法を避けつつ、マレスティーナの優勢であるにも関わらず、臆することなく攻撃を仕掛けている。


 魔法の同時起動なら私だって百個程度余裕で出せる。だが、それを全部避けられる自信はない。


 魔力感知という魔力の動きを感知するスキル、または魔法を使えば魔法の軌道を把握することができるが、それにも限度というものがあるのだ。通常では近くすることのできない魔力を有り得ない量全てを視認するなんて絶対に不可能なのだ。


 どれだけ頭が良くても、脳が大きくて処理速度に長けていて、なおかつ天才だったとしても……有り得ないのだ。人間では絶対にあり得ない芸当なのだ。


 生物学的に絶対に不可能なことをベアトリスはやってのけているのだ。そして、避けながらも大剣と鎧を着込み動いている……疲れる様子すら見せずに。


 マレスティーナの動きを注視して観察すると、額には若干の汗が滲んでいる。理由は明白、魔法の同時起動もまた脳に負担をかけるからだ。


 ただしそれは人間が耐えうる負荷の範囲内だが。


 不可能な芸当を繰り出しながら余裕綽々と攻撃を重ねているベアトリス、その姿を見ると自分はちっぽけに思えてくる。


 自分が目指す先はここまで遠くに行ってしまった……この二年間で私は置いてかれたのだ。


 だったら、どうするべきか?


 いきなりはじまった戦いはいよいよ終盤を迎え、ベアトリスが悪魔の少女と戦った時と同じ技を使った。


 悪魔の少女の権能である『支配』


 それは一定の範囲の空間に存在する全てを悪魔の少女の意識下におくことができる……要するに、その空間内では悪魔の少女こそが『神』なのだ。


 無限に増える魔力だって生み出せるし、空間内にいる人物をなんの動作も必要とせず殺すことができる。


 そんな本物の化け物を数秒間ながら停止させた能力だ。それはもちろんマレスティーナにも有効だったようで、魔法の制御を奪われた魔法がマレスティーナに向かって飛来する。


 魔法を制御して、脳が疲弊しているところに数百の魔法が自分に向かって飛来する……避けられるほどの余裕はなく、マレスティーナは仕方なく結界を使って受け切ることを選んだようだ。


 そこに加えてなぜ勝手に動き出す大剣。


「新しい能力?」


 見たことなかったが、ああいう芸当もベアトリスにはできるのかもしれない。うん、もう常識なんていらない。


 そして、ベアトリスを中心にあり得ないほどの魔力が収縮していく。空気中にある熱エネルギーさえも吸収し、私がいるところまでに冷気が広がっていく。


 近くにある陣の中にいる兵士たちは凍え死にそうな顔をしていた。


 爆発的な魔力は止まることを知らない。


「これは……私の何倍ある?」


 魔法使いにとって魔力量は攻撃力に直結しうるところがある、故に実力差が何倍分もあるとも考えられた。


 極限まで圧縮された凶悪な魔法が放たれた。


 その動きは全く私の目には追いきれずに気が付いたら、マレスティーナのいた場所にとてつもない爆発音と共に爆風がこちらまできた。


「なっ……」


 これは腐食の効果が混ざっているのだろうか?肌が燃え、なおかつ腐っていくように変色していく……こんなに遠くにいるのに、ここまでのダメージを喰らうなんて……。


 弱々しい兵士たちの方を見たら、その人たちはすで寒さに耐えきれずに退避していたので、助かったようだ。


 爆風だけで私の肌が焼ける……ではその中心にいたマレスティーナはどうなったのだろうか?


 まあ、結果としては生きていた。だが、ボロボロの状態だったようだ。


 それはそうだ。あれで、無傷だったらむしろ、化け物どころの話ではない。怪物である。


 両者一歩も譲らない戦いはベアトリスの勝ち……と思ったが、後ろから現れたもう一人のマレスティーナがマナブレードをベアトリスに突きつけたのを見て、勝敗は察した。


 だが、あの攻撃をもしまたもに喰らえばマレスティーナでさえ即死していただろう……それだけの攻撃手段をベアトリスは持っているのだ。


(これは……顔は出せない)


 強くなってベアトリスの元に戻る。私はそう決めているのだ。


「まだ、その時じゃない」


 顔は出せない。


 だが、できるだけ早く顔を出さなくては。


『死相が出てる』


 そう言われてから、ずっと気にしている。どうやら、私には死相が出ているらしい……まあ、人はいつか死ぬのでそのことについて嘆くことはない。


 ただ、私はベアトリスの役に立った死にたいのだ。


「早く強くならないと」


 こんなところでチンタラしている暇はない。さっさと戻って、また鍛え直さないと。


 そうだな、マレスティーナに鍛えてもらうとどうしても魔法系統が伸びる。それだけじゃ足りないとわかった今なら近接戦闘も鍛えないといけない。


「魔王に鍛えてもらおう」


 そんなことを呟きながら、私は転移した。

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