他の罪
そして、また風景が変わる。
そこは、灰色の壁で囲まれていた。
先ほどまでの開放的な空間はどこへやら、今度は狭っ苦しい小さな部屋の中だった。
「同僚からの呼び出しだよ」
「同僚?」
「そう、同じ罪人」
そう笑いかけるナインだが、目は笑っていない。
「そこの扉をあけて」
そう言われて、横を見れば小さな木の扉があった。
扉に向かい、開ける。
すると、
「新人?」
「へ?」
扉の奥の風景を見る前に、そんな言葉が聞こえ、上を見る。
そこには、
「蜘蛛!?」
「失礼な奴、ねえ強欲。食ってもいい?」
「だめだよ、この子はあの子の餌らしいから」
聞き捨てならないことを聞いたがその前に、
「あなたは、どちら様で?」
その女性?は壁に張り付いていた。
扉の上にね。
女性の見た目は小さく、ナインよりも痩せていた。
というよりも、がりがりで今にも死にそうな見た目だ。
目に光は宿っていない。
それはナインも同じことではあるのだが……。
服はあってないようなもの。
スカートとタイツを履いていたが、体が物理的に反対に向いているので、重力に従って、スカートの意味をなしていない。
ただ、本人はもちろん気にすることはなく、
「その子も私の同僚で、『暴食』を担っているよ」
「暴食?」
「そうさ、私よりも頭がおかしい子さ」
「頭がおかしい人に言われたくないな」
ごめんごめん、と謝るナイン。
二人とも仲良さげに喋っている。
「この子も、権能を持っているの?」
「もちろんさ、私の権能じゃないから言ってもいいかな。暴食の権能は『食』だよ」
「なにそれ?」
「なんでも食べちゃうって思ってくれたら、わかりやすいかな。攻撃魔法が放たれても無効化して体にまりょくとして吸収される。あらゆる防御の魔法を無視して、触れただけで相手を『食べること』が出来るんだよ」
え?
絶対勝てないじゃん。
「こんな風に……」
と言って、私に手を伸ばしてきたので、私は避けた。
何実験台にしようとしてんだよ!
「食べちゃダメって言ったでしょう?」
「お腹減ったんだもん」
そんなやり取りだが、全くかわいくない。
内容が言葉にあっていなさすぎる……。
「攻撃も効かないのに、触れば、相手は死ぬって、強すぎじゃない?」
単純な疑問を口にすればナインは振り返り答える。
「簡単な話さ。強い能力には代償はつきもの。デメリットもね。彼女の場合は、触れることが出来ないんだよ」
「触れる?なにによ」
「すべてさ。地面に立てば、その地面はえぐれてなくなる。壁に寄りかかれば、その壁は彼女に吸収される。唯一彼女が触れても消滅しないのは、彼女が生み出した『糸』くらいかな」
そう、彼女はさっきから壁に引っ付いているのではない。
ずっと、蜘蛛の糸らしきものに、捕まっているのだ。
「それは……大変そうだね」
「大変なんてものじゃない。普通に生きることはもうできない」
悲しげにそう告げる。
「ほら、そろそろ行かないと」
「だから、どこによ!」
「ここの先さ」
そして、ついに景色のほうに目が移り、それを見る。
そこには、一本の廊下があるだけ。
廊下のさきには何かの入り口がある。
あそこが同僚がいるって場所?
ただし、分かれ道も途中に存在し、そこもまたどこかにつながっているのだろうか?
「先に行こうか」
歩き出す。
その廊下はさっきの部屋の中と何ら変わらない。
すべてが灰色の石の壁。
模様なんてものがあるわけでもなく、面白みもない壁だ。
そして、最初の分かれ道、左側に分かれた通路が目に映る。
そこには、
「牢屋?」
奥に見えるくらい場所。
鉄の棒が何本もたっており、かなり厳重だ。
「あそこは、確かに檻だね」
「誰かいる?」
「もちろんいるよ」
「なんで、閉じ込めてるの?」
ここにいるということは、閉じ込められているのは、人間?
じゃないとしても、ここに閉じ込める必要はないよね……。
人間なのであれば、逃げ出せるわけないし、閉じ込めなくても害はないだろう。
「危険だからさ」
「危険ですって?」
ナインは強かった。
罪人として強い。
それは身をもって体験したから知っている。
その彼女が危険と称する人物とはいったい?
「あの中にいるのも同僚だよ」
「は?」
「あの中にいるのは、憤怒。彼はいつまでも怒り続けているからね。ほっといておけば、勝手に世界滅ぼしちゃいそうだし、封印してるの」
てことは、やっぱり強いのか……。
そら、勝手に世界滅ぼすレベルに強いのであれば、正しい選択か。
「私は世界がどうなろうと、どうでもいいけど、傲慢に嫉妬、それに色欲とかが、絶対にダメっていうからね」
新たに出てきた三人。
そいつらもいるのか……。
ナインとか暴食レベルで、価値基準が私と違う人が現れたら、混乱どころかないぞ……。
それに、性格が名前通りなのだとしたら、ナインは強欲ってことにならないか?
でも、本人は世界が欲しいとか望んでいるようには見えないけど……私の考えすぎかな?
「ねえ、罪人って七人いるのよね?」
「うん、そうだけど?」
「あと一人は誰?」
それを聞いたら、ナインが足を止める。
「彼女は当の昔にいなくなったよ。だけど、まだ生きてる」
「何で知っているの?」
「確信したからさ」
明確な答えを教えてくれる前に、ナインは歩き出した。
私も、それを追従するのだった。