ベアトリス、ハーフ?
コロナワクチン辛い……。
「ねえ、ほんとにこいつ連れてっていいの?」
「大丈夫でしょう。見たところ情に熱い方なので、抑圧の仕方は多いです」
ルーを連れていかれそうになるという状況に耐えられなかった私は、現在絶賛輸送中です。はぁ……どうしてこんなことになってしまったのだろうか?
「ため息なんかついてどうしたのよ」
「馴れ馴れしく話さないでください。気持ち悪いから」
「龍族は強い奴を尊敬するって決まりがあるの。残念だったわね、もし味方だったならあなたに服従してたところよ」
全く、さっきまで死闘を繰り広げていたと言うのに、この二人は実に呑気すぎるのだ。そのせいで私の覚悟が無駄になった感じがする。
一体どんな拷問が待ち受けているのかとか身構えていたのに、両腕を掴まれて上空を飛行するなんて……。
無様な格好だが、拷問よりはだいぶマシだ。
連れていかれる先はどうやら、敵側のアジトらしい。そこには私がいた部族に住んでる人数を遥かに超える数が暮らしているとのこと。
「それにしても、あなたはなんでそんなに強いの?まるで本物の真龍ね」
「いや、まぁ……」
龍族ですらないんですが……。
だが、龍族はそもそもの基礎スペックが高い。身体能力も高ければ獣人と違って魔力も持っている……極め付けには防御力も高い。
故に、体を鍛えようとする考え方はなかなか生まれないのだ。
その点、体が弱い分鍛えて慣れた私の体は柔にしても優秀な肉体と言えるのかな?
「真龍ねえ……」
個人的には話が通じてそこそこ戦える龍族の方がよっぽど強いと思う。
今まで出会った龍たちは会ったら襲ってくる凶暴なやつだけだったし、本能的に攻撃してくるから攻撃は単調だった。
だからどうすれば目の前にいる敵に勝てるかを考えながら戦ってる龍族は私の中でも脅威である。
特にこの二人。
ナターシャの方は若く経験が浅いお陰で『本気』を出さずとも戦える。
しかし、長老の方はというと普通に強い。もうまじで強い。
フォーマくらい強い。つまり化け物だ。
「なに?真龍様にあったことあるの?」
「あったことあるというか、何度も殺りあってるからな……」
「真龍様と?そりゃすごいわね」
「あれ?怒んないの?」
龍族は真龍を尊敬しているはずだが?
「さっきも言ったでしょ?弱い方が悪いの、私もこれからはちゃんと訓練するわ」
「ほう?姫、最近訓練場に姿が見えないと思っていたんですが……サボっていたのですか」
「あ……」
こういう雑談が始まるとほんとに気が抜けてしまう。
(こいつらは敵!敵だから!)
そうして、しばらく飛んでいるうちに集落が見えてくる。
と言っても、数キロは先にあるようだったが……。強くなってできることが増えると色々と数字もおかしくなっていくな。
「もうすぐね……じゃあ、こっからはスピードを落として……」
ナターシャが何かを見つけて言葉を止める。
「あれって、鬼族かしら?」
「ん?」
ちょうど真下に目をやれば何かが争っている音が聞こえる。
カキンカキンと、鉄がぶつかり合う音がしている。そして、争っているのはよーく目を凝らせば鱗を持っている者と、前頭葉あたりからツノが二本生えている者たちがいた。
「龍族の方はうちの見回り組ね」
「助けるの?」
まあ、当たり前だろうと思って聞いたが答えはノーだった。
「え!?どうして!?」
「弱き者は龍族にあらず。あの程度の鬼族に負けるようじゃ、我々の同胞とは呼べませんね」
やっぱり強さ至上主義なのか……。
強くないと、仲間である価値がないみたいな言い方は私も流石にイラッとくる。
こちとら、人質の身ではあるもののこれは見過ごせない。
「もう!どいて!」
「え?ちょっと待ちなさい!」
腕を振り、拘束を解いた。
まあ、普通の人であればこのまま落下していくところだが、私は龍族という設定なのでね!
「こういう時の翼よね」
魔法で作り上げた偽りの翼を広げると、うまい具合に下降していく。
「「翼持ちだったの!?」」
上の方から声が聞こえる。
そして、下の方へと降りると、
「止まりなさい!」
教師という職についていたからか、無駄に声がでかいので、私の声は争いの最中でも全員の耳に響いた。
「翼持ち!?」
「援軍ダァー!」
「でも、顔見たことないですよ?」
龍族の反応は主に好印象。
鬼族の方はというと、
「くそ、俺たちはここまでか……」
「何言ってるんすか先輩!最後まで諦めないでください!」
「そうですよ!」
なんというか、物語の感動のシーンみたいになってるけど、
「ストップ!私は別に援軍に来たわけでもないし、戦いに来たわけでもないからね?」
「「「え?」」」
まあ、どちらの陣営もポカンとした顔をしていたところ、上から二人が降りてくる。
「姫様、それに長老様!?」
「何してるんだ、えっと……」
長老が私に声をかけようとしているが、どうやら呼び方に困っている様子。
そういえば名前教えてなかったっけ?
「ベアトリス、でしょ?」
ナターシャには自己紹介していたんだった。その声を聞いておほん!とわざとらしく咳払いをした長老は、もう一度話しかける。
「どういうつもりですか、ベアトリスさん」
「どういうつもりも何も、なんで『私が』争わなきゃいけないの?」
「あなたねぇ……」
長老の目が、「お前人質なのわかってる?」と言いたげだ。
しかし、私はそんなこと気にしない!
「ほら、鬼族の方はさっさと帰りなさい。危ないわよ?」
「な、なんだお前は!龍族の情けなんか受けないぞ!」
と、強情にも私の提案を拒絶した。やはり、理解できない。
自分の命を第一に考えろと言いたいところだが、今は戦争中らしいからね。しょうがないのかもしれない。
(この姿の私じゃ説得力はないわね……)
龍族の証である翼を背中に生やしておきながら、鬼族に声をかけるのはあまりにもおかしい。
(あ、そうだ!)
だったら、また魔法をかければいいじゃん!
「しょうがない、じゃあ私の正体を明かすとしよう!」
「しょ、正体だと?」
演技力はかなりのもので、みんな私に注目していた。その中で、私は魔法に細心の注意を払う。
長老とナターシャにバレないようにと、必死に魔力を隠しながら、私は頭に力を入れた。
「ま、まさか!?」
「そんなはずは!?」
「嘘でしょう、ベアトリスさん?」
私の頭からは立派なツノが二本生えていた。それはまさしく鬼族の証である。
「いいから、鬼族のあなたたちは早く帰りなさい」
「は、はい!」
私の鶴の一声で一瞬にして踵を返す鬼族たち。
「あ、ちょっと待って!」
「な、なんでしょうか!?」
鬼族……もとい鬼人。その中には、私の友人がいたはずだ。
ターニャ、最近会ってないけど元気にしているだろうか?
「ターニャという少女に、元気か聞いて。それと、『ベアトリス』は元気と伝えておいてほしいの」
「は、はい!」
そうして、再び去っていく鬼族たち。
「ふー!じゃあ、私たちも早く帰ろっか!」
そう清々しい顔で振り返ると……そこには、こちらを睨みつけている二人の顔があった。
「そのツノ、どういうことなの?」
「一体どういうことなのか、説明してもらいましょうか?」




