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海の旅②

 生きてる間にこんなにもバカ食いしたのは初めてかもしれない。そして、あれだけ大きかったクラーケンは乗客員全員の食欲を前に消滅してしまった。


「待って、もう朝方?」


「なんだか眠気を感じないですね……」


 朝までワイワイと遊んでいたせいか、眠気を感じていない。多分乗客の半分以上はおきていることだろう。なんか巻き添えにしたみたいで罪悪感が無きにしも非ず。


「レオ君は結局起きなかったけど……」


「疲れてたんですかねー?」


「それだけかな?」


 レオ君は意外にもショートスリーパーなところがあるから、こんなに長い間寝ているのは少し珍しいが……。


「ユーリは?」


「あっちでミハエルさんと酒盛りしてますよ」


「ミハエルはお酒が好きなのかな?」


「いえ、苦手なようです」


 お酒大好きなユーリに無理やり飲まされてるのか……ご愁傷さまだ。


「ミサリーも眠くなったら早めに寝るんだよ」


「問題ありません、私は一週間寝なくても平気です」


 冗談に聞こえて冗談でないのが怖いところ……やれと命じたら本当にやりそうで怖い。


「ちょっとレオ君のところ行ってくるね」


 そう言って私はレオ君の寝ている船室まで足を運ぶ。船内は案外狭く、とても狭い通路が何本かに分かれている。


 その間に小さな船室がたくさんくっついている、その一番端に部屋をとっていたはずだ。


「入るよー?」


 呼びかけても返事がない。まあ、カギはかかってないし、入っても平気だろう。


 そう思って、扉を開けて中に入るとレオ君の声が聞こえてきた。だが、それはどこかつらそうな声だった。


「どうしたの!?」


 ベッドの上でうめき声をあげているレオ君の姿が目に入り、思わず私はレオ君に駆け寄る。


「うぐぅ……」


「ちょっと大丈夫!?」


「平気……」


 というレオ君だが、レオ君の言う平気が嘘なのはもう長年の付き合いで分かっている。


「平気じゃないでしょ!大丈夫なの?」


「僕は……」


「ほんとのこと言って?迷惑になるとか心配してるなら、そんな考えは捨てて」


 枕を強く握りしめて何かを耐えているレオ君は、私の言葉を聞いてふとこちらに目をやる。顔は紅潮しており、息遣いも荒かった。


「レオ君?」


「ごめん」


「へ?」


 その言葉に戸惑っている間にレオ君に手を掴まれてベッドに引きずり込まれた。


「レオ君?」


「ちょっと、我慢できないから……」


 レオ君にベッドに押し倒された態勢になった。


 え、待ってどういうこと?まだ理解が及んでいないのだけど?というかこの態勢、恋愛小説でしか見たことないよ!?


「あの、レオ君?」


 レオ君の顔が近づいてくる。なんだか気恥ずかしい気分になり、思わず目を閉じて身構える。


 そして――


 ハムッという、かわいらしい効果音が似合いそうな優しいものが首筋に触れた。


「あっ……」


 そういうことね……ようやく理解した。そう言えば最近血を飲んでいなかった。


 吸血鬼として我慢の限界だったのだろう……というか、私は何を想像していた?恋愛小説でしか~とか、私はいったいなにを!?


「わっ!?」


「ご、ごめん」


 私の血を吸って眠くなったのか、一瞬私の元へ倒れかけたレオ君だが、私が下にいることを思い出したのか、どうにか眠気を抑えたようだ。


 吸血鬼も大変だね、一気に三大欲求全部襲い掛かるってなかなかキツイと思うよ?


「落ち着いた?」


「ごめん……大丈夫だった?」


「うーん、まあ私は平気だけど……レオ君は大丈夫?」


「僕?」


「もう体調は平気?」


 コクッと頷いて見せるレオ君を見て安堵する。何かしらの重い病気とか、毒を受けたとかより血を吸われたほうがよっぽどマシだ。


「もう、飲みたいならちゃんと言ってよね?」


「だ、だって……そんなこと僕からいえないよ……」


「レオ君って意外とシャイね」


「うぐっ……」


 私の言葉が深く突き刺さったのか唸るレオ君。


「今度からはちゃんと言ってね?私はいつでも大丈夫だから」


「わかった……」


 と、レオ君も納得してくれたようでまた一安心。今度からは体調を崩す前に聞いてきてほしいものだ。


「……それと……」


「ん?」


「あの、当たってるよ?」


「当たって……あっ!?」


 がばっと起き上がり、布団で身を包んで体を隠すレオ君。


「ご、ごめんなさい!」


「い、いいのよ気にしなくて。ほら、吸血鬼だし!ま、まあ吸血してる間の生理現象だし!」


 布団の中……下半身を見て、ため息をついているレオ君に少し可愛いと思いつつ、私は起き上がった。


「もう朝だから、早く上がってきてね。あっ、収まってからでいいから」


「……ごめん、ちょっとしばらく出れそうにないかも」


「ふふ、まあ着いたらちゃんと降りてよね?」


 そう言って扉を閉める。


「ふぅ……」


 なんだか久しぶりに胸がざわついた。


「あーもう私は何を期待していたの?」


 違う違う、私の心は大人!決して子供なんかに欲情していません!


 心をかき乱されつつも、私は甲板に上がる。


「お嬢様!レオ君はどうしたのですか?」


「今起こしたから、もうすぐ起きると思うよ」


「ならちょうどいいですね!見てください!」


 そう言って、ミサリーが指さした方向を見ると、そこには一つの陸地が見えてきた。魔法で視力を強化すると、はっきりとそこに街があるのが分かる。


「もしかしてあれって……」


「日ノ本です!つきました!」


「あれが日ノ本……」


 とても戦時中とは思えないほど穏やかな街並みだが……あの国は本当に内乱が起こっているのか?


 そんな疑問が湧いてくるほどだ。だが、視力を強化した視界に入る人々の顔には笑顔は一つとして見当たらない。まあ、日常生活中にずっと笑ったいる人などいないといってしまえばいないのだが……。


「ユーリ?そろそろ酒盛りはやめて!」


「ええ!?まだ十五瓶しか飲んでないよ!?」


「飲みすぎよ!そんなに飲んでたらミハエルさんがつぶれちゃう……ってもうつぶれかけじゃない」


 床に倒れているミハエルに目をやれば、すでに満身創痍で表情筋がぴくぴくと痙攣していた。


「大丈夫だよ!人間は目を覚ましたらすぐに治るって聞いたことある!」


「それはお酒に強い人だけよ」


 まあ、とりあえずミハエルには解毒の魔法をかけておこう。


 次第に、街並みがはっきりと見える位置まで船が近づいてきた。


「みなさん!到着いたしました、日ノ本の国です!」


 その船内アナウンスを耳にし、私は支度を始める。と言っても、服を整える程度しかすることがないが。


「お嬢様、来ましたよ」


 そう言われて、振り向けばレオ君が甲板に上がってきていた。


「レオ君、こっち!」


 声をかけるとびくっと体を震わせる。気にしなくていい……と言っても無駄だろうな。


「あ、お、おはよう」


「はい、おはよう」


 顔を逸らしながらそう挨拶してくる様子にミサリーが私に質問してくる。


「何かあったのですか?」


「なんにもないわよー?」


 ふふっと笑いながら答える。


「さ、そろそろ降りようか――」


 気づけば船は、港に停まっていた。

冷静に考えてみたら、これ友人も見てるんですよねー……消したくなってきた。

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