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クラブ勧誘

 最近は授業というものにも慣れてきたからか、かなり気持ちに余裕を持てるようになってきた。なぜだかわからないが、ヤンキーが若干素直になったのだが、それも授業進行がしやすくなった要因のうちの一つだろう。


 いつの間にかキンコンカンコンと、チャイムが鳴っていた。


「授業はここまで、各自教室に帰って座学の準備をしなさい」


 そう宣言したところで、女子は更衣室、男子は教室に戻っていった。どうやら女子は制服を何着か一日のうちに使うらしい。


 潔癖症というのか……汗をかいたら『汗拭きシート』なるもので普段は拭くらしいが、この世界にはそんなもの存在していないので、着替えるしかないのだと。


 まあ、制服は何着か支給されるので、使い方は人それぞれ違ってもいいし、私が文句を言うべきではない。


 そんなことを考えていたら、


「あ、あの先生……」


「クラさん?どうしましたか」


 この間の実践でヤンキーたちと同じ班になっていた子だ。


 この子は魔法使いで、主にサポートを担当している。得意としている魔法の多くが、補助魔法が多いからなのだが……


(自分に自信がないのかな〜?)


 補助魔法を味方に付与するタイミングを慎重に窺いすぎるので、いざと言うタイミングでなかなか上手く使いこなせていないのが難点。


「先生……私はどうしたらいいでしょうか?」


「何を?」


「私は、ナナさんたちとチームを組みましたが、どうしても……その、役に立ててなくて……」


 彼女自身、私の考えていたことと同じことで悩んでいた。ヤンキーとナナはクラスのツートップ。


 実力でも人脈でもだ。なお、ヤンキーの周りからの評価は低い模様。


 そんな彼らの役に立ちたいとのことだった。


「何をしても私はダメで……私なんか、いない方がマシなんじゃないかって……」


「そんなことはないと思うけどな」


 クラさんは自信がないだけで、能力が劣っていると言うことは決してないのだ。


 この世には職業専用スキルや、努力で習得可能なスキルが存在する。


 そして、そこで重要になってくるのは何かというと、『スキル』そのものである。魔法を使ったことがない初心者でも『火魔法』のスキルを獲得すれば、あっと言う間に火の魔法使いになれる。


 もちろん、スキルがなくても魔法は使えるが、私の教える生徒たちは何を隠そう異世界人なのだ。


 異世界には魔法というものは存在しないらしく、それは彼らに魔力が一切ないから使えなかったのだ。それはここでも同じこと。


 魔力を生徒たちは一切持っていない。だが、職業スキルの力を使えば空気中から魔力を取り出して、スキルの補助を受けて魔法を行使できる。


 魔法の発動の仕方もわからないのに、魔法が発動できるのはそういうわけだ。


 そして、スキルにも強さや有用性において優劣がある。珍しいほど、未知数の力を秘めている。


 私は生徒の特徴を全て把握している。


 自己紹介カードというものを作って、それを生徒たちに書かせたのだ。その内容に、持っているスキル一覧という項目を書いた。


 クラさんがそこに書いたスキルは『付与魔法:極』


 極っていうのはおそらくスキルの強さを表しているのだろう。


 付与魔法を使える人材は極めて珍しく、スキル持ちともなれば、王国には数人しかいない。この時点でクラさんは十分すごい。


 その他の基本的な魔術や魔法も、満遍なく習得しているので一人の先生としてはとても優秀な生徒と感じていたのだ。


「自信を持ちなよ。あなたは十分すごいと思うよ?」


「でも、まだ役に立ったことなんて一度もないんです!今のままじゃダメなんです!変わらないといけないんです!そうしないと……私の居場所なんて……」


 そう言って再び俯くクラさん。


 悩みすぎるのもいけないかな。


 功ばかり焦っていては、死に急ぐようなものだ。


(あ、そうだ!)


「いいこと思いついた!クラさん!今日の放課後お暇かしら!?」


「へ?暇ですけど……」


「今日は、私が設立したクラブがある日なの。よかったら来てみない?」



 ♦️



「えっと、ここは?」


「部室よ!」


 そこはどうみても、『the女子部屋』といった雰囲気だった。


 まあ、私の好みを詰め込んだから、そうなるのは必然なわけだけどね!


 もこもこしたカーペットと、大きめのソファがあり、座れる椅子もやっぱり柔らかい背もたれ。


 そして、部員がくつろげるように、広々としたスペースがあり、さらには『おもちゃ』がたくさんあった。


「あの、ここで何を……」


 無理やり連れてきたクラさんはまだ私がどんなクラブを立ち上げたのかわからないのだろう。


 だがしかーし!


「キュン!」


 久しぶりに聞く鳴き声。


「来たわよユーリ!」


「キュン!」


 飛びついてくるのは、明るい茶色の毛並みのキツネ。


「ユーリ先生?」


「そうだよ、()()()()()()()()()()()()


「え、えぇ?」


「あ、後レオ君もそこにいるよ」


「ええ?」


 奥の方で優雅に手を振るケモノ。


 あまりの情報量の多さにクラさんが困惑していると、入ってきた扉が開いた。


「あ、クラさんもこのクラブ入るんですか?」


「ナナさん……?」


 ナナが部屋へと入ってくると、後ろからひょっこりレイとオリビアが入室してくる。


「ヤッホー!クラちん!」


「初めましてですね、クラさん」


 レイの馴れ馴れしすぎる挨拶と、オリビアから礼儀のなった挨拶をされたクラさんはおずおずとお辞儀しながら、横へとずれていく。


「そんな部屋の隅っこに居なくていいんだけど……」


「同じクラブに入るんですもの、そのうち仲良くなれると思いますよ?」


「それもそうね」


 オリビアの的確なアドバイス。


「それはそうと……みんな。()()()()は?」


 それは、『もの』などではない。が、それは気分である。


 そして、三名がニンマリとした笑顔で答える。


「もちろん連れてきたよ!」


 そう言って、外からケージを運び込んできた。


「あの、先生?それは?」


「ああ、猫用のケージね」


「ね、ねこ?」


 ケージの蓋を開けると、なかなか顔を出そうとしない何かが動いていた。何か危険があるのではないかと警戒しているそれは、前足でケージの外を探っている。


「きゃー!可愛い!」


「尊い!」


「不覚……ここまでとは……!」


 約三名ほどが、『猫』の前足によって既にノックアウトされてしまったようだ。


「あの、先生。この部活は何をする部活なのですか?」


「ああ、言ってなかったね。このクラブは日頃溜まった疲れを癒すためのクラブ……勉強なんてめんどくさい!部活もいきたくない!あのハゲ教師がうざい!などなど、悩みのある人大募集中の……」


 名前はあらかじめ決めていた。この名前をみんなに伝えた時は、かなり好評だった。


「通称『ねころ部』よ!」

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