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怒りの色欲

 出すことにした……ではなく、正確には出さなくればならなかった、だ。


「えー?なんで避けるの?」


 私が必死になって避けるのを顔色一つ変えずに、追いかける強欲。

 私の必死さはどうやら彼女には伝わっていないようだ。


「顔色くらい変えろよバカ!」


「顔色?笑え、ということ?」


 あーもうだめだこいつ。


 私の全力でも、強欲の体力を削ることはできなさそう。

 同時展開していた魔法をすべて解除して、身体強化系のみを展開しているのにもかかわらず、逃げ切れないし、攻めきれない。


 攻撃をすれば、躱され、逃げようとすれば回り込まれる。


 素早さにおいては、私よりも早い。


 だったら、攻撃力は?


 何度目かの攻防で、流石の私もよけきれずに攻撃を受けた。

 防御結界を張っていない状態で……。


 両腕を使ってその攻撃を防いだのにも関わらず、両腕が一瞬で粉砕された。


 粉砕骨折?

 複雑骨折?


 呼び方は何でもいいけど、粉々にされたのち、思いっきり、狭い廊下を吹っ飛ばされた。


 壁にぶつかって痛むはずの背中も、腕の痛みを比べるとあってないようなものだった。


 回復魔法を使う。

 腕は数秒もかからずに治った。


 だが、それで勝負が終わるわけない。


「今度はこのぐらいで」


 目の前にいる強欲は力を調整するかのように、つぶやいた。


 再び吹き飛ばされる。

 ただ、今度は威力が違った。


 両腕骨折のみならず、衝撃が伝わって、あばらも折ってしまった。

 大したケガではないものの、さっきの威力とは少し違う。


(憤怒さんは攻撃を使えば使うほど、無条件で威力が増すって力を持っていたけど……)


 似たような能力を強欲も持っているのだろう。


 調節できる分、憤怒さんよりすごいかも。


 軽口をたたく間にも強欲は近づいてくる。

 後ろにあったはずの壁はいつの間にか消えてなくなり、新たな廊下が見えた。


 それが繰り返される。


(ここは狭い廊下。なら!)


 私は風魔法を展開する。

 特別、得意な魔法ではないが、使う価値は十分にあった。


 狭苦しい通路において、特例を除いて魔法は有効手段とは言えない。


 味方に攻撃が当たる可能性もある。

 そして、術者自身も危険を伴う。


 だが、今回はそのうちの特例だ。


 術者の魔法よりも更なる危険が迫っていた場合、それは友好的手段となる。


「今度はそっちが吹っ飛べ!」


 狭い通路に、一方通行の風が吹き抜く。

 どんな存在も魔法の影響には逆らえない。


 そう思っていた。


「な!?」


「風の魔法?涼しくていいね」


 平然とその女は立っていた。

 振り上げられた拳は私の顔まで迫る。


 私は防御を張る。

 もちろん割れて、腕に衝撃が走った。


 だが今度は折れなかった。

 上半身に力を入れて、耐えたのだ。


 しかし、その代わりに足の踏ん張りが弱まって、さっきよりも長い距離を飛ばされることとなったが……。


 吹き飛んでいく最中に扉が見えた。

 このまま吹き飛べばその扉にぶつかるだろう。


(いったん逃げる!というか、もとよりそのつもりだし!)


 さっさとこんなところから抜け出すためにも、転移するくらいの時間稼ぎはしないと。


 そして、流れに乗って扉の中に飛び込んだ。


「はあ…はあ……」


 珍しく息が切れたが、この隙に早く転移を……。


「探したわよ、ベアトリス・フォン・アナトレス」


「!?」


 強欲とは違う別の声が聞こえてきた。


 そして、最悪なことに扉がまた開いた。


「色欲、連れてきた」


「つ、連れてきた?」


「動き回るから、ここまで誘導するの、大変だった」


「!」


 まじかよ……。


 そんなことしながら、私と戦っていたわけ?


 ふざけんな!

 チートだチート!


「さて、私たちに迷惑を散々こうむってくれたベアトリスくん?」


 玉座から立ち上がった色欲が私のもとに近づいてくる。


「おかげさまで私の国にも探し物をしに、悪魔さんが来たのよねー?いったいどんな人を探してるんだろうねー?」


「……………」


 私が黙りこくっていたら、コツコツと靴を鳴らして、私の胸倉をつかんだ。


「お前だよ!お前のせいだよ!かくれんぼは楽しかった?じゃあ、今度は何してあそぼっか?」


 そう言って、急に怒り出した色欲はフラフラと少し離れたところにある箱をあさりに行く。


 ガチャガチャと金属音が響き、やがて、二本の剣を引き抜いた。

 そして、一本を私の方に投げつけてきた。


「私と戦いなさい。あなたがそれ相応の実力を持っているのであれば、悪魔を追い払え。出なければ、すぐさまに殺して、奴らに捧げるとするわ!」


 瞬間、私は何も見えなくなった。


「雑魚。所詮はその程度なのよ」


 私は迫るそれをかろうじて避ける。


(見えなくなったんじゃない!剣の黒い刃が目に近づきすぎたんだわ!)


 気づいた時には、目から数ミリ以内に剣が滑り込んできていた。

 それを避けただけで、攻撃が終わるわけない。


「死ね!」


 後ろに回り込んだ色欲が私の首元を狙って、剣を振り下ろす。


 咄嗟に私は手に持つ剣を投げた。


 剣と剣は音を立ててはじきあった。

 だが、私の手にあったはずの武器は今やなくなってしまった。

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