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親子喧嘩

 どうも私は考えなしなのかもしれない。その場その場で凌いでるせいで、後がどんどん大変になっていく……。


「ま、まあ!それは着いてから話しましょうよ!ね!」


 そう言って強引に二人を回れ右させる。とりあえず、助けた龍族の人に連れられて、私たちはナターシャたち側の部族へとやってきたのだった。


「うわぁ……」


 グラートの部族と比べれば何倍もある大きさ。そして、中で暮らしている龍族の人々もそれに比例して多い。


 まあ、とはいうものの、大学院の校庭くらいの広さしかないが……。それでも十分おきいことに変わりはない。


「すぐに族長の元へ向かいます」


「え、もう!?」


「当然です、さっき見たツノについて……きっちりと説明してもらわねば困ります!」


 ツノはただの魔法で作ったものなので、その魔法を解除してしまえば跡形もなく消えてしまう。それのせいで、余計に長老の興味をそそってしまったようだ。


 ナターシャはというと、興味はあんまりない様子。


 本人曰く、「強ければ種族は関係ない」とのことだ。


 だが、長老の方が立場上偉いため、私は言いなりにそのまま族長とやらの元へと向かわされた。


 グラートからの話を信じるのであれば、最強の龍族の中に族長は含まれていなかったが……。


 一際でかい建物は高床式になっており、大層立派な階段もついていた。その階段を登っていくと、ドアもなくいきなり部屋があるではないか。


「失礼します」


 長老が中にいる老人たちへと声をかける。


 長老はまだ若々しい見た目をしているが、それでも長老と呼ばれている。じゃあ、中にいる老人たちは一体何歳なのだろう?


 長老が中へ入ると、私とナターシャが後ろから連れられて歩いていく。


 ナターシャの方はあんまり乗り気ではなさそうだ。


「帰ったか……」


「はい」


 目の前にある椅子に鎮座している体の大きな老人。おそらくその人物こそが族長なのだろう。赤いタトゥーが体の中に入っていて、見た目はナターシャに似ている。


「それで、結果はどうだ?」


「相手部族はほぼ沈静化できたと言えるでしょう」


「それは何より……して、そこにいる子は?」


 私の方を向いた族長だが、私は縛られてすらいないので捕虜であることには気づいていなさそうだ。


「こちらは……悔しくも我々が敗北した方です……」


「なに!?」


 周りに控えていた老人集団もざわめき出す。それほどまでに長老は信頼されている実力者だったのだろう。


「ナターシャ、お前は無事か?」


 次に、後ろに控えていたナターシャに声をかけた。おそらく、私と戦ったことによって怪我をしていないか知りたかったのだろう。


 いい親御さんだ、と敵ながら微笑ましく思っていると……


「っるせえクソジジィ見ればわかるだろ」


「っ!?」


 私はその予想外な返答に戸惑う。


(初めて会った時のあの妖艶さはどこへ行った!?)


 これじゃあ、まるで反抗期の娘じゃないか!


 いや、むしろそのくらいの年齢なのかもしれない……。


「そ、そうか……では、なぜその強者がここにいるのだ?」


「それは、我々の捕虜となったからですよ」


「む?話が見えんな」


 長老が族長へと詳しい事情を説明する。その間、ナターシャはものすごい暇そうにしながら髪の毛をいじっていた。


「ふむ、素晴らしく仲間重いな人物だな……どうだ?貴殿がよければ我々の仲間にでも……」


「嫌ですね」


「そ、そうかぁ……」


 私のきっぱりとした拒絶に、再びどよめきが広がる。


「それよりも重大な問題があるのですよ、族長様」


「なんだ?」


 長老は私の頭の方をチラリと見た後に告げる。


「この娘は、龍族でありながら鬼族なのです」


「なんだと!?」


 本日三回目のどよめき。


「それは……一体どういうことだ?」


「ベアトリスさん、見せてくださいな」


 長老に促され、私は再びツノを生やしてみせた。それに対して四回目のざわめきが起こり、族長は神妙な顔持ちで考え込んでいた。


「我ら龍族の民が、鬼族と交わったとは……」


「さらに、この娘は翼持ちです」


「はあ!?」


 五回目。


「はぁ……今日はもう驚きつかれたわい。話をまとめるが、鬼族と龍族のハーフであり、翼を持っていて尚且つお主より若いにも関わらずお主より強いということか」


「その通りです。鬼族と龍族のいい部分だけを全て引き継いだかのような天性の才覚を持っているかと」


 褒めちぎられるのは悪い気分ではないが、敵ながらあっぱれというやつだろうか?


 私の方は一瞬の気の緩みも許されていないので、早く終わってくれることを切に願う。その真摯な願いが神に通じたのか、


「この件については我々で会議していく必要がありそうだ」


「そうですね」


「というわけだ、少女よ。お主には部屋を貸し与えるゆえ、そこでゆっくりと休んでいてほしい」


 どうやら、高待遇で私を受け入れてくれるらしい。捕虜どころから、もはや住民。


 私にとってありがたい話この上ない!何より、先ほどからしていた正座がそろそろ限界だったので話が終わってとても嬉しい。


「ありがとうございます、ありがたく使わせてもらいますわ」


 そう言って立ちあがろうとするが、その前にナターシャが勢いよく立ち上がった。


「なんだよクソジジィ!せっかく無事に帰ってきたのに、娘にかける言葉がたった一言だけなのか!?」


「な、ナターシャ……」


「ふざけんなよ!私だって、戦いたくて戦ってんじゃねえんだぞ!」


「落ち着くんだ、ナターシャ」


「……っもういい!」


 唇を噛み締めながら、どかどかと走り去っていってしまうナターシャの姿を、私はポカンと見つめていた。

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