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ベアトリスの朝

 ベアトリスの、教師としての朝は早かった。


 まだ、朝日の光も暗く、体の疲れや怠さ……そして、昨日の熱がまだ冷め止まない。


 指を見れば昨日の夜、魔法で切った切り傷はもはや残っていない。


「治るの早いわね……」


 傷の跡も残っていないのは幸いだ。レオ君に傷口を舐めてもらったからだろうか?


 指を眺めていると、昨日の光景が頭をよぎる。


「……………」


 冷静に思い出せば、いや冷静じゃなくてもわかる……昨日の夜は絶対私は冷静さを欠いていた。


「だけど……」


 隣のベッドを見れば、寝ているレオ君。思わず布団で隠れている下半身に目が……


「忘れろ……忘れるんだ私……」


 大丈夫……人生で初めてみたけど、それは気のせいだったのよ!


「それよりも、今日は入学試験日よ!」


 学院までやってくる人の誘導、試験監督と実技試験の相手……親御さん方の誘導にペーパー試験の丸付けと、その後の職員会議……。


 職員会議では首席や次席を決め、クラス分け、担当職員選抜……これを全て一日で終わらせなければならないそうだ。


 それに加えて、合間合間に私が担当している生徒たちが入学試験の邪魔などをしないように監視もしなければならない。


 今日は休日なのだが……入学試験で混雑しているのにも関わらず、人を押し分け外出するなど論外。そして、それらは監督の不届として、担当教師の責任である。


 副教師は基本は休日であるがため、二人が進んで手伝いをしない限り協力は見込めない。


 ユーリは、手伝えば逆になんか邪魔になる気しかしない……うん。レオ君は昨日の今日だ。


 というか、私が気まずくて集中できないのだ!


「そろそろ出ますかね……」


 一人起きてここでぼーっとしてるのもあれなので、私は部屋を出る。


 そして、外に出て廊下に目をやれば、せわしなく動き回る職員たちの姿があるではないか!


 いうまでもなく、今日の準備。私も手伝ったほうがいいのだろうが、あの中に混ざっていく勇気は私にはなかった。


 あの手に持ってる書類を転んで床にぶちまけようものなら、絶対に白目で見られる!


「私には、荷が重いよ……」


 とりあえず、理事長を探す。理事長に指示を仰いでから動くというのは至極まっとうな考えだ。


 もし、なにか失敗でもしたら、すべて理事長の指示として押し付けてやろうとかは一切考えてないから安心してね?


 昨日も登った階段を再び上がり、理事長室へと向かう。


「失礼します」


 ノックしてから声をかけ、中へと入る。


「やあ、ようやく起きましたね」


「少し遅かったですか?」


「いえ、子供にしては早い方なので及第点です」


 というわけで、朝から機嫌がよさそうな理事長に指示を仰ぐ。


「そうですねぇ……試験問題の用意などはすでにほかの者が回っていますので、ここは警備に回ってもらえますか?」


「警備?」


「職員たちの中に、周囲を警戒しながら防御魔法を展開して、さらに受験生たちに気を配れるほど器用な人はいないんですよ、あなた以外」


「もちろん、答案用紙の警備もね」と付け加える理事長。


(ひとまず結界を張ればいいのでしょう?)


 まずは一枚……大学院全体に大きく張る。そして、答案用紙には……必要ないとは思うが結界つけとくか。


 そう思った私は、早速魔力を起動する。


 寝起きでも私の魔力は冴えている。私を中心に大学院を覆いつくすように魔力を伸ばしていき、それを結界として魔法付与を行う。


 結界を張ったことで私の魔力は削れるが、不思議といつもよりも元気である。


(なんだか、いつもより体が軽い気がする)


 それはとても喜ばしいことだから良しとしよう。


「結界を張ったので、外からの襲撃には耐えれるでしょう」


「もう張ったのですか!?」


「ええ、まあ」


「仕事早いね……ま、まあ結界を張ってくれたんだったら心配ないか。と言っても、まだ試験監督としての仕事が残ってるから気は抜かないように」


「はい」


 試験監督兼実技試験官と聞くと、仰々しくてかっこよく感じるが、要するにただの重労働である。


 まあ、今日頑張れば明日は休みなので、頑張っていこうとは思うが。


「もう外に受験生たちがいると思うから、誘導お願いしていいかな?」


「わかりました、行ってきます」


 こんな朝早くだというのに、物好きな受験生たちはわざわざ早く校門の前に立っている。もう少し寝たほうが頭の中の記憶が整理されていいと思うのだが……あるあるだよね。


 緊張すればするほど、早く起きちゃうっていうか?


 まあ、私の場合は「及第点」だったそうだが……。


 そして、いざ校門まで向かってみれば、すでに受験生と親御さんと思われる人々で埋まりきっていた。


 不幸中の幸いか、うちの職員の指示がうまかったのか、みんなきっちり並んでいる。


 単語帳というのだろうか?を持って並んでいる生徒たちが大半を占めている。そして、その生徒たちはどうにも私のことが気になったらしい。


「そりゃそうね……大学院にどうして自分たちよりも小さな子供がいるのかって話よね」


 今更気にする気はないが、あまり慣れない視線だ。


「受験生の皆様方!大学院内入場可能開始時刻となりましたので、受付を始めます!」


 一人の教師がそう宣言した瞬間、動き出す列を見ながら私も気合を入れるのだった。


「A受験の方はこちらでーす!」


 と、大声で言うと「お前教師だったのかよ!?」という表情が返ってきたので、少し気が抜けたが……。

面白かったと感じたらブクマ評価よろしくですー!

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