ベアトリス、再会する
「私はこの時代、生まれてなかったな」
「じゃあなんで戦争だってわかるんですか」
記憶を見れると言うのは知っているけども、一発で戦争だと言い当てられるのはおかしいでしょ。
走りながらも憤怒さんは答えてくれた。
「先輩たちが教えてくれたんだよ、封印される前にね。とある王国にはいつになっても死なない、聖騎士がいるそうだよ」
そう言って、私の方をチラリと見た。
(なに!?なんでこっち見るの!?)
まあいい。
「とにかく、なんで街の外に出ようとしているの?」
「戦場に向かうにきまってるでしょ」
何が決まってるでしょ、だよ!
戦時中に戦場に行くバカがどこにいるっていうの!
「ここにw」
「笑えないわよ!」
まあ、こんなことを言いつつ、もう戦場にはついてしまったわけだけどね。
いつの間にか、走る足を止めて、それを眺めている。
戦場は崖の下で起きていた。
ここの地形は今とそう変わっていなく、崖と野原が続いている。
「ほら、見ろよ」
そう言われて、下を眺めてみれば、そこにいるのはたった数人。
「え?戦争ってもっとたくさんの人がいるもんじゃ……」
「あんたも知っているだろ。罪人たちと勇者、騎士の戦いを……」
いや、あんまし知らないのだけど?
心の中でそんなことを思っていたばかりに、心を読んだ憤怒さんはあきれる。
「ここは第二次聖戦の真っただ中。吸血鬼は獣王国を離れて、魔族側につき、勇者ととある聖騎士によって半壊に追いやられた……」
もう一度下を向き、その戦いを見る。
よく見れば、その規模の大きさがうかがえた。
(遠近感で分からなかったけど、もしかして、あれが罪人さんたち?)
八人いるかなり特徴的な吸血鬼らしき人。
そして別に二人、防具を着た人がいる。
「って、ちょっと待って!あの女性の人!」
「ようやくか。あの女に見覚えは?」
騎士の格好をしたその女性は茶髪の髪をなびかせている。
(あれって……母様?)
「なんだ?あんたの親なのか?」
「いや、絶対違う!だってメアリ母様は人間だもの!なんでこんな大昔に?」
「じゃあ、あんたの見間違い?」
でも、そうは思えないのだけど……。
繰り返される戦闘。
もう一人の男の騎士……おそらくこの時代の勇者とともに、戦っている女性は、私が最後の見た母様の姿にあまりに酷似している。
八人のうち一人がなにか巨大な魔法を展開しているのが見えた。
正直、危ないとは思わなかった。
もし、あれが母様なら、きっと無事だから。
そこから召喚された魔法は巨大な黒い玉。
それは触れたものを一瞬で吸収した。
(ブラックホール?でも、あんな巨大なの、私にはできなさそう)
そう思いながら、行く末を見てみれば、女性が勇者を下がらせた。
そして、剣を一度柄にしまい込み、片手を差し出した。
手をかざした瞬間に、そのブラックホールは押し止められた。
そして、手でそれを跳ね返す。
それは八人のほうに向かっていく。
すぐに、魔法を展開した男がそれを上に持ち上げて、かろうじて避けられたようだ。
「絶対母様ですね」
「心変わり早くない?」
「いいんです!あんなぐらい強いのだから、絶対母様です!」
「お前の家族、怖すぎだろ!は?なんなの?『不死の聖騎士』と言われてたらしいあの女の子供?嘘でしょ?」
「不死の聖騎士というのは知らないですけど、メアリ母様は聖騎士でしたし、ものすごく強いですよ。私よりも」
そう言ったら、憤怒さんも信じざる負えないようだ。
なぜなら、私が嘘をついている思念が読み取れなかったからだろう。
「まあ、あそこに突っ込んでいくようなことはしないと思うけど、近づくのは……」
「えー?なんか言いましたかー?」
そんな声が聞こえた時にはもう遅かった。
私はその崖から飛び降りてる真っ最中だった。
「はあ!?あのバッカ!……知らん!私は見ているだけだ!先輩たちの邪魔をするわけにもいかないからな!」
その声を最後に、私は十人の間に飛び降りる。
飛び降りてきたとき、ちょうどお互いが必殺技のようなものを出そうとしていた。
「あーちょっと待ってー!」
「「「!?」」」
全員が私の方を見た。
その表情は全員決まって驚きの表情だ。
着地した私は、速攻で女性の元へ走っていく。
「すみません!名前をうかがってもいいですか?」
「え、あ、え?メアリ……ですけど」
やっぱりそうだった!
「嘘とかじゃないですよね!」
「ええ、まあ……」
私は感激のあまり泣きそうになってしまった。
メアリ母様は私のせいで死んだも同然。
だから、少なからず罪悪感は感じているのだ。
いや、それしか感じていなかった。
感傷に浸っている間に、
「おいガキ!邪魔するんじゃねーぞ!」
後ろから声が聞こえる。
誰の声かは知らないけど、罪人さんの誰かなのだろう。
その声の主らしき人物を見つけて、私はにらみつけた。
「は?黙れよ、吸血鬼。夜しか活動できない引きこもりは引っ込んでろ」
罪人たちは呆然とした顔をした。
この女児は何を言っているのか理解できない様子。
そして、声の主だった男は一人、顔を真っ赤にした怒っていた。
「ぶっ殺してやる!こっちこいやガキ!」
その声を聞いた瞬間、私の体は勝手に動いていた。
おそらく、私の動きが見えたのはメアリ母様だけだったことだろう。
「口の利き方には気をつけなさい」
そう言った私の腕は、男の腹を貫通していた。