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ベアトリス、部族に訪れる

 青い髪が私よりも長く、身長は二メートル近くあるのではないかと疑いたくなるほどの高さ。切れ長な目は私と同じだ。


「え、あ、はい!大丈夫ですけど……」


 手出しされなくても大丈夫だったとは到底言えそうになり雰囲気だったので、私は素直に感謝の意を述べる。


 素材さえ回収できれば、誰が倒そうと知ったこっちゃないのだ。


「そうか、それはよかった」


 そう言って立ち去ろうとする男。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


「どうした?」


「いや、どうしたじゃないですよ!」


 通りすがりに助けただけなのだろうけど、気になるのは彼の腕だ。


「その腕……鱗?」


 鱗……というよりも、龍の腕かの如くに形が変形している。見た目は人の姿をしているが、通りすがりの龍だったりするのだろうか?


「お前が知る必要はないだろう。では、失礼する」


 すぐに去ろうとすんなや!


 うーん、気になる。あんな腕をしている人など滅多に見ない。というか二回繰り返した人生の中で一度もあんな姿をした人に会った記憶はない。


 とても面白そうだ。


 腕をよく見ると、古そうな傷跡がついている。


(うろこに傷をつけるなんて相当な手練れなのね)


 そう思いつつも、余裕でいられる自分がいる。私も大概オカシイからね。


 観察している間にも去ろうとする男。


 名前も教えてもらっていないのに帰ろうなどと……


「ねえ、せめて名前だけでも教えて頂戴?」


「なぜだ?」


 前に回り込んで目をじっと見つめてやるが、嫌味で言っているのではなく、本気でなぜしなければならないのかわかっていなさそうな目をしている。


「命の恩人なんだから、名前くらい教えてくれたっていいでしょう?」


「命の恩人なのは俺だ。その俺が名乗らないのだから、お前は大人しく帰れ」


 ムカつく物言いで私が引き下がるとでも?


「そこまで言うなら……絶対に帰らないわ!」


「は?」


「どうせなら、あなたが向かう先までついてってやる!」


 ついでに嫌がらせも!


「はあ……勝手にしろ」


 深いため息を吐かれたが問題はない。


 別に私のお使いは今日中に集めてこいという者でもないし、何なら転移でいつでも帰ることが出来るのだから大丈夫。


(さあ、付け回すわよ!)



 ♦♢♦♢♦



 しばらく歩き回っていると、何度も魔物に出くわすものだ。そのたんびに男はいちいちその魔物を狩っている。


 向こうにこちらの存在がバレていないという魔物もだ。そこまで徹底して狩りを行うのだから、素材がたくさんほしいのかと思ってみてみれば、素材採取を行う様子は一切なく素通りしていった。


 そして、やがて歩いていた部分を一周してしまう。


「ここは……元の場所じゃない?」


 最初に倒したサイクロプスが倒れているところまで戻ってくると、男は今度は先ほど回った円の内側へと向かっていった。


 何があったのか……端的に言えばそこは集落だった。


 しかし、わらで作った家や、地面から床を離した高床の建物などがあった。それらは、どっからどう見ても田舎どころの話ではない。


 まるで何世紀も前の世界を見ている気分だった。


「族長!」


 誰かの声がする。


「おかえりなさい!」


「族長が戻られたぞー!」


 けたたましい声が何度も聞こえ、私は思わず耳を塞いだ。


「お前が勝手について来たんだ。勝手に耳を塞ぐな」


「んな……無茶な」


 声が聞こえてきて間もなく、何人かの人が家から出てくる。


 その人たちは普通の人間と何ら変わらない見た目をしている。


(ん?)


 目以外は。


「族長、その娘は?」


「ああ……巡回中に見つけて助けたら勝手について来た」


「なんと!族長自ら助けられるとは……幸運だったな子供よ」


 どうやら、族長というのはこの青髪の男のことらしい。


「お前ら、客だ。部屋に入れさせろ」


 一際大きな家に私は連れていかれる。族長も中に入ると、目の前にある椅子に座った。


 王国の玉座の間と比べたらお粗末なものかもしれないが、いろんな生き物の骨で作られたその大きな椅子はかなりのインパクトがあった。


 片方の足をもう片方の足の上に乗せ、頬杖をついた。


「子供よ、跪くのだ」


 と、となりで歩いてきたこの部族?の人に促され、私も仕方なく跪いた。


「ほう?」


「な、なんでしょうか?」


「子供とは思っていたが、その洗練された動き……いったいどこで身に着けた?」


 貴族として教育された私はもちろん跪く練習も毎日やっていた。最近はそんな面倒くさいことやんないけど、体に染みついてしまったものはなかなか取れないものである。


「まあいい。私はこの部族の長、グラートである」


 と、ようやく名乗ってくれた。


「私はベアトリスです」


「さて、私はお前の要求である『同行』を許可したわけだが、お前はどこの部族の者だ?」


「え?」


 私の疑問の声と同時に周りにいた大人たちが一斉に立ち上がる。


「敵対している部族の子ならここで殺すが、同盟を結んでいる部族ならば客として迎え入れよう」


 他にも似たような部族があるらしく、そして私は勝手にどれかの部族の子供ということになっているらしい。


「族長、でもこの子供。どこにも片鱗がありませんよ?」


「片鱗……?」


 片鱗とは?


 力の一端的な意味のことか?


 それとも……


「ベアトリスよ、お前が()()である証を見せろ」

この場合の片鱗は、うろこのことを示しています。

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