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色欲の過去

 私の生まれは貧しい占い師の家系だった。

 毎日親の占いを眺めて過ごしていた。


 弟と一緒に。


「ねえ?こんなことして意味あるの?」


 なんで親が水晶を覗き込んで、運勢を見たりしているのか不思議でならなかった。


「ふふふ、それはね。そうするとみんな幸せになれるのよ」


「?」


「村のみんなの運を覗いたりしてね、みんなを喜ばせるのよ。私の仕事はそういうこと。それさえわかっていたらいいわ」


 母親はそういった。


 私はまだわからなかったけど、母の言うことを信じて、追及はしなかった。


 村のみんなは優しい。

 いい人たちばかりだ。


 私が家に使う水を運んでいたら、手伝ってくれる。

 弟と一緒に遊んでくれたり、おすそわけだってしてくれた。


 とっても優しい人たちだ。

 その優しさを感じながら過ごしてきたからか、その日は地獄だった。



 ♦♢♦♢♦



 ある日の夜、一軒の家が燃えだした。

 そのきっかけは分からなかった。


 一軒が燃えだした後、二軒、三軒と燃え出す。

 その時の私は、布団に入って、弟と一緒に寝ていた。


「お姉ちゃんが、見てくるから!動いちゃだめよ!」


「う、うん……!」


 弟は今と変わらずにいい子だった。

 私の言うことをまじめに聞き入れてくれた。


 父親はいない。

 母親は占い師。


 母は仕事の関係上で、仕事場に残ることが多かった。

 夜遅くまで占っているのだ。


 だから、私が普段家事をこなしたり、弟の面倒を見たりしているのだ。

 弟は今と見た目はさほど変わらない。


 吸血鬼の成長速度はまちまちだからだ。

 逆に私は人間とさほど変わらない成長速度だった。


 それが余計に私の『責任感』増幅させた。


(弟は私が守る)


 部屋をでて家の外をこっそりと覗けば、よく知る夫婦や、隣に住むおばさんたちが外に逃げていた。


 みんな慌てている。

 どうして慌てているのかは、窓から見えた炎が原因だとすぐに分かった。


 そして、私はその人たちの元まで向かった。


 走っていき、話しかけようとしたその時、


「ぎゃああああああああ!」


「いやあああああ!」


 そんな悲鳴が聞こえて、燃えた。

 その場に集まっていた知り合い全員が燃やされたのだ。


「え……?」


 脳の回転が著しく遅くなって、私はその場に座り込んでしまった。


「あれ?子供かー。どうしよう、殺しとこっかな?」


「っ!」


 燃えカスから顔を背けて、横を見る。

 そこには女が立っていた。


 冷たい視線とともに、私を殺そうか迷っている様子だった。


「な、なに?誰よ……あなたは!」


「私?私はね~……簡単に言えば悪い人だよ。ここを治めてる領主さんが脱税してさー。だから街から村まで全員殺そうかなって思って!……あれ?私って善人じゃない?」


「わけ……わかんない」


 その女はその言葉を話し終えるまでずっと真顔だった。

 人の生き死になんてどうでもいいかのように、私を見つめていた。


「でもまあ、子供なんていくらでも殺してきたし、何なら向かいに住んでた子も殺しちゃったしー、君も殺すね?」


「向かいに住んでる子供って……!」


「あ?友達だった?ごめんごめん、早く会わせてあげるからね」


 そして、いきなり首を絞められた。


「がっ……!」


「がんばれがんばれ」


 心無い応援。


 ただ、そこで私は生を諦めることはなかった。


(弟は私が、守らないといけないの!)


 そう考えていたのが裏目に出たのかもしれない。


「うん?奥の家にまだ人がいるのかい?」


「!」


「あ、ほんとだ。小さい魔力があるねー」


「や、やめ……」


 私を掴む手とは反対の手の上に炎を突如出現させた。

 それを私たちの家に飛ばしたのだ。


 瞬く間に燃え広がり、一番燃えやすかったのだろう屋根部分がすぐにでも崩れてしまいそうだ。


「っ!」


「?」


 私は思いっきり力を込めた。

 爪を立てて、その女の手をちぎってやろうかのごとくに握る。


 爪は腕に食い込み、肉をえぐる感覚がした。

 それだけで、私は吐きそうになったが、それよりも弟の安否が心配で気にもしていられなかった。


「ちょっと痛いなー。わかったわかった、離すよ」


 そう言って、女は私の首を離した。

 それと同時に、駆け出す……なんてことはできずに、咳を吐きながら、のろのろと進んでいく。


 首を絞められて、めまいがしていた。

 今にも倒れそうだったが、全力で歩いた。


 家の入口にたどり着き、つぶされた喉で精いっぱい叫んだ。


「っっっ!」


 だが、私の声は声にならずに、出せなかった。

 しかし、弟は私の気配の気づいたらしく、


「お姉ちゃん!」


 高い声でそう呼びかけた。

 私は声のする方に進んだ。


 言いつけ通りに、一緒に寝ていた部屋にいるようだ。


 炎が視界を遮る中、ようやく部屋に入った。


「お姉ちゃん!」


「!」


 部屋の隅には、弟が丸くなって、泣いていた。

 そりゃそうだ。


 怖かったのだろう?


 今お姉ちゃんが……。


 手を伸ばそうとしたとき、弟は急に立ち上がって、私を突き飛ばした。


 私が目を見開いて驚いているのを見て、弟は笑っていた。


 私が尻もちをついた瞬間、さっきまでたっていた場所に屋根が崩れて落ちてきていた。



 ♦♢♦♢♦



 あれから、百年。

 こうして再開した。


「ベアトリス……あなたは、一体何なの?」


 私にはよくわからなかった。

 私は感じたのだ。


 彼女は私と同じくらいの苦しみを経験していると。

 その上で、前に突き進んでいるのだと。


 私よりもよっぽど強い。

 部屋にこもって、親の形見の水晶を覗いて、諦めかけていた私とは違って!


「お姉ちゃん」


「ん?」


「久しぶり」


 ……………。


「生きててくれて、ありがとう」


 その部屋にいた二人は、静かに笑いあった。

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