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大罪

 色欲


『七つの大罪』にも含まれる大罪の一種。

 それらは神が人間に課せた原罪である。


 貪食、淫蕩、金銭欲、悲嘆、怒り、怠惰、虚栄心、傲慢


 八つの罪は、やがて七つに変わり、時代も変わっていく。

 時代には必ず、八人、もしくは七人からなる『罪深き者』がいた。


 それらは大罪を背負い、巨大な力を与えられると同時に、誰よりも悲しき過去が与えられた。


 八つの罪のうち、貪食、淫蕩、金銭欲、悲嘆、怒り、虚栄心は、時代とともに淘汰された。


 傲慢、嫉妬、強欲、憤怒、暴食、怠惰、色欲


 背負う名はこれら七つ。

 その中で、『色欲』を背負う女性は、罪を背負いながらも、それに抗っていた。


「今月の餌はこれだけ?」


 玉座の間。

 そこに座る一人の女性は、跪く吸血鬼に笑いかける。


 吸血鬼は体を震わせる。

 それは、強者を前にした弱者の態度。


「申し訳ありま——」


「言い訳はいらないの」


 吸血鬼の元に何かが飛んでいく。

 それは地面にベチャッと音を立てて着地する。


 転がり、跪く吸血鬼の視界にも入った。


 首だった。


「いいから、私の餌を集めなさい。そうねぇ……主に男を」


「は、はい!」


 跪く男は部屋から出て行った。


 女性は一人、玉座に残る。


「まだ、足りない。私が求めるものじゃない」


 彼女の追い求める餌はいまだに訪れない。


 色欲を背負いし彼女は、吸血鬼だった。


 長きに渡り、魔族の手下として過ごした吸血鬼を取り仕切っている。

 吸血鬼は誰しもが魔族の支配からの脱却を望んでいた。


 元々は亜人として、獣王国に属していたが、今では魔族側についている。

 しかし、魔族に属し、聖戦が終われば、その栄光にも終わりがやってきた。


 人間は全く訪れず、最低限の餌を確保することしかままならない。

 何名もの貴族たちが死に、住人は飢えている。


 その頃、彼女はまだ幼かった。

 成長した彼女は、とある組織に属した。


「……お客かしら」


 気配を感じた。

 その気配は瞬時に形を成し、とある人物を形作った。


「やあ、久しぶりだね!」


「“傀儡“……なに?ここは私が仕切ってる国なの。不法入国はお断りよ」


「冷たいなあ、俺たちの仲じゃないか!」


 その男に見覚えはない。

 だが、気配はよく知る同僚の一人だった。


(人間の皮を被って……一度死にかけたわね?)


 その傀儡と呼ばれた男は、人間の体に乗り移ることで、死すらも超越している節がある。


 なので、彼女は驚かなかった。


「で、何しにきたの?」


「いやあ、なーんか俺が死んでる間に協力者のお嬢ちゃんが暴走しちゃっててさー」


 協力者の少女は身元不明で、彼女はあまり関わってこなかった。

 そのせいもあって、そんな話を聞かされても、「あっそ」となるだけであった。


 だが、その少女の本当の実力を聞かされたら、その態度も崩れた。


「嘘……あなたよりも強いの?」


「ああ、次元が違うよね。唯一何とか魔力の性質だけ互角に並べているけど……」


 傀儡は、組織の幹部の一人だった。

 五人いる幹部のうち、まとめ役を担っている。


 つまり、組織のボスを除いて最も偉い人物なのだ。

 その実力はさることながら、戦闘向きではないにしても、幹部勢とタイマンを張れるのだから恐ろしい。


 そんな彼がそこまでの高評価をする少女、彼女の中ではその少女は『危険人物』として、既に認識していた。


「それで、私に何か関係あるの?」


「ほら、ベアトリスってやついただろ?」


「ええ、そうね」


 ベアトリスという名は組織でも有名だった。

 彼女の噂は絶えない。


 最も有力な噂が、『勇者と互角の実力』というものだ。

 なんせ、勇者本人が言いふらしているので、間違いないとのことらしい。


 それに、傀儡が何度か殺し損ねていることからも、強いことは間違いなかった。


「そのベアトリスがどうしたの?」


「協力者が、転移して逃げたベアトリスを追って、各地を回ってるんだ」


「私の国にもきてるかもってこと?」


「そう、そう!」


 正直、厄介ごとには首を突っ込みたくない彼女であった。


(ベアトリスという少女も協力者という少女も、私の求める食材じゃない)


 それだけは確かだった。

 なぜなら、彼女が欲するのは男だったからだ。


「それで、あなたはこれからどうするの?」


「俺か?うーん……邪仙君はなんか計画練ってるっぽいし、真獣は音沙汰ないし……何もすることないんだよねー」


 邪仙も幹部の一人であり、頭の回るやつだった。


 幹部はそれぞれ表社会にいた頃のあだ名で呼ばれている。


 傀儡と狂信嬢は例外だ。


 なぜなら、傀儡は組織の発足メンバーであり、狂信嬢は傀儡が直接勧誘したメンバーだからだった。


 邪仙は東の島国から、真獣は獣王国から、そして、私……色欲は吸血鬼の国から。


「まあ、とにかく危険だから注意しといてねって話だよ。どうやら悪魔も出てきたみたいだしさ」


「悪魔……あの悪魔?」


「ああ。伝説上のみ存在する、魔を超越した化け物。下っ端ぽいやつは弱いけど、上になると、ほんっとやばそうだったよ……」


「戦ったの?」


「たまたまね」


 そんな存在と“たまたま“戦いになるはずがないというのに……白々しい男だ。


「じゃあ、俺はもう行くよ」


「ええ、もう来ないでね」


「じゃ」


 男はいつも通り陰に消えた。


 彼女はため息をつく。


「また厄介なことになりそうね」


 それは彼女の“目的“の妨げになりかねない。

 彼女は目的を遂行するために組織に入った。


 過去を取り戻すために……。


 ふと、水晶を取り出す。

 彼女が持っている水晶は特殊なもので、吸血鬼の国内部なら、隅々まで見ることができる。


 暇つぶしにこれで、国民の生活を覗くのも一興。

 そんな気分で、今日も覗いていた。


 が、異変にはすぐ気付いた。


「ローブを着てない……?」


 吸血鬼は日差しが苦手だった。

 それは強い力を受けつ反面でのデメリットだった。


 もちろん、彼女ほどの強さであれば、そんなの些細な影響に過ぎないが、街で暮らす国民たちにとっては生死を分ける重要なことだった。


 なのに、水晶に映った少女は辺りを見渡しながら平然と日差しの中を歩いていた。


「なに……特殊変異でもしたの?」


 彼女の知る由もない。

 変数の一部に過ぎないと、彼女は別の場所を見ようとした時、


「見られた?」


 気のせいではあるだろうが、少女がこちらを見たような気がした。

 それはやっぱり気のせいで、少女はまた辺りを見渡し始めた。


 だが、一瞬目が合った時、体に悪寒が走った。


 少女の目は暗い。

 全てを憎むような目をしていた。


 目にハイライトが宿っておらず、鋭い目つきは誰かを恨んでいるような……そんな目だ。


 その目には見覚えがあった。


 それは、過去の自分であり、今の自分。

 彼女こと、大罪を背負いし者と似た目をしていた。


「ふふふ……面白いじゃない」


 次なる楽しみを見つけた彼女は、動き出した。


 彼女は勘が冴える。


 だからかは分からないが、感じ取ったのだ。


(あの少女を追いかければ、目的にも近づく……)


 彼女はその勘を信じて、水晶をしまった。

七つの大罪に関しての豆知識!


傲慢 ルシファー

憤怒 サタン

嫉妬 レビィアタン

怠惰 ベルフェゴール

強欲 マモン

暴食 ベルゼブブ

色欲 アスモデウス


と、対応する悪魔がいたりします!

最近なぜか有名になりつつありますよね。

オタクとしては嬉しいです!

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