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死相

※フォーマ視点です

 魔族が住む魔族領、そこには荒れ果て色すら消え去ってしまった台地が広がっている。そんな大地の上に立ち並ぶ街並みの一角に、小さな家が一軒建っている。


 その家の下で、激しい攻防戦が行われていた。


「まだ遅いねぇ?」


 目の前にいる大賢者マレスティーナが人差し指で私の拳を受け止めて見せる。それ自体に驚きはなく、まだまだ届きそうにない。


「目を開きなよ。舐めプはよくないぞー?」


「ふん、どの口が言う」


 結界を解除して手を抜いている人に言われるのは癪だが、私は目を開いた。


 すべての光の粒子が私の視界に入り、未来の様子が見える。そこで見えたのは、ものすごい勢いで飛ばされる魔法の気配。


 予め、首を曲げておくと、空気を圧縮した風の魔法がその部分を通過する。それをわかっていたのか、わざとらしい誉め言葉を垂れるマレスティーナ。


「すごいね、未来が見えるのは」


「あなたもそれは同じ」


「あっそっかー!」


 マレスティーナの目は、私の目よりもよっぽど優れている代物である。何もかもを見通す瞳だ。


 それは文字通りの意味で、過去、現在、未来に見えるすべてを把握できる。それがどれほどすごいのかは誰であろうとすぐに理解できるだろう。


「さあまだまだ行くよ」


 そのセリフにふさわしく、ここからが本番だと言わんばかりに攻撃が激しくなった。風の魔法に加えて圧縮された炎が襲い掛かってくる。


 ランダムに飛んでくるその攻撃はたまにお互いがぶつかりあうこともあり、ぶつかった瞬間二つの魔法は一つの広範囲の火炎の竜巻となって襲い掛かってきた。


 それを手で振り払い、袖が燃えてしまったが服は燃え尽きることはないから問題ない。この服は特別製で、魔法に対してかなりの耐性を有している。


「次で終わり」


 私は目を閉じ、神経を前線に集中させる。目を閉じても感じる光の気配。その気配を魔力を用いて全身に流し込む。


 身体が光を纏い、白く発光しだす。


「ほう?聖職者にふさわしいね」


 全身に光が満ち溢れ、その光を使って力を放出する。


 その速度は光速に近しい速度へと達する。そこから、放たれる回し蹴りを避けようともしないマレスティーナ。その顔にはかつてない笑顔が浮かんでいた。


「いいだろう、面白い」


 マレスティーナの体には薄い結界が張られる。それは無効化の結界ではないものの、普通では発現させられないほど強固な結界だった。


 そして、蹴りがその結界に直撃した。凄まじい閃光と衝撃が辺りを走り、近くにあった小さな家はその衝撃で地面から少し浮いている。


「ふん!」


 蹴りを振り切る。振り切った先にあるマレスティーナの手にその蹴りは受け止められたものの、


「成長したね、私の結界が破られたのは実に数十年ぶりだよ」


 そう言って、微笑んでいるマレスティーナが光の収縮と共に見えた。


「無傷……」


「うん?それはしょうがないさ、比べる相手が悪いよ」


 相手を不快にさせるようなその発言、だがマレスティーナに言われると反論の余地がなかった。


 私とマレスティーナの間には天と地ほどの差がある。これが人類の守りての一人。


 かつて、最強と名を馳せたメアリの仲間。メアリ亡き今、彼女が人類最強の人間だ。


「おいてめーら!家の中をぐちゃぐちゃにするな!」


「えー?」


「えーじゃない!お前らの戦いの余波で仲が荒れるんだよ!」


 そう言って出てきたシャルとグルーダ。ぐてっとしているグルーダはおそらく戦い……もとい訓練の余波でなにかあったのだろう。


「死にそうだ……なんでオレが潰されなくちゃいけないんだ」


 なにかに潰されていたようだ。


「まあまあ、気にすることはないさ」


「気にするんだよこっちは!」


「とにかく、フォーマがここ二年で強くなったのはよくわかった」


 話をそらすように私のほうを向く。


「どうかな?そろそろベアトリス君に会いに行ったら?」


「……それはまだ早い」


 そういうと、不思議そうな顔をしているマレスティーナ。


「彼女は今、東の方へと向かっているそうだ」


「そうですか」


「一応報告ね。私はあなたが行こうが行かまいが気にしないさ。ただ、あなたがここに残るか向かうかによって未来は変わる」


 そう私に告げるマレスティーナの顔は至ってまじめだった。


 その意味は分からないが、考える必要はない。私にとって、主に会う時は役に立てるようになった時。


 だから、まだその時じゃない。


「ここに残る。ベアトリスが、ここへ来た時が再開の時」


「……そう」


 笑みを浮かべるマレスティーナ。


「そうと決まったら、紅茶を飲もう」


「は?」


「シャル、またいい茶葉入ったそうじゃないか。もちろん私たちにも淹れてくれるんだろう?」


「くそ!地獄耳ババア!」


 文句を言いつつ、家へと戻っていくシャル。代わりにグルーダがトコトコと私のほうへ向かってくる。


「おい、けがはないか?」


「無論問題ない」


「そうか」


 私がそう答えると前足で顔をかきながら、


「こう見えてもオレはお前よりも長く生きてるんだ」


「へー?」


「だから、なんとなくわかる」


 そう言って、バツが悪そうに口籠る。


「どうした、グルーダ。何が言いたいの?」


 私がそう聞くと、グルーダは告げた。


「お前、死相が出てるぞ――」

東の島国上陸までもう少し話数がかかります。

もう少しで総合評価2000です!

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