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ベアトリス、延長される

 その日はなにもなく終わった。

 ネルネと私はそのまま部屋に戻り、何事もなく一夜を過ごしたのだ。


 本来は逆に生活をするべき吸血鬼だが、この宿に泊まっている上流階級っぽい奴らも昼起きて、夜に寝る生活をしているらしい。


 意外と健康的?


 それはいいとして、結局私たちが元々泊まっていた宿への嫌がらせの件はどうなってしまったのだ?


 私はネルネからここの宿から嫌がらせを受けていると言われて、調査に来たわけなのに、実際はこの宿の人との直接的な関わりは薄いときた。


 嫌がらせをしているのはお貴族様で、『罪人』っていう、偉い人にこびを売るためにやっていることだとさ。


 つまり、嫌がらせをやめさせるには、貴族を相手にする必要があるわけで……。


 いや、私にどうしろと?


 逃亡中の少女一人でなにができると?

 まあ、やるだけやってはみる。


 そして、ナインも不思議は人である。

 自分のことをナンバーで呼ばせているのはただのおかしい人……だけど、言動も行動もどこか矛盾しているような気がする。


 火が嫌いなのに、火を使うし、太陽光は苦手のはずなのに、好きとかいうし……。


 おまけに、彼女の言葉の真意が掴めないときたわけで。


 いわゆる不思議ちゃん?

 真顔すぎて怖いけどね。


 というわけで、一夜が明けた。

 ネルネはまだ寝ていたが、時期に起きる頃だろう。


 私は先に部屋を出る。

 無理やり泊まらされたとはいえ、一日泊まったんだから、出られることだろう。


 チェックアウトというやつだ。

 それをしに、私は入り口まで向かう。


 二階建ての建物だから、止まる部屋は多く、何名かは廊下でたむろしていたが、私が来た瞬間に、顔をしかめた。


 ちゃんと、フードをつけているのに、なんでだろう?


 ……………はい、理由はちゃんとわかっていますとも!


 ナインのことだろう?

 そうなんだろう?


 彼女と一緒にいるときの視線がまじで痛かった……。

 いや、他人の腕を勝手にもいでしまう頭のおかしい人と隣に歩いているフードをかぶったチビというのは、かなり印象が悪かっただろうな。


 しかも、多分全員貴族なんだろうしなー。

 プライドが許さない的な?


 仲間の貴族がやられたから、目の敵にしている的な?


 どちらにせようざったいので、早く抜け出そう。

 ひとまず、調査は終わったのだ。


 嫌がらせをやめさせるんだったら、どの貴族がしているのかを調べて、そいつを締め上げればいっちょ解決!である。


 まあ、気長に行こうか。

 私もまだ、探索が済んでいないことだし。


 この国にも家族たちがいるかもしれない。

 あ、家族は使用人も含めてだよ?


 どうやら、公爵領の民たちもここまで逃げてきたらしい。

 その多くは、捕らえられて、どこかへ監禁にでもされていることだろう。


 だからこそ、私は助けなきゃいけない。

 私は公爵領の娘なの。


 みんなを守れなかったけじめは私がつける。

 それに、レオ君のご飯も欲しいし。


 どうやら私の血液は性に合わないようなので、私としても、「私の血を飲んで欲しい」というわけではないので、ね?


 レオ君、体鍛えてなかったら餓死してたんじゃねってレベルらしいので、直ぐにでもあげたいところである。


 レオ君だけじゃないな。

 ミサリーとかもお腹減らしてそうだ。


 なのに何故かピンピンしていそう……。

 そんな想像が私の中で広がり、なんとなく現実感がある妄想だなと思ってしまった。


(そういえば、ターニャたちはどうしてるのかな?)


 不意にそんなことが気になった。

 殿下もそうである。


 毎日のように手紙を書いて出していたのに、急に来なくなったら心配するだろうな……。


 ここだけの秘密、殿下、ツンデレである。


 ちなみに、ツンデレとかの用語は全てトーヤから学んでいる!


 今世になって気づいたことだ。

 私のことを好いていてくれているかはさておき、友達としては合格だったらしいよ?私。


 殿下は意外にも恥ずかしがり屋で素直じゃない。

 弱音を吐いたところなんて一回しか見たことないし、それは寝ぼけていったこと。


 そこにツンデレ要素が入ったら可愛すぎる……。

 我が子を見ているようでこっちも幸せだ。


 ふふ、久しぶりに会ったときの表情が楽しみである。

 ターニャには後を任せてきたから、なんとかやっているだろう。


 騎士団の人たちも、少しは落ち込んでくれるかな?

 そんなことを考えながら、私は受付の女性に話しかけた。


「あの、チェックアウ——」


「やあ、ニコル。この子のチェックアウトはなしで」


「!?」


「はい、わかりました」


 っておい!

 ちょっと待て!


 わからないでくれ!


 私が後ろを振り向くと、真顔の顔があった。


「なに勝手に帰ろうとしてるのさ?」


「は?そんなのこっちの勝手じゃない!」


「面白くないなー、だからさ。私の権限で解除させてもらったよ」


「はあ!?」


 受付の女性の方に目を見るに、「厄介な人に絡まれたかわいそうな子」という感情が読み取れた。


「え、あの、お金ないです!」


 言い訳がましくそう言えば、


「ニコル、大金貨50を渡そう」


「延長しますね」


「おい!」


 賄賂やめい!

 ヤバイぞ、なにがヤバイかはわからないけど、何かやな予感が……。


 こういうときの予感は当たるから、嫌なんだよ!


「さあ、今日はどこへ行こっか?」


 呑気な顔しやがって……。

 後ろにいたナインは私の作り笑いでそう話しかけてくるのだった。

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