居残り組の昔話
※街に居残っている居残り組視点です。
ベアトリスが修業に明け暮れている間、領地に残っている居残り組はすることもなくただぼーっと魂が抜けたかのように日々を過ごしていた。
「だぁー、暇すぎて死にそぉー」
ソファの上でぐてーッとしているユーリがそう大きく呟く。
「お嬢様が出ていかれてしまって……街を守ってなんて言われましても早々そんな輩が現れるわけないですしね……」
「ねえミサリー。ボクらも都についていった方がよかったんじゃない?」
「ダメです、ユーリちゃん。お嬢様がお決めになったことですからね……それに、お嬢様らならなんだかんだ言って無事に帰ってきますよ」
それについてはその場にいた全員が満場一致で答えた。
「ですけど、また死なれたら困りますねぇ。無茶してきて死なれると、説教していいのかわかりません!」
「生き返る前提で話してるし……」
「お嬢様ならその淵からでも復活してくださるはずです!」
「主への信頼感半端ない!?」
「レオさんもそうでしょ?」
ミサリーに話題を振られて困惑するレオ。
「死の淵から……とかはおいておいて、実力だけなら心配するだけ無駄だと思う」
「私たち三人ともステータス万越えで、ミハエルさんも強い天使を宿しているのに、お嬢様だけステータス不明……これはもう測定不能の領域ということでしょう!?」
ミサリーが興奮したようにそう言って立ち上がる。
「どうなの、ユーリ?」
レオがミサリーに代わって一番の年長者に質問する。ユーリは少し考えこむようなポーズを取った。
「うーん、ステータスが解析できないっていうのは、自分よりもステータスが上の相手だけのはず。自分自身を鑑定することが出来ないなんてありえないはずなんだ。だって自分を解析鑑定してるんだから、解析している『自分』とのステータス差はゼロなんだから」
解析鑑定を使っても誰もベアトリスのステータスを読むことが出来ない。これはかなりの異常な事態である。
「お嬢様は不思議な方ですからね。そんなことがあっても不思議じゃないです」
「それに、メアリの娘ってところも大きいよね」
「ユーリちゃんはメアリ様についてご存じなんですか?」
「もちろんご存じだよ!」
なんせユーリは数十年前の戦争でメアリと敵対していたのだから。
そして、それ以外にも――
「最強の聖騎士の娘は伊達じゃないってことですね」
実際にベアトリスは多彩であった。本人にはその自覚は薄いが、近接戦でも武器の扱いでも、魔法も……それらほとんどが才能の宝庫なのだ。
選り取り見取りである。
「あの、すみません。聖騎士のメアリという方は、もしかしてあの有名な?」
ミハエルはメアリについて質問する。それは街中で有名人を見つけたファンのように三人の目には映った。
「多分それ」
「そ、それはすごいです!あの有名な人類最強の聖騎士様の娘なんですね!メアリさんと言えば人類の切り札ともいえる勇者を指導したり、何なら勇者の代わりに前線を切り開くこともあったとか……噂に聞くと、あの人は不死身と呼ばれているらしいですね」
「不死身かどうかはさておいて、才能にも環境にも恵まれて……それに努力を怠らなかった結果が今のお嬢様ということですね」
「一度死んでも蘇ってしまうような『お嬢様』にどうやったらなれるのか知りたいですね」
「お嬢様はとても過酷な人生を歩んでいますから」
ベアトリスの人生が波乱万丈だったというのはこの場にいる誰もが……ミハエルは知らないが……それ以外はよく知っている。
「ボクも結構な人生歩んでるけど、十五年でここまで濃い経験はしたことないかな」
「あ、今ので思いつきました。少し昔話をしませんか?」
「昔話?」
「みんながお嬢様に出会う前のことを語りあうんです。もちろん言いたくないことは濁してもいいですよ?」
その場にいたのはユーリ、ミサリー、レオ、そしてミハエルの四人だった。
「面白そうだけど……語るにしては難しいなぁ……」
そんなレオの呟きを察知したミサリーとユーリがここぞとばかりに食って掛かる。
「ということはレオも壮大なバックグラウンド持ってそうだね!」
「え?僕はそういうわけじゃ……まあある意味そうかもだけど」
「実に楽しみです!レオさんは私の命の恩人ですし!」
「ミサリーさん……そんなこと言ったらユーリが食いついちゃうよ……」
案の定であった。
「楽しみ!」
ふと三人が思い出したようにミハエルの方を向いた。それに気づいたミハエルは優しく微笑む。
「私も構いませんよ」
「よし決定!お嬢様が帰ってくるまで語り明かそうではないか!」
「ミサリーさん……キャラブレが……」
「そうとなったら、飲み物を取ってきます!どんな話をするかは各自考えておいてください、すぐに戻ります!」
そう言ってミサリーは小走りでコップを四つ取りに行った。
「ボクはレオの話が一番気になるな~」
「え、僕?」
「うん!レオとボクは仲良しだからね!」
「そこまで僕が気になるものかな?」
そうレオが困り顔で笑顔を作る。
「良いじゃないそういうの。ボクはレオが好きだからね。それでいいでしょう?」
「すっ――!?」
「もう、友達としてだよ?まったく、これだからうぶな子はいじりがいがある!」
「なっ!」
そんなことをしているうちに、ミサリーが部屋に戻ってきた。手には四つのカップともう一つ、ポットがあった。
「じゃあ、まずは誰から話す?」