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断罪会議

 付き人である私は座らずに、お兄様の後ろに控える。だが、席順は最悪と言っていいものだ。将軍の隣……ではないものの、将軍が目の前に見える位置である。


 目線を動かすと目が合いそうで怖い。将軍の眼光がこちらを見ていそうで緊張がすごいのは置いておくとして、会議に集中しなければ。


「前提としまして、私の屋敷にここ一ヶ月に二回ほど侵入する愚か者がおりました」


 領主たちは全員黙りその話を聞く。


「その不届き者を炙り出しなさい」


 出しなさい、という命令。


 忍を動かせるのは唯一領主だけであり、忍はお金で動かすことはできない。よって、全ての疑いは領主にいく。


 ただ、こんなお堅い雰囲気で我先にと弁明しようとする愚かな人はいないようで、みんなが黙り込んでいる。


「こうなるだろうとは思っていました。ですので、書類を用意してきました」


 将軍がそう言って手をサッと動かすと、おそらく次元魔法により書類が領主たちの前に置かれた。


 そこに書かれているのは当時の状況とその犯人の……


「あらかじめ、証拠は持っています。よって、今ここで断罪しましょう」


 そう言って将軍は立ち上がり、大鎌を召喚する。その矛先にいるのは、


「ミア、痛いようにはしません」


 なんと、疑われているのはミアさんだった。当の本人は明らかに動揺を隠しきれていない様子で、それはもちろんやってもいないことをさも真実かのように押し付けられたからだろう。


「お、お待ちください将軍様!私はこんなことしていません!」


「証拠の内容を見る限り、領主たちの中で唯一反乱軍の侵攻を受けておらず、忍を動かすだけの余裕があるのはあなただけなのです」


「違います!私じゃありません!」


 ミアさんの弁明はおそらく将軍には届かないことだろう。なんせ、これは最高権力者の決定だから。


「ミア、今までの忠義、ご苦労でした」


 そう言って素早い次元魔法が発動され、ミアさんの後ろに将軍が現れ、その大鎌がミアさんの首元に向かって振り下ろされる。


 その場にいた全員が目を伏せてその光景を見ないようにとしている。お兄様に至っては顔が真っ青だ。


 その時、一瞬だけ将軍が私の方を見た。私はそれを見て気づく。


(こいつ……私のこと挑発してるのか?)


 本当は犯人は私だと疑っていながら、あえて違う人を処刑しようと言うのか?無論だが、このままミアさんが巻き添えで殺されるなんてあってはならない。


 もちろん、どんなことになろうと手は出すつもりだった。


 大鎌は何かに弾かれたように堅い音を鳴らした。椅子の後ろからミアさんの命を狙ったその大鎌は、いきなり現れた私の大剣によって弾かれた。


 その場にいた将軍以外が驚きに声を漏らす。


「……さて、どう言うつもりでしょうか?」


 そう言って将軍がお兄様の後ろに控えている私に話しかけたことで、領主たちもその大剣を使って攻撃を防いだのが私だと気づき始めた。


「いくら将軍様でもこれはいささかやりすぎです。今まで忠義を尽くしてきた優秀な領主をなんの疑いもなく処刑するのは早計かと愚行します」


「将軍である私に意見ですか?なんの権限もない付き人の分際で」


「……権限ですか」


 確かに私は権限というものは持ち合わせていない。私の肩書きと言ったら元公爵令嬢ということだけだ。


 ただし、そのほかにも私にはもう一つの肩書きを持っている。


 懐から私はその白銀に光るカードを取り出した。


「それは……」


 珍しく将軍が疑問の声を上げる。


「冒険者証ですよ」


「それなんだというのですか?」


 確かにそれがなんだと言われても仕方ない。この国に冒険者というものはあまり浸透していないからね。


 だけど、冒険者という名前を知らない人はほとんどいないはずだ。


「知っていますか?Sランクの冒険者は国王と謁見することを許され、意見することも許されているのですよ?」


「……ほう?」


 将軍もそろそろ気づいたようだ。領主たちはこの緊張感の中話がどう進むのかこちらを眺めている。


S()()()()()()()として、意見します。その考えは早計かと」


 領主たちの驚愕を押し殺したかのような唾を飲む音がした気がする。何よりミアさんとお兄様の驚きようだ。


 お兄様……まさか知らなかったの?そんなわけないよね。


「私はこの辺りの地域ではそこまで有名ではありませんけど、こう見えてもSランクです。将軍様の攻撃を防いだことからもわかりますでしょう?」


 そう領主たちに呼びかける。


 コクコクと頷く領主たち。


「なので、お分かりですね?」


「……ふん」


 将軍は大鎌をしまい、自分の席に戻っていく。


「これでは、会議の意味がありませんね。せっかく用意した証拠が台無しです」


 そう言いながら、表情は一切変わらない……いや、むしろ笑っている?口の端が若干だが上がっているように見えたのは私だけだろうか?


「証拠が意味をなさなくなったので、当時の状況を各々に語ってもらいましょうか」


 そう言って将軍は黙りこむ。あとは領主たちに任せるようだ。


 やはり、会議とは名ばかりのものだった。選抜者が姿を見せるのは予想していたのか……それとも……。


 ……その後の会議は特に有意義な内容はなく、各々がただ弁明するだけの会となった。

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