表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
467/522

命令

将軍視点です

「行ってしまいましたか」


 特段引き止めはしない。ベアトリスはベアトリスの生活がある。


 私のわがままで引き留めるわけにもいかないのだ。だが、私の人生にとっては一つの後悔が増えた。


「次の孤独は何年続くのでしょうか?」


 また誰にも心の底から楽しい会話をすることができない生活が始まる。それは女神様もそれに含まれる。


 この世を統治なさっている女神様は神の中でも特別な存在。普段私が関わることは絶対にない、支配者。


 誰であろうと女神様の前では全てがゴミのような存在だ。かくいう私もそれに当てはまるのだから。


「そういえば、最近は女神様に連絡を返していませんね」


 ただ、私はそのゴミの中でもまともな扱いを受けているゴミである。私は、地上に降り立って女神様が気に入った日本という国の再現に尽力していることもあってかは知らないが、少し気に入られていた。


 そんなわけで私が保管している天界に繋がっている連絡網からたまに、女神様からメッセージが届くことがある。


 女神様から連絡してもらえるなんて!と、他の天使なら感激するところなのだろうが、私はちっとも嬉しくなかった。


「さて、そろそろ確認しなくては」


 ちょうど定期報告の時期だからと、私は自ら作り上げたオートマタが守っている地下へと向かうことにした。流石に、侵入者が訪れた時、一人目のオートマタを倒されたのは予想外で少し焦ったが、すぐに撤退してくれたおかげで情報網は守れた。


 地下へ繋がっている通路、その入り口を守っている一人目のオートマタがいる書斎に訪れる。


「いつも通り本を読んでいるのですね」


「はい!でも、そろそろ新しい本が欲しいです!」


「後で仕入れておきましょう」


 オートマタの少女はとても感情豊かにそんなことを言った。だが、それは私が設計した時に「元気な少女」であれと願って作ったからで、本物の感情ではない。


 本当の彼女はただ私に忠誠を誓うだけの機械的存在。だが、それさえ忘れて仕舞えば友達のような気さくさで、よく心の支えになっている。


 もう二体のオートマタは少女が突破されないと動き出さないように設定している。通路を通ってもその二体が出てこないのはそういうことである。


 一番下の地下まで足を運ぶと、そこにはとても大きな部屋とそれを埋め尽くさんとする水晶があった。


 水晶は10メートル以上の半径で、そこに意識を向けると、すぐに天界にある水晶につながった。そこは数百年前まで私が暮らしていた天界が映っていた。


 透き通ったその世界は何もないように見える。水晶に映し出された天界の景色の中に一つの歪みが生まれ、それが広がり、一人の女性が現れた。


『遅かったじゃない』


「大変お待たせしました、女神様」


『いいのよ、数年連絡が遅れたからって怒るほど私は狭量じゃないわ』


 そこにいるのは白のワンピースを着て黒髪をたなびかせる女神様だった。


『ちょうどいい時期でもあったわ。そっちにベアトリスという少女がいるでしょう?』


「……はい」


 女神様から人の名前が出てくるのはとても珍しいことだった。もしかして初めてだったのではないだろうか?


 女神様が名指しで話題にあげるなんて……だが、それは絶対にいいことなはずがない。


『そのガキ、この私に喧嘩を売ってきたのよね。あなた、どうやら暇つぶしに遊んでいるらしいけど、そろそろ目障りだから殺しちゃいなさい』


「……殺すとは?」


『そのままの意味よ。私を楽しませられるかどうかはあなた次第だけど……あなたならきっと面白い殺し方をしてくれると信じてるわ』


 ろくなことじゃなかった。女神様は私にベアトリスを殺せと命じたわけだ。


(私が殺す?できる?)


 別に、そこらにいる有象無象どもならいくらでも殺せる。私のことを将軍だと崇めている者達なんて所詮はそんなものだから。


 だが、ベアトリスは特別だ。将軍という肩書きなんて気にせず、座天使……敵であるにも関わらず気さくに話しかけてくれる……そんな少女を手にかけること、私にできるだろうか?


 元々敵同士なのだから、本来ならばなんの問題もないはずだった。


 なのに、


(仲良くしすぎてしまいましたね……)


 こうなることは薄々わかっていた。わかっていながら、信じたくなかったのだ。結果的に見れば、私は自分で自分の首を絞めていたのだ。


 どうして……どうして私ばかり不幸になるのだろう?せっかく孤独を埋めてくれる存在を出逢えて、別れたと思ったら今度はそれを殺せと?


「……かしこまりました」


『ええ、頼んだわよ。それと、私の国はどう?』


「はい、女神様の理想に限りなく近づいてきているかと」


『いいわぁ、今は「江戸時代」くらいかしら?歴史を再現するのは楽しいわ』


「左様ですか」


 先ほど命じたことがさらっと流された。女神様にとっては所詮ベアトリスはそんなものだったのだろう。


 というよりも、今更ながら気になった。


(ベアトリスが喧嘩を売った?)


 一体どうやって?天界に行く方法は限られているはず……さらに、わざわざ女神様に喧嘩を売りにいったわけは?


 気にしてもしょうがない。


『あなたには期待しているわ』


「善処して参ります」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ