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勝者は

「はえ?」


 後ろから聞こえてきた声、急いでその場から離れようとした時にはもう手遅れだった。


「はい、おしまい」


 そこにはマナブレードを私の顔の横に突き出しているマレスティーナの姿があった。


「ど、どうしてここに?」


 さっきまで私の魔法を喰らって目の前にいたじゃないか!


「幻覚魔法って知っているかい?」


「げ、幻覚?」


「君はずっと実体のある幻覚と戦っていたんだよ」


 ええ?


「でも、魔法を発動した兆しはなかったよ?」


「そりゃあそうだよ。君の元に最初に訪れた『私』は幻覚の方だもん」


「あ……そういうこと」


 最初から幻覚のほうのマレスティーナと話していたということか……。


「ずるいわそんなの!」


「ははは!ずるいもなにもないだろう?戦場ではなんでもありなんだからさ!」


「くっ、そうなんだけど!そうなんだけどそうじゃないじゃん!そもそも味方同士で戦ってたのもおかしいでしょ!」


 結局私はマレスティーナの掌の上で踊らされていたわけだ。


「まあまあ良いじゃないか。それよりも、理不尽な君に私は少し驚きを覚えている」


「私?」


「あのさぁ、何で幻覚の私に勝っちゃってくれてんのさ!」


 途端に怒り出すマレスティーナ。


「え、でもただの幻覚……」


「幻覚は分身体とは違って、本体と全く同じスペックなんだよ!」


「ええ?ってことは?」


「もし、私が幻覚魔法を使ってなかったら負けてたってわけさ」


「ええ!?」


 なんか、褒められてる?


 《否定します。マレスティーナは単なる知識欲で動いているだけでしょう》


 あ、はい……。


「こう見えても私おばあちゃんぞ?長年魔法の研究してるおばあちゃんぞ?これでも王国最強……人類最強背負ってやってきたつもりなのに、なに?十五年で私負けた?私の数百年の努力は十五年に負けたというの?」


「あ、あのー?でも、やろうと思えば先に私が倒されてましたよね?」


「それはそうだけど!」


 あ、そうなんですね。慰めるつもりで言ったのに、そうだったとは私の方が少し悲しくなってくる。


「でもいいじゃないですか、私が強くなったら()()()()()()()()()()()()でしょう?」


「……まあね、期待してただけはある。流石メアリの娘だ」


「あの、ちなみにメアリ母様はマレスティーナよりも強かったのよね?どのくらいなの?」


 私だってそこそこ強くなって幻覚とはいえどマレスティーナに一度は勝てたのだ。少しくらい母様に近づけたのではないだろうか?


 マレスティーナはしばらく考え込む。


「うーん、百万回に一回くらいならいい勝負できるんじゃないかな?」


「へっ?」


 飛んできた言葉に私は変な声を上げてしまった。


「あ、もしベアトリスの奇襲攻撃から戦闘を開始したとして、かつメアリが武装を全くしていない状態だったとして……勝率は一%あるかないか……」


「あ、もういいです!もう聞きたくないです!」


 全然ダメだった。


 なんで?こんなに強くなったのにメアリ母様にはまだまだ及ばないというの?


「考えていることは分かるけど、私もそうだったさ。たった二十何歳の若造に初めて私が負けを認めたんだからね」


「マレスティーナが負けを認めたですって?」


「職業は……おおやけには上位職の聖騎士。生まれ持った完璧な才能、何度も経験したかのような素晴らしい戦闘センス。何もかも負けだよ。私が唯一勝ってたことなんて……強いて言うなら普段の抜け目のなさくらいかな?」


「そんな……」


「だけど、メアリはちょっとの油断でやられちゃったからね、今でも私は黒薔薇の奴らを許せないさ」


 ふと思い出して、傀儡の顔面を殴りたくなった。


「だからこそ、真獣ちゃんを優しくいじめてたんだよ」


「あ、だから手加減してたのか」


「そういうこと!それと、いつまで変化しているつもり?」


 あ、そういえば今獣人の姿に化けているんだった。


 魔力はほとんど空だが、変化を維持する程度には残っているらしい。


「今は獣人として来てるんです!それより早く他の戦場に行かないと……」


「何言ってるの?戦場なんてもうないよ?」


「え」


 マレスティーナが地面を指さしながら言った。


「私たちが今壊しちゃったじゃないか」


「ど、どういうこと?」


「大将である真獣もやられて、なおかつここまで高度な戦いを見せられたら、もはや戦う気なんてわかないよ。今頃みんな捕虜に自らなりに行ってるんじゃないかな?」


 えー……。


 なんだか釈然としない終わり方だったんだけど。


 だが、犠牲者は最小限にできたはずだ。代わりに私がマレスティーナと戦う羽目になってしまったが。


 仲間内でここまで本気の……マレスティーナは途中手を抜いていたが……戦いをしたのは生まれて初めてである。


 ユーリとスパーリングした時ですらもう少し緩かった。本気で殺されるとは思っていなかったが、本気でやらないと半殺しにされそうでものすごくビビっていたのは内緒のお話。


 そんなことを考えながら冷や汗を流していると、マレスティーナが首を傾げた。


「あれ?おかしいな」


「どうしたの?」


「ああいや……私の未来視に映る未来が少し変わってね……本来なら、ここのあたりで君もよく知る私の『仮弟子』が乱入してくる予定だったんだけど……」


 未来視……未来のことを知ることが出来る最強の力。未来は絶対不可避なのかと思ったけど、どうやら変わることもあるらしい。


「仮弟子なんていたのね」


「おかしいな、帰っちゃったよ……再会は失敗か」


「再会?」


「まあいいさ、私の未来視は絶対というわけではないからね」


 そう言ってマレスティーナは無邪気に笑う。


「それで、私の鼻は折れたんですか?」


 当初の話に戻り、私は会話を続けた。眉間にしわを寄せながら、


「うーん、私の鼻が折られかけたけどね!だが、予想以上に強くなって嬉しいよ」


 とマレスティーナ。


「とても楽しかったよ。ああ、そうそう。国王には私の方から戦況報告をしておくから!ベアトリスはもうそろそろ帰りなね!もうすぐ一日終わっちゃうから!」


 と、どこか焦ったように言うマレスティーナ。こいつめ……国王に味方同士で戦ってたということが知られたくないんだな?


 まあ別にいいけど。どうせ、日ノ本に戻ってもすることがないんだし、自分を鍛えなおそうかな?


 そんなことを考えながら、私は転移で帰宅する。

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