温泉
「ぐえ……頭痛い……」
これが久しぶりの二日酔い……頭がいまだに揺れている気分だ。
目を開けて隣を見れば、まだ寝てる二人がいる。相変わらず二人は仲がいいようで、なぜかレオ君の上に乗っかって寝ているユーリ。
キツネの姿でよかった、そうじゃないとレオ君潰れてたしね。そして、上半身裸なのを見て、昨日あった出来事を思い出す。
「あー……昨日なんかやってたわね……」
昨日は絶対に何かがおかしかった。というか、私そんな品性のないことしないからね普通。お酒の力は恐ろしい……普段しないことをしでかしてしまうのだから……。
二人には申し訳ないことをしたと思いつつ、起きる前にシャワーでも浴びたい……。
「あ、でもここってお風呂あったっけ?」
とりあえず、乱雑に置かれた服を棚から引っ張り着替える。昨日と同じ格好だが、服には汚れがついていないので大丈夫だろう。
部屋から出て下へと降りていくと、そこにはその場で酔い潰れている冒険者が多数と、昨日部屋を用意してくれた冒険者さんが、忙しそうに片付けをしていた。
「おお!起きたか嬢ちゃん」
「はい、おかげさまでぐっすり寝れました」
「昨日はなんかあったのか?なんだか、でけえ声が聞こえたが……」
「へ!?なんでもないですよ大丈夫です!」
捲し立てるような勢いに押されたのか、「お、おう」と納得?してくれる冒険者さん。
「そうだ、ここの宿にお風呂とかついてたりします?」
「ああ、あるぞ?一階……ここから向こうに出たところに脱衣所がある、その奥だ」
「わかりました、ありがとうございます!」
「じゃあ、ついでに俺はあの獣人たちを起こしにいくかな……なんだか面白いものが見れそうだ」
不敵に笑う冒険者を見て、なんだか嫌な予感がしたが……二日酔いで回らない頭にはその先のことなんてわからなかった。
冒険者さんに教えられた場所まで向かうと、すぐそこに脱衣所があった。タオルも新品だし、その奥に見えるお風呂はもしかして露天風呂!?
こんなところで、露天風呂に入れるとは私もなかなか運がある。
服を綺麗に畳んで籠の中にしまうと、タオルを体に巻いて中へ入る。
「うわぁ……」
朝だからか陽の光が反射し、夜とは違った美しさを醸し出している。そして、横を見ればしっかりと体がふけるスペースが用意されていた。
温泉に入る前に体を吹くのは常識らしいしね。東の島国でのマナーだ。
温泉も島国の発祥だ。ほんと、あの国だけ文化が他国とは明らかに違う。普通の国であれば、外でお風呂に入るなど考えられない!と流行らないと思うが……緊急時とはいえ、いくのが楽しみと思えてしまう。
「ミサリー早く来ないかなー?」
忘れちゃいけない、ミサリーと合流しないと出発できないのだ。でも、これはミサリーは何一つ悪くないので、その間に私は温泉を堪能するとしよう。
体を洗い終わり、いざお風呂に!
そう思っていた時、
「ほら!あとは三人で楽しみな!」
あれ?さっきの冒険者さんの声だ……そう思って振り返ったところには冒険者さんに押し込まれるように入れられている二人がいた。
「冒険者さん何してるんですか?」
「あ?ああ!いやぁ、こいつらうじうじしっぱなしでなかなか手出さないからなー!俺が無理やりにでも近づけようかと!そうだ、嬢ちゃん。二人の背中でも流してあげたらどうだ?」
それじゃ!と言って、温泉から出ていく冒険者さん。それと、さっきのはどういう意味だったのだろうか?
無理やり押し込まれたレオ君とユーリ……あ、ユーリも人化してる。
「二人ともこっちにおいでー」
大丈夫、私は酔ってないぞ!昨日みたいに暴れたりなんかしないんだから!
「背中流してあげるよ」
「「え?」」
「ほら、昨日私色々やらかしちゃったじゃない?せめて、お詫びに背中を流させてほしいの」
「「ええ!?」」
二人とも顔を真っ赤にさせている。やだ何この子たちかわいい!
二人を比べるとやっぱりレオ君の方が赤くなっている。なぜだろうと思ったが……
「そっか!ユーリはもう一緒に入ったことあるもんね」
「え?あのご主人様?」
何言っちゃってくれてんの!?と顔が語っていた。
「え、だって帝国に言った時入ったじゃない」
「いやでもそれは、キツネだったし……」
「まあまあ、年長者が恥ずかしがんないの。でも、嫌なら嫌って言ってね?」
「嫌じゃないです!むしろしてほしいけど……」
そう言ってくれて、私も少し気が楽になった。どうにも私はわがままがすぎるから、相手のしてほしいことを聞く前に行動しちゃう癖があるようで……。
「ちょっと安心した……じゃあこっちおいで?」
「うん!」
ちょこんと前の小さな桶のようなものに座ったユーリの背中はかなり小さかった。三人の中で一番背が低いし、何より見た目がほぼ女の子だからね。
石鹸で背中を流していると、かなり肌がすべすべしているのがわかる。羨ましい……私もしかして男の子に負けてる?
そんなことを考えながら、背中を流してあげる。
「背中を流してもらったの、久しぶりだよ」
「何年振り?」
「うーん二、三百年ぶり?」
「桁がおかしい!?」
背中を綺麗に拭き終わると、立ち上がって速攻温泉の方へ走っていった。ざぶーんと音を立てて飛び込む。
「あったかーい!」
「あんまりはしゃがないでね?」
「はーい!」
レオ君の方に目をやれば、まだ恥ずかしそうにしていた。
「レオ君はどうする?流してほしい?」
「……えっと……その」
モジモジとしているのを見るとこっちまで恥ずかしくなってくる……そして、意を結したのかチラリとこちらを見て、
「流して……ほしいです……」
……あ、尊い!
「はい、じゃあこっちおいで」
「うん」
レオ君が座ったのを見ると、私も石鹸の準備をする。
「背中でかいねー」
「うん……でも、多分体毛のせいだと思うけど」
獣寄りの獣人であるレオ君はユーリとは違って、全身をフワッフワな毛皮で覆われている。
少し触れてみると、ビクッと肩を震わせるレオ君。かわいい。
石鹸で背中を洗い始めると、ふわふわだった背中が一気に小さくなった気がする。
「んっ」
「だ、大丈夫?」
「平気……恥ずかしいだけ……」
「すぐ終わらせるから」
くそう……冒険者さん、これが狙いだったな!
もふもふな背中を石鹸で洗っていると、ふと尻尾の方に視線がいく。横にフリフリと動いている。これって、どういう感情の時の動きだっけ?
「ひゃん!」
「あ、ごめん」
尻尾を思わず触ってしまうと、今までなかなか聞いたことのない声がレオ君から出た。
「ごめん……尻尾はその、敏感で……」
「別に気にしてないよ、でも少し緊張しすぎじゃない?恥ずかしがらなくてもいいのに……」
「恥ずかしいよ!一緒にお風呂なんか入ったことないし……それに背中を洗ってもらうなんて……」
そう言って、かちこちになってしまうレオ君。
「でも、血を飲んだ時の方がもっと恥ずかしいことしてたと思うよ?」
「!?」
ガバッと一瞬振り返り、「クゥン……」と唸りまた顔を戻してしまった。
「はい、終わったよ」
「終わった?」
「うん、早く入ろ?」
朝イチ風呂だ!
レオ君の手を持って、ユーリがぷかぷか浮かんでいる温泉まで向かい、足の先からゆっくりと入る。
「どう?」
「あったかい……というか、暑い……」
「でもそういうものだからね」
目を瞑りながらゆっくりと入っていくレオ君、どうやら暑いのは苦手かな?
「ご主人様ー、またお風呂入ろー!」
「いいわよ、ユーリはもうすっかり慣れたのね」
「うん、ご主人様の体を見なければ恥ずかしくないもん!」
そこは威張るところなのか?
「じゃあ、ユーリには今度私の背中も流してもらおうかな?」
「へ!?」
「冗談よ冗談」
ふふっと笑い、みんなと一緒にお風呂に浸かる。
「あー幸せ……」
こんな生活が毎日続いてほしい。そんなことを願い、朝日と温泉の暖かさを全身に受けながら、私は温泉に浸かるのだった。