戦場行き
「ここがトンネル?」
次の日の朝、早速そのトンネルの元へと案内され、足を運ぶ。そこには、質素ながらも頑丈そうな木製のトロッコがあり、レバーがトロッコが乗っかっている線路の横辺りにある。
案内してきたのはもちろん長老。ついでに言うと、平助くんたち服部家の方々も全員で来てくれた。
「久しぶりのお客さんだったのに、もう行っちゃうなんて悲しいわ」
「次来るときは、遊びに来ますね」
あの宴会と称したお祭りはとても楽しかった。ので、また時間が出来たら来よう。
「ベアトリスさんたち、戦争に行くってホント?」
平助くんが着々とトロッコの準備を進めてくれている忍者たちを見ながら聞いてくる。
「まあ、そうだね」
「何しに行くの?だって、ベアトリスさんだってまだ子供でしょ?子供が戦争に行くなんておかしいよ!」
いや、まあもっともなご意見ではあるのだけれど……。私だって平穏に暮らしたいさ、そう、戦争なんて一番嫌いだ。
でも、こればっかりは私が行かなきゃいけない。
「まあ、お国のためってやつ?」
「でも――」
平助くんの言葉を遮るように長老が口をはさむ。
「大丈夫だ、この方たちは戦争の中に飛び込んでいっても生き残るくらいの実力はある。そうだな……本気で戦ったらわしでも一人を抑え込むのがせいぜいじゃ」
「おじいちゃんが!?」
おじいちゃん、もとい長老の実力は周知の事実らしく、国に二つ名を与えられるほどの実力者であることを知っているからこそ、私たちの実力もそれに近しいもしくはそれ以上ととらえたのだろう。平助くんから尊敬のまなざしを感じる。
心の声を吐露すれば、もっとそのまなざしを向けて!
だが、すぐ出発しなくちゃいけないのでね。こればっかりはまた今度来た時にでも向けてもらおう。
「そういえば、戦争に行って何するの?あっごめんなさい。聞いちゃいけなかったかしら?」
「大丈夫ですよ、お母さん。別に大したことではないです」
「じゃあ、聞いていいかしら?」
「はい、もちろん。ちょっくら戦争止めてくるだけですよ」
「「「はい?」」」
あれ?何かおかしいことを言っただろうか。その場にいた服部家のみんなが全員石化したように固まってしまった。
冗談めかしに笑いながら言ったのが間違っていたのだろうか?
一番立ち直りが早かったのはおそらく長老だ。
「そうか……確かにな。王国の精鋭たちなら、戦争も止められるかもしれん」
「ちょっとちょっとお父さん!どういうこと?そんなにこの子たち強いの?」
「わしがさっき言っただろう?こやつら全員二つ名持ちレベルに強いぞ?」
絶句している様子を見る限り、いまいち凄さが分かっていなかったのかも。まあ、わからせる気もなかったからいいのだけど。
「戦争を止めるとか軽く言ってますけど……そんなにうまくいくわけではないですからね。でも、必ず止めてまた遊びに来ますよ」
「ええ、そうしてくれると助かるわ」
そんな会話をしている間に、トロッコの準備が整ったようだ。トロッコは長年動いていなかったのか埃がたまっていたが、それらもすっかりきれいに取り除かれていた。
かろうじて全員がトロッコに入ることが出来るくらいのサイズ。私たちは詰め詰めになりながら、トロッコに乗る。
「じゃあ、行ってきますね!」
そう言って、トロッコの上から近くにあるレバーを引っ張ろうとする。
「あの!」
「うん?」
平助くんに声をかけられ、引こうとしていたレバーに延びる手をいったん止める。
「どうしたの?」
「つ、次来たときは!その……」
「っ?」
「ぼ、僕の……訓練に付き合ってください!」
ぺこりと頭を下げている様子を見ながら、「確かに恥ずかしがり屋かも」と思いつつ、私はもちろんと返す。
「ビシバシ鍛えるから、ひぃひぃ言わないでね?」
「はい!」
♦
トロッコが走り始めた後はもう早かった。
「案外スピード出るのね」
今までは全力疾走するのが、一番早いと思っていた。いや、確かにそれが一番早いのだが、トロッコもなかなかにスピードが出る。
なにより一番重要なのが、体力を使わないという点で最高!
私が走るともちろん疲れるがこれはストレスフリー!
神!
トロッコ最強!
「だけど、見栄えが変わんないのはちょっとね」
辺りを見渡しても流れるように茶色い風景が……土しか見えない。
「あと数分で次の街ですよ」
南に南下していっているわけだが、反乱軍が次どこで戦争を吹っ掛けるのかが気になるところ。故に、次の街についたらまずは聞き込みからかな。
私たちは戦争を止めるために来たといったけれど、だからと言って人を殺しに来たわけでもない。そう、誰一人殺傷することなくこの戦争を終わらせなくてはならない。
この意味が分かるだろうか?
「お嬢様、そろそろ準備を」
「わかった」
と、返事を返した瞬間に、トロッコが急ブレーキを踏まれたかのように大きく減速していった。そして、トンネルの終わりが見えた辺りで線路の終点に到着した。
これ以上先にはトンネルが出来ていない。つまり、ここの上が街になっているのだろう。
目の前にある梯子で、地下トンネルを出る。
梯子を上っていくと、そのうち金属製の天井にぶち当たる。その天井を横にずらしてあげると、それはすぐに見えてきた。
「着いた――って」
私の視界に広がると予想していた緑色の風景はそこにはなく、あるのは一面の赤とオレンジの炎の光だった。
「燃えてる?嘘……」
そう、ここが次の戦場だった。