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苦労人

 転移した先は王宮の中、その玉座の間の前。そこの扉をバタンを開け、中へとずかずか入り込む。


 もちろん不敬罪だけど、そこは大目に見てね。


「国王様はいらっしゃいますか!」


 と大声で玉座の間に響くような声で呼びかける。まあ、目の前に国王が座しているのは見えているんだけどね。


 いきなりの来訪者に驚きを隠せていない国王。周りには誰もいない。


 普段なら執務室で仕事をしているところだけど、何かあったのかな?


「べ、ベアトリス!?もしや、日ノ本の件は落ち着いてのか!?」


「いえ、まだです。ですが、攻略の目処が立ったので一応報告に参りました」


「そ、そうか。ならよかった……」


 国王はふうとため息をつく。


「反乱軍の鎮圧はすでに完了しましたので、やろうと思えば、食糧の供給も開始できると思います」


「それは本当か!?」


 国王が身を乗り出して問いただしてくる。私が現在取り組んでいる問題はといえば、腐敗した政治を変えようと政変を企んでいるわけだけど、それと輸出入の供給はほとんど関係がない。


 だが、そうも言ってられないんだよね。政治を変えようとすると、その対応にもちろん幕府は追われるわけで、おそらくだが外交を気にしている余裕は無くなると思う。


 それに、反乱軍や革命軍といった軍とこれから対立していくにあたって、食糧は多めに確保している必要があるのだ。


 だから『やろうと思えば』なのだ。


「それより、どうしてそんなに焦っているのですか?食糧にもう余裕がないのですか?」


 国王の表情を怪訝に思った私が問いただす。すると、国王は実にあっさりと答えた。


「実は現在獣王国内でも反乱が起きていてな。それを支援するために、軍と『大賢者』を送ったのだが……一向に鎮圧できる気配がないのだ」


 獣王国での反乱は前にも聞いたことがあるようなないような。でも、ちょっと待てよ?


「大賢者ってマレスティーナですよね?ただの反乱にそんな時間がかかりますか?」


 マレスティーナは大賢者の名前に恥じない、人類最強戦力の一人である。大賢者は国王から与えられる『二つ名』もとい『称号』である。


 つまり、英雄。


 それをいって仕舞えば私も二つ名持ちだが、ご存知の通りマレスティーナには最強の矛と盾がある。


 時空間魔法と無効化結界、この二つがあればどんな攻撃でも防げるし絶対必中の一撃必殺魔法が放てる。


 そんなマレスティーナがただの反乱で苦戦するはずがない。


「一体何があったんですか?」


「あった……というよりも、問題なのはマレスティーナあやつの方だ!」


 いきなり激おこな国王。


「あやつめ!獣王国の反乱は私に任せておけといっておきながら一向に出向かないではないか!一体どこでほっつき歩いているのだ!?国の一大事だぞ!?仮にも数十年この国に仕えてきた臣下なのか!?」


「まあまあ落ち着いて国王様」


「これが落ち着いていられるか!もうすでに食糧は兵士たちに持っていかれ、食糧庫の中は空なんだぞ!?」


「それはまずい……」


 予想以上に苦戦しているらしい。


 これは少しだけでも日ノ本に輸出をお願いしてみるか?それがいいかもしれない。


 ただ、そんなの気休めにしかならないのが最悪だ。政変なんてやっていたら、王国の食糧難の方がまずい。


 計画は延期にすべきかな?


 そんなことを考えていると、


「やあやあ、お揃いで何を話してるのかな?」


「あ!」


「おいマレスティーナ!今まで何をしていたんだ!」


 また、私の認識できない何らかの方法で転移してきた。今思えば、おそらく時空間魔法の一種なのか、それとも次元魔法なのか、そのいずれかだろう。


 少なくとも私の使う転移よりも上位の魔法ではあるはず。


「そんなの魔族領に決まってるじゃん。元々そこの調査を命じたのはあんたでしょう?」


「ぐっ……」


「まあまあ安心してよ。食糧の方はどうにかなりそうだからさ」


「それは本当か!?」


 そんな目処あったの?


「魔族領から……というわけではもちろんないけど、実は旧公爵領から大量の備蓄が送られる手筈になってる」


「それは、アナトレス公爵領からか?」


「ああ、どうやら……先に手を回していた人がいるみたいだよ?」


 そういって突然に現れたマレスティーナは私の方を見てニヤリと笑う。


 え?


 私?


 全然違うけど?


 そう思って国王の方を見ると、「マジかよお前!」みたいな尊敬の眼差しを感じてしまった。ぐぬぬ……この状況で否定できるか!


「それで、その備蓄はどれほどなんだ?」


「これがまた意外でさ。なんとこのまま軍支援をしながら国民全員三ヶ月は食べていけるくらいにあるよ」


「え、そんなに?」


「ええ、そんなに」


 どんだけの量を蓄えてるんだ!?


 というよりも、今公爵領にいるのは鬼人の皆さんだろ?大した人数いないはずだけど、どうやって作物を……


「どうやら、周辺にいる魔物を飼って、それを生産しているらしい」


「なんだと?」


「魔物の肉だってとても美味いんだ。それに、無駄に体躯がでかいからね、いい食糧減になりそうだよ」


 そういうことか……牛や豚と同じ用量で飼育していたのか。さすがは鬼人、いい働きをしてくれる。


「慕われている先生のためにって、大学院の皆さんも足を運んでくれているらしい……大学院の名前は……言ってしまったら、横にいる人に殴られそうだからやめておこう」


 あの理事長のネーミングセンスは本当に悪かった……大学院の名前は思い出したくもないな。


 というよりも、


「あの子たちが足を運んでるって?」


「ああそうだよ。君が学院に残してきたみんなが恩返しにってね。素晴らしいねえ、これも一種の師弟愛なのかな?」


 ちょっと意外だった。けど、異世界人ってお人好しが多いらしいし?


 あり得なくはない。みんなありがとう。


「とにかく!お主はさっさと反乱をどうにかしてくれ!このまま兵士を消耗するわけにもいかない。獣王国との外交的な問題もあるから、手を抜くことは許さんぞ?」


「はいはい、わかったよ坊ちゃん」


「誰が坊ちゃんだ!」


「んもう、子供の頃は私の周りをうろちょろしていたがきが生意気になったもんだねぇ。じゃあ、行ってきまーす」


 そう言って、再びその場から消え去った。


「ふう……全く、やってられんな」


「国王様も大変そうで……」


「ああ、ベアトリスにも大変な仕事を与えてしまって悪かったな」


「いえいえ、国の危機ですから」


 二人の苦労人は静かに微笑む。


「ということで、期限は三ヶ月まで……ということでよろしいですか?」


「ああ、頼んだぞ」


「かしこまりました。では、行ってきます」


 そう言って私もその場を去った。

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