ベアトリス、服を選ぶ
たくさんある店の中から何を選ぼうか迷っていること十数分。何であんまりいいお店がないのだろう?
私が欲張りすぎていることがいけないのだろうか?いや、身だしなみは大事だし、普通はそういうのを気にするのが一般的だと思っていた。
が、二人はそろそろ疲れてきたのか、まるで無理やり買い物に付き合わされている反抗期の子供のようになっている。しょうがないから、どこか適当な店で服を見てみるか。
そう思い、路地裏を通って向こう側の通りに行くため、狭い道を通る。その狭い道は、人が一人通れるかどうかという狭さだったのだが、子供だからぎりぎり通り抜けることが出来た。
「あ!あれ見て!」
そして、狭い路地を進んでいく途中に何かがあったのか後ろからそんな声が聞こえてきた。そして、狭い通路の中を見渡すと、路地の中にさらに狭い道があり、その奥に服が飾られている店があるではないか。
「なんかよさげな店ね」
こういう路地にあるお店が案外良かったりもする。それに、飾られている服は冒険者用のものと思われる鎧などが多かった。
「よし、あの店にしよ」
二人はもちろん異議なしで頷いた。方向転換しその店目掛けて進んでいくと、そこはとても狭い空間だった。
さっき通った狭い道しか出入口がなかったようで、隠されていた店って感じがする。
「失礼します」
カランコロンと扉を開けた瞬間に鈴の音がし、それとは逆に店内には人がいないように静かだった。少し不気味な雰囲気を感じてはいるものの、今更他の店を探しに行くとか言っても二人が怒りそうなのでやめておこう。
「とりあえず、私服と冒険者用の服ね。三人で金貨70枚までよ?」
「「はーい!」」
いざ選び出すと、楽しそうにしている二人を尻目に、私も服を探す。今着ているこの服も悪くはないのだが、どうも貴族感が抜けきっていない。
いろんな国の服装を見てきた私が言うのだから間違いない。
「見てみてどう!?」
「どうしたの?」
ユーリが服を持ってきたかと思うと、その手元にはフリフリな可愛いスカートがあった。
「……そういう趣味?」
「冗談じゃん!」
冗談だったらしい。ただ、私は履いてみてほしかったのだが……そう思っていると、今度はレオ君からも呼ばれる。
「どうかな、これ」
レオ君がまず選んでいたのは冒険者用の服である。服というか鎧だが、手元にあるのは初心者がつけていそうな皮鎧。
その皮鎧は剣士がつけるようなものだった。
「こう見えて、剣は得意なんだ」
というレオ君。やめてくれ、女子力高い子が剣振り回してるところを想像ができない。
なに?なんなの?料理も裁縫もできるくせして、剣が使えるの?私への当てつけだろうか?
レイル兄様は小さいときから剣を習っていて、私もそれを見ながら勉強していたが、一向にうまくなれている気がしない。
「どう?」
剣を構えるポーズ(剣は持っていない)をしているレオ君を見ていると、
「でも、皮鎧じゃなくてもいいんだよ?もうちょっと高いのでも、全然払えるからね?」
皮鎧なんて質素なものを選ばなくても他にいいものたくさんあるはずだ。少なくとも、皮鎧だけの品ぞろえで、店がやっていけるはずもないのだからね。
店員がどこに行ってしまっているのかは知らないが、もしここに店員さんがいたらおすすめの商品を聞けたというのにー!
「いや、僕はこれがいいかなって。なんだか、ただの皮鎧じゃないような気がして――」
なにか含みのある言い方をしているな、そう思っていた時、後ろのほうから声がした。
「お客様、おめがたかいですね」
「あー、店員さんですか?」
そこにいたのは森であった変態魔術師さんをほうふつとさせる魔術師用のでかい帽子をかぶった白い髪をしている女性だった。
歳もだいぶ私たちと近そうで、変態魔術師さんとは違い、露出度は控えめである。
「店員ではありません。私はこの店の店長です」
「子供が!?」
「子供ではありません、れっきとした大人です」
眉が一瞬動いた気がしたが、表情は無表情のまま固まっている。どうやら、本当にそうらしい。
店長を名乗るその女性は、おもむろにレオ君の手に持っている皮鎧を指さしながら、
「それは高級な皮で作られた皮鎧に、補助魔法を加えた逸品になっています」
まじか?と思って、私は解析鑑定を行う。
ーーーーーーーーーー
防具名:一角獣の皮鎧
種類:鎧・胸当て
ランク:B
攻撃力:0
耐久力:5000
スキル:なし
補助魔法:使用者が獣人であるとき、能力の50%が上昇する
ーーーーーーーーーー
うん、Bランクとはこれくらいの強度なのか。でも、おそらくこれでも十分なほどの性能にはなると思う。
まるでとってつけたかのように、都合のいい補助魔法が掛かっているおかげで、その耐久力は7500まで増加することになる。
私が、解析結果を伝えると、
「買います!」
即決。
「ありがとうございます。金貨2枚です」
「レオ君ユーリ?装備を選ぶのは後にして、ちょっとこっちに来てみてくれない?」
私はとあるコーナーのような場所を見つけたので、二人を呼ぶ。もちろん店員さんにも来てもらった。
「あの、ここって試着できますか?」
「はい、可能です。着替える場所はございませんが」
ないんかい!
それでもいい。とりあえず日常的に着ることになるであろう私服を二人に選んでもらおう。
やっぱり、服を選ぶ時の醍醐味と言えば試着!試着で着てみて、似合うか似合わないかを考えるあの時間が大好きです。これはたぶん女子あるあるだと思うのは私だけだろうか?
そうと決まれば、まずは二人からだ。
「二人とも!服を脱いで!試着のお時間よ!」
「「はい?」」
二人が顔を赤くしていることに気づかないベアトリスであった。
次回、試着回