陸の旅
ついに到着した!
なんとも古めかしい建物が並ぶ街並みを眺めながら、乗客は散りじりになって歩き始めていた。大きな荷物を持って、各々の目的地に向かっていく。
私たちはミハエルの向かう冒険者組合までついていく。と言っても、冒険者組合はこの港町にはないらしく、しばらくはまた歩きでの旅になるらしい。
「なんでこの街に冒険者ギルドがないの?」
「元々この国には冒険者組合は必要なかったんです」
説明を聞く限り、この日ノ本の国はとても治安が良く、魔物の個体数もかなり少ないため、その街にいる衛兵たちで十分対応可能だったとのこと。だから、冒険者組合の手も必要としないし、なんなら日ノ本が独自で作り上げたギルドもあった。
「それなのになんで内乱が?」
「さあ?ですが、一つ言えるのはこれは日ノ本が鎖国を解き、港を開いて以降初の大事件でしょう」
その大事件のおかげで王国に輸入ラインの一つが完全停止している。我が国は自分でいうのもなんだが、強大な国家であるため、そんなにすぐ備蓄が尽きることはない。
「ここはゆっくりでも慎重に調査するべきでしょうね」
それにしても、この街に住む人々の顔が暗い。
「何かあったのでしょうか?」
ミサリーの疑問を上げると、ミハエルがとある場所を指さした。
「見てください」
そこにあるのは立てられている墓……墓地か。
「既にここは戦闘が起きた後なのだろう」
反乱軍との戦闘で、多くの命が散ったということか?だから男の数が極端に少ないのか。
「ひとまずは酒場か宿屋に行って情報を仕入れよう」
「この街には宿屋があったはずです、行きましょう」
向かう先はすぐ近くにある宿屋。港町の奥に進むにつれ、崩れている建物や、血のついた地面が露わになり始める。
「ここです」
ついた宿屋の看板は既に落ちかけていて、名前は読めないほどにボロボロになっていた。宿屋を戸を開けると、そこにはそこそこ整った内装が見えてくる。
「いらっしゃいませ、お泊まりですか?お食事ですか?」
そう質問してくるのは、若い女性だった。その女性もどこか悲しそうな目をしている。
「情報が欲しくて、売ってくれないですか?」
「お金はいりません。それより、なんの情報ですか?」
「お金はいらない?」
「今更お金を稼いだところで、意味ないですから」
そう達観したような目をされても……。
「反乱軍が今向かっているのはどこ?どこで戦闘が起きているとか……」
「それはわからないですが、反乱軍は南へ向かっていました」
「南ね、ありがとう」
南下していったという情報だけでもとりあえずの収穫はあったかな。
その時、グーっとお腹が鳴る音が誰かからした。
「情報ついでに、食事もしていきましょう」
♦️
「どうして森の中を進んでいるの?」
ご飯を食べた後、私たちはすぐに南方向へ走り始めた。もちろんミハエルがついてこれる速度で……。
「森の中なら人があまりいないでしょ?それに魔物も弱いし」
森の中には魔物と呼べるようなものがいるにはいるが、どれもパッとしない強さだ。
「冒険者組合は次の街で寄るとして、別に森の中に入り必要はなかったんじゃ……」
「日ノ本には確か忍者っていうのがいたはず、簡単にいうとスパイ・暗殺者ってところかな。それがどこにいるかわからないからね……下手に街道出て変な奴らが足早に走ってるなんて報告されたくないでしょう?」
忍者は忍術という、魔法とは違う能力を持っている。それがどう言ったものなのかもよくわからないため、魔物を相手にした方がまだ安全なのだ。
そういえば、獣王国でターニャを奴隷にしてた奴をぶっ飛ばした時に、日ノ本の忍者が屋敷に忍び込んでいたな。全然気づかなかった。
それだけ隠蔽能力は高いということなのだろう。
「ミハエルさんはまだ平気そうね」
「はい」
案外体力が有り余っている様子のミハエル。ただの店長がよくぞまあ我々について来れる……。
ユーリはサボりを決め込むことにしたらしくレオ君のてのなかでぐっすり。そしてレオ君はというと、めちゃくちゃ調子が良さそうだった。
やっぱり栄養補給って大事だね。
そういえば、私のステータス欄に吸血鬼の加護があったけど、それって絶対レオ君のことだよね?
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吸血鬼の加護
説明:吸血鬼に愛された者に与えられる加護。全ステータスに5%の補正、夜になるとさらに5%の補正がかかる。
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強い。
有能な加護だ。
それにしても、愛されたとは……これ他の加護でも表示されるからデフォルト情報なんだろうけど。大精霊の加護にも同じ文章が書かれていた。
加護のおかげもあるのだろうか、最近体が軽いのは。夜になると、私はさらに強くなれるらしい。早く試してみたい。
と、そんなことを考えていると、
「危ない!」
飛来する何かの気配を感じて、私は現実に引き戻された。反射的にミハエルを庇って前に出る。そして、とんで来たそれを思わず素手で掴んだ。
「これは……クナイ?」
それは、忍者が所持しているであろう武器だった。