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本日二本目です

「どこにいるの?出てきなさい」


 飛んできたクナイをくるくるとまわしながら、森に向かって問う。当然返答が返ってくるはずもないが、その代わりとばかりにクナイはばかすか飛んできた。


「そこね」


 クナイが飛んできている位置を把握し、その地点へと大剣を投げつける。木の幹にその大剣は直撃し、幹を真っ二つにしておくの幹へと進んでいく大剣。


 その木から飛びのく黒い影を私は見逃さない。飛んで行ってしまった大剣のほうに注意を持っていかれたのか、後ろががら空きになっているようだ。


「見つけた」


「っ!?」


 すぐに振り返り攻撃を仕掛けてこようとしてくるが、不意打ちで私たちを倒せないのだから、もはや無駄というものだろう。


 クナイで斬りかかってくるのを同じくクナイで受け流し、それを首元に押し付けた。


「諦めなさい」


「くっ!」


 顔がすべて隠れていて見えない。これが忍者の服装なのだろう。思った以上に隠密してた。


「負けだ、殺せ」


「あら?端的ね」


 忍者らしき人物が放った一言はあまりにも簡単な要求であった。負けたら殺されるのが当たり前と思っているのか?


 そうじゃなかったとしても、殺すなんてしない。なんせ、まだ誰もケガを負わされてないしね。ケガをしてすらいないのだから、殺すのは流石に気が引けるというものだ。


「殺しはしないわ忍者さん。でも、情報くらいは吐いてほしいわね」


「ふん、貴様らに教えるわけがない。この裏切り者め!」


「ん?」


 なんだか、勘違いをしていらっしゃるのではないだろうか?


「一つ先に言っておくわ。私はあなたたちのことは知らない。裏切り者ってどういうこと?」


「なに?」


「私たちは、ただの……そう、旅の者よ。いきなり攻撃されて思わず反撃してしまったけれどね」


「嘘をつけ!では、なぜそんな圧倒的な力を持っているのだ!」


 そう言われたものだから、私はローブにくっついているポケットから、冒険者証を取り出して見せる。


「S、ランク冒険者?」


「そそ、ただの冒険者」


「た、ただの冒険者なわけあるか!Sランク冒険者と言えば、生きる伝説とまで呼ばれる方々だぞ!」


 私も生きる伝説になったみたいです。


「先に言うと、偽造ではないわ。疑いたい気持ちはわかるけどね。あ、それとこっちの子は知ってる?同じくSランク冒険者のミサリーよ」


 ミサリーのほうを指さすと、忍者は少し困ったような声を上げる。


「我々は、Sランク冒険者の顔までは覚えていない。二つ名なら覚えているが……」


「ふふん!私はSランク冒険者、『俊足』のミサリーです!」


 と、なんとも痛々しいセリフをドヤ顔で吐いて見せるミサリー。それを聞いてこちらまで胸が痛くなってくるが、どうやら忍者にはそれで通じたようだ。


「『俊足』……聞いたことがある。ステイラル王国に所属するSランク冒険者だな。悪魔の軍勢から二年間街を守り続けたっていう」


「それです」


 ここにきて二年間の情報が届いているとは。まあ、二年間伝承にしか出てこない悪魔を殺し続けたらそらSランクに格上げされるわな。


「そっちのガキ……じゃなくて、嬢ちゃんは?」


 おい、ガキって言うな!


「我が主は最近Sランクになったところですので、有名ではないかもしれません。ですが!王国では幼いころから勇者と引き分けた『神童』と呼ばれ、二年前には悪魔を大量に虐殺した『塵殺』と呼ばれているんです!」


 やめて!心が!心が痛い!


「それなら知っている。王国成立以来初の二つ名を二つ冠する英雄だな」


「やめんか、あんたたち!恥ずか死ぬから!やめて!?」


 私の反応を見て、忍者は、


「どうやら本当のようだな」


 そう言って、クナイを投げ捨てた。それと同時に、私もクナイをポイッと投げる。


「それで、忍者がどうしてこんなところに?」


「それはこっちのセリフだ。どうして王国の人間がこんなところにいるんだ。しかもSランクの……」


「もちろん、冒険者としての依頼だよ。こっちにいるミハエルさんを冒険者組合のある街まで送り届ける」


 嘘は言っていない。


「それはSランクの任務なのか?」


「え、えーっと多分?」


 ただの護衛の任務だったら、CかBくらいがせいぜいだろう。それなのに、Sランク冒険者二名……+一応Aランク冒険者二名にも守られているミハエル。


 確かに異常か?


「だが、まあこのご時世だ。それくらいの難易度にはなるか」


「ご時世って、内乱のこと?」


「そうだ、俺たちは反乱軍を探している幕府側の忍でな。怪しい服装をしている一団がいたもので、攻撃を仕掛けたのだ」


 たしかにここら辺の地域ではあまり見かけない服装だが、せっかくコーディネートしてもらったんだし、もう少しこれを着ていたい。


「それで、反乱軍はいたの?」


「いまだに南下を続けているようで、この辺りにはもういなかった。だが、それがわかっただけでも十分な利益だ」


「忍者って大変ね」


「まあな、お前らのような変な奴らもいるし……それと、冒険者組合のある街だったか?ここからだとかなり遠いぞ?数百キロ単位だ」


「は?」


 知らないんですけど、そんなこと。


「やはりな、こんなところをのんきに歩いているところをみてまさかと思ったが……」


 一日でつく距離じゃないね。私たちだけだったらつけるかもしれないけど、その時はミハエルが完全に置いてけぼりになってしまうことだろう。


「今日は野宿かぁ~」


 私がそう嘆いていると、


「なら、この近くに忍者の隠れ里がある。そこによったらどうだ?」


「隠れ里なのに話しちゃっていいの?」


「いいもなにも、あれを見てみろ」


 そう言われて、忍者が指さす方向を見る。大剣を飛ばした方向だ。


 その方向には抉れた地面と、抉り倒された木々と、その先に何やら光が見えた。別に今が夜とかではないが、洞窟の先には明らかに何か光が宿っていた。


「お前たちの攻撃があまりにも強すぎたせいで、隠れ里の入り口が抉れてしまった……もうすぐ、里の警備を任されている忍が発見し、長老に報告する頃合いだろう」


「それは……ごめん」


「安心しろ、その償いは自分らで受けてもらう」


「はい?」


 目元以外が隠れて見えないが、少なくとも目は笑っていた。


「あの隠れ里には泊っていってもいいぞ?ただし、壊したのが誰なのかは……余所者のお前らが一番疑われるだろうがな」


「そんな卑怯な!そもそも攻撃を仕掛けてきたのはそっちでしょう?」


「じゃあ、怪しい道を通るな!俺はな、あの隠れ里出身なんだよ!敵に隠れ里が襲撃でもされたら、俺の故郷が滅んじまうだろう!?」


 そう言われて、私にも思い当たる節があった。私の場合は、自分の生まれた公爵領の領地を守り切ることが出来ずに、今では半壊した街となってしまった。


 私がこの隠れ里出身だったとしても、この忍者と同じことをすることだろう。むしろ全力で殺しにかかる気がする。


「わかった、泊る所は欲しいしね。それに、意図的にではないにしろ、壊しちゃったのは事実だし、犠牲になってやるわ」


 そう思い、私はその穴の方向に足を向ける。


「そういえば、忍者さん名前は?」


「俺か?名は名乗れないが、苗字なら教えてやろう。由緒正しき忍の家系、『服部』だ」


 そういうと、服部さんは木の上へと飛び乗り、またどこかへと走り去っていった。


「まあ、どうせもう夕方気味だし?」


 今日はここで泊まろうかな。

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