二度目の襲撃
「痛い……」
私は一体どんな態勢で寝れば全身にここまでの負担がかかるというのだろう。
「海老ぞりだったからな」
「もとはと言えばあんたらの体がでかいからでしょ?」
「それはしょうがなくねえか?」
体の節々がまだ痛い気がするが、そんなこと言ってる暇はない。できるだけ早く素材を集められるように、私も何かしら動かないと……。
「おはよう、お姉ちゃん……」
「あら、子供はまだ寝てていいのよ?」
「もう、起きたよ」
眠そうにしながらも起き上がるルーちゃん。日も少ししか顔を出していないというのに、偉い。
「一番スペース取ってたやつには怒らないんかよ」
「子供相手に大人げないことできないよ」
「お前も子供だろ!」
外に出てみると、まだ少し暗い気もする。
(ひとまず姫様とやらの居場所を聞かないと……)
居場所を聞いたところで転移できるわけではないが、聞いておくに損はない。転移するためには、詳しい座標まで知っている必要がある。
ドラウがそんな細かいこと覚えてるようには思えない。
「グラートは?」
「兄貴はまだ寝てるよ。朝には弱いんだ」
「意外ね」
「朝早く起こすのはやめとけよ?一緒に住んでた頃は寝ぼけて起こしに来た俺を槍でつついてきやがったんだ……」
今のを聞いて私も起こさないでおこうと決めるのであった。
「そっかぁ……じゃあすることないな」
風景の特徴だけでも聞いておけば、酷似した場所を通り過ぎた時に気づける。
というか、ここって獣王国の近くなのだろう?
少なくとも王国ではない。
(ん?)
そもそもここに来たことないのに、どうして私は転移できたの?
適当に座標を決めて飛ぶなんてことは基本出来ないと思うのだが……。
「うーん、わからんな……」
考えても仕方ないので、とりあえずその件は保留だ。
「にしても、お前は朝に強いんだな」
「私?弱い弱い!もうほんとに起きたくないってぐらいね」
「じゃあ、なんで起きれてんだよ?」
「確かに不思議ね」
「自分でわからんのか!?」
前まで朝は特段強いというわけではなかったが、ちょっと前からなんか強くなった気がする。
というよりも、眠気を感じにくくなってる気さえする。眠るのは『疲れたから』眠るのであって『眠いから』眠るわけではないみたいな?
「って、そういえば……」
レオ君に血を吸ってもらった次の日からだったような……。
「……………」
嫌な妄想が頭をよぎる。
(半吸血鬼……本物の吸血鬼なわけじゃないし、『眷属化』とかしてないわよね?)
吸血鬼は血を吸った相手を下級吸血鬼などに変える力がある。吸った相手を自分の下僕とできるわけだ。
その理論でいけば私も人間卒業している。だけど、レオ君はハーフだ。
ハーフにはきっと眷属化の力はないのだろう。
「でもな~」
朝襲ってくる眠気は一切ないし、むしろ気分爽快だし。
「気にするだけ無駄か」
結局どんだけ考え込んでも後の祭りなわけで……。
「なあ、暇ならちょっくら付き合ってくれね?」
と、ドラウに話しかけられたことで私も頭を切り替える。
「なに?」
「いやぁ、お前翼持ちらしいじゃん?」
背中を見ると、昨日変身したことによって破けた部分が二か所ある。
「だからさ、ルーにも飛び方教えてやってほしいんだ」
「え、でも翼のない飛び方って私……」
ドラウは翼がなくても空を飛んでいた。でも、その飛び方は魔法によるものでもなさそうだったし、私が説明しようとしても絶対に伝わらない。
「いや、翼あるぞ?」
「え?」
「ルーは翼持ちなんだ!」
「すごいね」
「それだけか?他の奴らなんて飛び退くほど驚くってのに……まあ、お前も翼持ちなら当然なんだろうな……」
予想していた反応とは違ったようでがっかりしているドラウ。
部屋から出てきたルーは、寝ぼけ気味ではあるが眠気は消えてきたようだ。
「お姉ちゃん飛べるの?」
「うん」
「やり方教えて!」
「良いわよー」
というわけで、私直伝飛び方講座が始まる。
「翼出してみて」
「うん」
少し力むように目を瞑るルーちゃん。そして、すぐに背中から折りたたまれていた翼が広がる。
まだ子供だからか、すごく小さい。
「可愛い!?」
「お前のとは違うからな!」
後でドラウは殴っておこう。
「さあ、まずは今までやった練習で飛んでみて」
と言っても飛べるわけではない。飛び方が分からないから教えてもらいたいわけであって、最初からできるとは思っていない。
案の定できなかったわけだが、
「まず一つ目、翼に力を入れすぎ」
「うー……」
「二つ目、その小さな翼じゃ体重を支えられるか微妙」
「えぇ?」
「三つ目、飛び上がるタイミングが足と翼で違ってる」
「あー……」
翼に力を加えすぎると、筋肉が固くなって逆にうまく飛べない。
二つ目のほうはかなり問題だが、
「まあ、三つ目を改善すれば長時間落下しながら飛ぶことくらいはできると思うよ?」
「ほんと!?」
「ほんと」
キラキラした目をし、希望にあふれている目を見るとなんだかこっちまで幸せになってくる。
ドラウのほうに目をやると、そんな可愛い弟の姿を見て悶えていた。
見なかったことにはしておいてあげる。
「まずは私がお手本を見せるわ……」
そう言って、私は変身の魔法をかけて、翼を生やす。たたんであった翼が広がっていくかのような演出をしたのち、広げて飛ぶ。
「ほら!こんなふうに……」
そう言って、目線を地面のほうにやろうとしたが、
「あれなんだ?」
森のほうで何かが動く影が見えた。その影は、素早くこちらの部族のほうに向かってきている。また襲撃か?と思って、私一人で退治してやろうかと思ったが、
「あれは……」
その中の集団に、特別派手な格好をしている人物がいた。だが、服はゆったりとしていて、体つきも小さそうだし、女の人のようだ。
そう、見た目だけで言えば完全にお姫様……
「姫?」
私はすぐさま着地し、何も言わずに部屋へと戻る。
どうしたんだ、とドラウが聞いてくるが一旦無視だ。
グラートの体を揺さぶると、少し半目を開いてこちらを見てくる。
「グラート!起きて!」
「どうした、えーっと……」
「敵襲よ!」