極大魔法
《私自身が大剣を操って攻撃を行います》
そんなことできるん?
《いえ、私は意思が弱いので、主に命令されればできるかと》
めちゃくちゃ意思はっきりとしてますけどっていうツッコミは置いておくとして、私がそれを許可すれば手数が増えるのであれば、全然許可します!
《かしこまりました》
その瞬間、手に持っていた大剣が途端に軽くなった。それは単純に体験が宙に浮いて、手にかかる負担がなくなったからだ。
《自動攻撃を開始します》
「はっ?」
大剣はひとりでに動き、マレスティーナの首元を狙って一閃を叩き込む。私みたいな見様見真似、スキルの力で補正していた剣筋とは全く異なる、まるで本物の大剣使いが叩き込んだかのような強烈な一撃だった。
風を切る音を置き去りにして放たれたその攻撃をマレスティーナは思わずといった風に、腕でガードしていた。本来であれば結界が守ってくれるのでこんなことをする必要はないのだろうが、人は驚くと反射で動いてしまうものである。
後ろに飛び退いたマレスティーナは何が起きているのかわからないという顔をした。
「それは、隠し玉ってやつ?」
「内緒よ」
「あ、そう……」
残念ながらマレスティーナにだって同じことができるはずなんだけど、どうやら本人は気づいていないらしいので、このままにしておこう。
「よくわからないけど、一気に決着をつけさせてもらうよ?」
マレスティーナのそのセリフと共に膨大な魔力が空中へと放出される。背後にある数百個以上の魔法陣の他に、前方にまたまた無数の魔法陣が展開された。
流石に手数が多くてもこれを避け切ることは絶対にできない。
「いけ」
その攻撃が私に向かって飛翔してきたあたりで私は思わず口角を上げた。
「この時を待ってたわ」
「ん?」
「『止まれ』」
その瞬間、まるで時が止まったかのように私を中心にして全ての魔法がその動きを停止させた。
「チッ!」
「『標的変更』『威力強化』」
魔法の制御を話術で奪い、私はそれをマレスティーナに向けた。無数に存在する魔法が全てマレスティーナに向かって飛んでいく。
《十数秒動きを止めることができるはずです》
こんだけやって十数秒……秒単位でしか動きを止められない。だけど、そんだけ時間があれば十分と言える。
なぜなら、私はまだ魔力を使っていない……つまり、全魔力を攻撃に回せばさらなるダメージを結界に与えられる。
私は術式とイメージを頭の中に思い浮かべる。
燃え盛る灼熱の炎を一箇所に収縮させ、それを一気に解き放つ、そんなイメージだ。
《オリジナル魔法ですか?なら、名前を考えましょう》
こんな時に呑気だな……そういえばオリジナル魔法にしっかりとした名前をつけたことはなかったな。
私は体にある魔力を収縮させながら、そんなことを考える。攻撃範囲を最小限に抑えることによってその狭範囲にとてつもない威力の攻撃を叩き込めるよう、時間ギリギリまで魔力を集め続ける。
そして、無数の下位魔法の切れ目を狙って、それを放った。掌サイズ……いや、それよりも小さい赤く光る球体がもうスピードでマレスティーナに向かって突き進む。
下位魔法の連打を生き残ったマレスティーナが体勢を立て直そうとした直後にその球体はマレスティーナの胸元まで来ていた。
「なっ!?」
「爆ぜろ!」
私は制御していた魔力収縮を解き、それを一気に爆発させた。それはまるで巨大な爆弾だったかのように膨れ上がり、マレスティーナを包み込み、爆発した。
今までに聞いたことのないような轟音と共に、こっちにまで肌がチリチリと焼けるような感覚をおぼえた。
こっちにまで爆風で熱気が伝わってきている。そして、同時に体に害のありそうな波動?のようなものを感じた。
《これは放射線と呼ばれるものです。人間は放射線を浴び続けるとやがて死滅します》
わお。
《ですが、肉体が人間ではなくなった主は死にません。この際ですので、放射能に適応して放射線を克服しましょう》
やめて!?
小さい範囲と言っても波の攻撃ではできないような範囲の爆発はキノコのような形をした煙を立てながら、そのとんでもない威力の爆発は終わりを告げた。
私の今ある全ての魔力を注ぎ込んで、将軍に教えてもらったイメージの力を借りて……そして限りなく、今できる程度で範囲を狭めて威力を高めた。
ただイメージして、どーんと発射するだけで山が何個か消し飛ぶ威力だったのをさらに収縮させて魔力を最も込める……一体どれだけのダメージになったのやら。
差し詰、極大魔法と呼ぶべきか。
《1億には届きませんでしたが、下位魔法およそ2000近くが既にダメージを蓄積していたため、総ダメージで言えば1億に届いたと思われます》
そして、煙が晴れた。そこには結界にヒビが入り、ところどころに結界に穴が空いた状態でマレスティーナが立っていた。
《あ、そういえば放射線は結界を貫通するので、人間であるマレスティーナには大ダメージを与えることができたはずです》
え、それ大丈夫なの?ってかなんでマレスティーナ死ななかったのすごいな……。
そんなことを考えながら、私は私の勝ちを告げようとした時だった。
「さすが、私の友人の娘だね」
そんな声が後ろから聞こえてきて、目の前にいたマレスティーナは幻だったかのように煙となって消えてった。