孤独な天使
将軍視点です
私を創造したのはこの世界を作った前創造神。争いの絶えない世界に見切りをつけてしまわれどこかへと行かれてしまったが、それを止めれる者は一人もいなかった。
その後、女神が現れ天使たちは前創造神の代わりとしてその女神に忠誠を誓った。
私は女神から地上に降りて人間の国を統治することを命じられた。私はそれに従いここ数百年間代替わりするこのない玉座を守り続けてきた。
とてもつまらない日常、そんな天使としての生活に嫌気がさしていた他の天使たちが女神に反旗を翻したこともあった。だが、結果は返り討ちに遭い、地上へ堕とされるどころか地獄の底まで堕とされていった。
地上へ降りてくる天使は滅多におらず、そして私は天使の一人であるということを人間たちにバレてはいけなかった。それがどうしようもなく苦痛だった。
私は地上の生物たちへ恨みなどなかった。だが、あまりの孤独な生活で私は心がおかしくなり始めていた。
そんな数百年間のうちに、私には素敵な出会いが『二回』訪れた。
出会ったうちの一人目は、小さな人間の女の子。その少女は突然現れた。普段の代わり映えしない日常の一ページに突如として現れたその少女は私にとっての彩りであった。
その少女の魂はとても澄んだ、きれいな色をしていた。魂の色でその人の性格を見分けられるのは天使の特権である。
その少女は自身のことを『選抜者』だと名乗っていた。世界に選ばれし者だと私に……女神側の私に名乗ったのだ。
なぜそのようなことを言ったのか、仮に私がそれを女神に報告すれば瞬く間にその計画はお釈迦になり、すべてが水の泡となってしまうというのに……。
それに対し、少女は簡単に、実に簡単に答えた。
「あなたは信用できそうだから」と、少女はそれだけで私に選抜者について教えてくれた。
それからの数か月間、少女は城に閉じこもっている私の元へ何度も遊びに来た。少女は見た目に反し、とてつもない魔法の才能を持っていたため、私の私室に入ることなどわけなかった。
少女が遊びに来ている間だけ、私は本当の自分に戻ったような気がした。だが、その生活もすぐに終わりを迎える。
「選抜者として、役目を果たさなくちゃ」
少女はそう言って私に別れを告げた。それから少女が私室に来ることはなかった。
そして私はまた孤独に戻った。唯一の話し相手がいなくなり、とてつもない喪失感に苛まれる。
私はどちらを恨めばいい?世界を好き勝手にもてあそぶ『女神』なのか、何の罪もない子供に重い荷を背負わせる『世界』か……。
その結論は一向にまだ出ていない。
しかし、それをきっかけに私は少しだけ変わろうと思った。
幸い私には永遠の寿命があったため、様々な娯楽を経験できた。将軍としてではなく一人の『人間』として街に降り、いろんな人たちを見て色々な娯楽を見て回った。
けど、どれも少女との会話に比べれば大したことなかった。
いつしか、私は表情を変えることが苦手になっていた。表情を動かしてこなかったせいか、それとも感情の起伏が少なくなったからか、今となってはどちらでもいい。
そんな生活を送っていた私は時に人前に顔を出してみたり、機械人形を作ってみたりした。気を紛らわせる程度にはなった。
「私は……一体何なのでしょうか」
ふと思う。どうして、私はこんなに孤独なのか。
私は自由に生きていい権利を与えられて、命を吹き込まれたはずなのに、どうして孤独の中で過ごさなくちゃいけないのか。
そんなことを考えていると、自然に涙が流れていた。鏡を見ても表情は動かない。
「あぁ……もうとっくに私は壊れていたんですね」
無理に笑顔を作って、口角がぴくぴくと震える。
「いっそのこと、もう逃げてしまいたい」
だけど、逃げられない……頭に乗っかってるこの輪っかも、背中に生えている立派な羽も捨ててしまいたいが、私にはその勇気は湧いてこなかった。
そうして、数百年間の内、ほとんどを一人ぼっちで過ごしていた。
そして、私にとって二回目となる素晴らしい出会いを迎えた。
最近、屋敷へ侵入してくる何者かがいるという話は聞いていた。私としては、侵入されようが何をされようが知ったこっちゃない。
せいぜい監獄に入れられて私の話し相手になってくれるならいいが。
そのための会議として領主たちを招集して、一人ずついつも通り顔合わせを行う。
いつも通り私は顔を見せず、ふすま越しからのあいさつ。それを繰り返し、最後の最後にその『少女』は現れた。
見間違うことのないほど、きれいな色をした魂。それに見覚えがある私は思わず少女に向かって言った。
「あなた、『選抜者』ですね?」
少女の驚いたような表情にとても歓喜した。また、孤独から抜け出せるかもしれない。
また仲良くなれるかもしれない。あの時、過去に出会ったあの少女とは全くの別人だけど、それでもいい。
仲良くなりたい。
ベアトリスは過去にあった少女と違い、警戒心が強かった。それでも、話せるだけで私は幸せだ。
「いいでしょう、ここであなたと争っても意味はないので」
だが、同時に私は思った。女神の強制の命令があれば私はこの少女と殺しあわなければならない。
私はその時思ってしまった。いっそのこと殺してほしいと。
ベアトリスの手で殺されるならば、この苦しみから解放してくれるならば仲良くしてくれなくてもいい。でも……死ぬ勇気はない。
私の中でのそんな葛藤があるからこそ、私はベアトリスの前で態度をコロコロと変えてしまう。
ああ、不自然に思われているだろうな。でもこれが私。
(あぁ……あの少女、マレスティーナは元気にしているだろうか?)
死にたくないけど、殺されたい。
そんな矛盾を抱えながら、私は今日も『悪役』になる。