話術の力
魔物たちの群れをかき分けて進んでいくこと数キロ。いや、どれだけ魔物がいるの?
倒す度に魔物が補充されていくようで、実質首謀者を倒さない限り永遠に魔物が湧き続けることになる。
「ごめん!二人とも魔物たちの相手をしてて!」
魔物を放っておいてしまっては、後ろにある街に被害が出てしまうかもしれない。明らかに冒険者の数が足りないからね。
二人を残して私は先に向かう。
魔物は二人に任せてしまえばいいので、向かってくる魔物たちは全て放置。そして、そこから走り続けていると、次第に魔物たちが増えてくる。
「『探知』的にはこの近くのはず……」
すぐ目の前だ!
大きく飛び上がり、黒いフードを被った人影を見つけると、そこに向かって大剣を投げつける。フードを被った人物も私に気づいたのか、大剣にぶつかる寸前で体勢を傾けて避けられた。それ自体に驚くことはなかったのだが、なんと崩れた体勢のまま、魔法を飛ばしてきたのだ。
「闇魔法?」
飛んできたのは、真っ黒い塊。ただ、明らかにそれは『当たったらいけない』雰囲気を纏っていた。
空中で体勢を変えられない私は、大剣の元へ転移することでそれを回避する。
「転移の使い手だと?」
喋ったフードの人物の声は低く、なんとなく邪悪に満ちている感じがする。
「あなたがスタンピードを起こしたの?」
「そうさ、何か問題でも?」
「早く魔物を止めて」
大剣を引き抜き、フードの男に構える。
「止める?そんなことするわけないだろ?」
「そ、じゃあさっさと死んでもらえるかしら?」
足に体重をかけ、それを一気に前に持っていく。
「うわ……!」
自分でも驚くほどのスピードが出た。まだ、身体強化もスキルも使っていないのに、以前とは比べられないほどのスピードが出ていた。
「ふん!」
大剣を突き出し、腹を狙う。ただ、身体能力が高くても一直線の攻撃は簡単に読まれてしまうようで、またしても楽に避けられてしまった。
だが、これで終わりではない。
持ち手を下の方へずらし、私は大剣を引っ張って横なぎの攻撃に変える。
「くっ!」
それも体勢を崩しながら避けられた。お返しとばかりに先ほどの黒い闇魔法を放ってくる。
だが、それは私の持っていた『盾』によって防がれた。
「なっ!?なんなんだその武器は!鎖のようにうねったり、盾に変形したり!」
一応どれもこれも初見殺し要素満載なはずなのだが……相手もなかなか強い。
「だが、それだけでは俺は倒せない!」
再び闇魔法を起動すると、今度はそれを私に投げつけるでもなく、空中へ投げた。何が起きるのかと身構えていると、その黒い球体から黒い閃光のようなものが飛び出し、私を目がけて飛来する。
それを避けると、地面には深い穴ができている。いくら、私のステータスの体力値が高くても、この攻撃は確実に体を貫通するだろう。
「当たったらお前見たいな人間は即死だ!」
「面倒なことを……」
閃光はさらにスピードと数を上げて、私に襲いかかる。周りにいる魔物たちも巻き添えにしてその閃光は私に向かって飛んでくる。
(盾で防ぐ?)
いや、貫通する予感が……確かにSランクの武具で、強度も一級品ではあるが、あの火力はやばそうだ。
球体の状態よりも、威力が上がっている。
飛んでくる閃光を転移も使って避けていく。
「ははは!フードを被った女よ!哀れだな、不意打ちを仕掛けてのにも関わらず、負けるなどとは」
フードを被っているから視界が悪い……というわけではない。『探知』を起動しているから魔法の軌道は全て読める。だからか、かなり無駄のない動きで避けられていた。
「何かいい方法は……」
このままじゃ完全にジリ貧だ、こっちの体力も無限ではない。
そうなってくると、今できるのはスキルに頼ることくらいか。生徒たちにもらったスキル、ただ、スピードを上げようと、この密度の攻撃を避けるのには慣れなきゃ危険だ。
スピードが有り余って閃光に突っ込むというのは避けたい。となると、『話術』のスキルか……。
そういえば、変態魔術師が何かを言っていた。
『あなたの一番の強みはその『スキル』でしょうに。なんでそれを活かした戦い方をしないの?』
そう言われたのを覚えている。あれは一体どういう意味なのか……まだよくわかっていないが、なんとなくは理解してきた。
私は『話術』を用いて決着をつけてしまおうとしていたことに気づいたのだ。より正確に表現すれば「たった一言で倒そうとしていた」だろう。
つまり、そこから派生した攻撃を今までしたこなかったということに……。もしそれが正しい解答なのだとすれば、この場面で活かせるはず!
「『止まれ』」
その一言で閃光が全て停止する。
「な、何が起こった?」
澄ました顔が一変したのをフードの下から感じる。
「今日はここでは終わらないわよ」
ここからが本番だ!
「『標的変更』そして、『放て』」
その二言で、全ての形勢が逆転する。
閃光がフードの男へと向かって飛び始めた。いきなりの攻撃……そして、自分の魔法による攻撃に慣れていなかったからか、男は避ける間も無く被弾する。
「がっ!?」
「『止まれ』」
既に四肢には大穴ができており、これ以上やると絶命してしまいそうだ。
私はその男へ近づき、首根っこを掴む。
「スタンピードを止める気になった?」
「止める!止めるからやめてくれ!」
そういうと、男が何かを命令したのか、魔物たちは回れ右で西に帰り始めた。
「それでいいの。ついでにあなたにこの街を襲うように命令したのは誰?」
「ど、どういう意味だ?」
明らかに動揺の色が見えた。
「じゃ、もう用はないわね」
そう言って魔法を起動しようとすると、
「魔王様だ!魔王様の命令で来たんだ!」
「魔王?」
飛び出してきたのは案の定な名前。
「ふん、今代の魔王ねぇ……そいつには興味ないけど、覚えておくわ」
今代の魔王が人間界へ侵攻を始めたことは、すぐにでもギルドと各国に報告すべきだな。
「なあ、もう離してくれ……頼む」
「わかったわ」
そういうと、私は首を離した。
「あ、あれ?」
「どうしたの?そんなに転がって」
全く、首が取れているのによく喋る男だったな。
「すぐに街に行かないと……」