ベアトリス、提案する
ワクチン打って数日経って運動したら、また体調崩した……。
皆さんお気をつけて(^^)
「全員?」
「え……多分、そうだと思う」
私の強目な語気に、怯えつつも少年は答えてくれた。
(全員死んだ?何でそんなこと……)
公爵領の住人たち。
今世で初めて仲良くなった街の人たち。
私の身分を知っているかは別として、知人以上の関係であるとは思っている、老若男女問わずだ。
彼らには時々顔を出して、少し立ち話したりもした。
そういう時に見せる彼らの笑顔は私に印象にかなり根強く残っている。
なのに、この仕打ち?
何人の人間がここまでたどり着いて、何人の人間が吸血鬼に殺されたのかは知らない。
けど、私の守るべき住人たちを殺されたことがただただ悔しくて憎い。
歯を食いしばって、怒号を吐き出しそうな私の口を閉じる。
(違うでしょ、ベアトリス……住人のみんなのためにできることは、もっとあるはずよ……!)
彼らが望んでいるのは復讐か?
それは違う。
彼らが死んでしまったのは私たち公爵家のせいでもある。
『あの時、公爵が領地を守りきれていれば』
そう思われるのが自然であり、恨むべきは私たち。
吸血鬼を恨む……間違ってはいないが、私たちが原因であることに違いはない。
もし、復讐してほしいと願っているなら、その対象は私になるわけで……。
だが、心優しい彼らはそんなこと願わないはずだ。
いつだって、笑って、『公爵様』と父様や私たちを尊敬してくれた。
今すべきは復讐じゃない……。
少しでも犠牲を減らすんだ。
家族探し……後回しにすべきかな……。
そんなことを考えてる時だった。
「あの!」
白髪の少年が珍しくも大声を出した。
それに驚き、全員の視線が集まる。
私の顔を上げた。
「俺、なにか、手伝います!」
「え?」
「だから……その……ダガー、投げたの、許して……」
そう言って、ローブの裾を掴む少年。
私は鼻で笑った。
「なにを考えてるのか知らないけど、とっくに許してるわよ。だから、安心しなさい」
「ほ、ほんと?」
「ええ」
私に吸血鬼を恨む気持ちはない。
吸血鬼だって生きるために仕方なくやったはずだ。
他に方法がなかったかと言われれば、何とも言えないけどね。
生きるために仕方なく……そう思った理由はネルネの宿のご飯代からだ。
ネルネの宿は格安で、王国の宿よりも安い。
なのに、ご飯代……まあ、人間の血液だけ、ものすごく高価なのだ。
確かに、高価なのは間違いないが……新たに人間がたくさんやってきたことで、価値は少し下がるのではないか?
その旨をネルネに伝えると、苦い顔をされた。
「私の元には、血液の提供がないんです……だから他の宿よりもものすごく高値になっちゃって……そう言えば、お客さん人間でしたっけ?」
「……冗談やめてよ」
「とにかく、私の宿は吸血鬼、半吸血鬼に絶対必要な人間の血液が高いせいで、誰も寄り付かなくなって、今ではこの様です」
殺風景になった一階部分。
確かに誰もいなかった。
というか、もしそうなら、意外にこの宿は潰れかけだったのか?
どうやらネルネ以外の従業員もいないっぽいし、ネルネだけでここを切り盛りしていたのか?
収入も入らず、支出の方が多いだろうに……。
そんなことを考えている時、私はあることを思い出した。
レオ君……吸血鬼と、獣人の間に生まれた子であることが、新たに判明したわけだが、レオ君にも人間の血液は必要なのか?
吸血鬼に必要な血液……絶対に飲まないといけないのか。
その考えを伝えれば、吸血鬼二人から、
「そんなの当たり前じゃないですか〜、他の血液だったら栄養分が足りないですよー?」
「俺も、盗んで飲んでた。数ヶ月飲まないと、死にかける……」
数ヶ月飲まないと、死にかける……だと?
少年の表現力が私の想像と一致しているかどうかは置いておくとして……。
「それって、半吸血鬼……レオ君の場合は?」
レオ君の耳がぴくりと反応した。
「絶対に必要です!半吸血鬼だから、お肉とかも食べられるんでしょうけど、かろうじて生きれるくらいですよ?それに、栄養をたっぷり摂らないと成長しないです!」
「……………」
今思えば、私たち三人組は、ユーリが一番小さく、その次にレオ君が小さかった。
レオ君の年齢は私と同年代、同じであり、私のとは違い“男“である。
なのにもかかわらず、私の方が身長が高いのだ。
それも関係してくるのか?
栄養摂取を怠っているから、ということなのか?
私の考えていることは、すぐにみんなに伝わったようだった。
顔に出ていたのかもしれない。
何となく、みんなが私の顔を見て、だいたいを察したようだ。
「レオ君、今まで……その、人間の血液とか飲んだ経験は?」
「……ない」
「じゃ、じゃあ昨日が初めてだったり……」
「うん」
やっぱり……。
「ネルネ!」
「は、はい!」
「半吸血鬼は飲まないと死んだりするの!?」
「え、聞いたことはないですけど、栄養をどれくらいとっているかによっては、かなり危ないと思います」
ネルネの肩をがっしりと掴んで、聞き出した情報は嬉しいような嬉しくないようなものだった。
今まで生きてきているので、栄養が足りなかったことはないのだろう。
だが、これから足りなくなるかもしれない。
こないだ飲んだ量で足りるのか不安だ。
だったら、することは一つだろう?
私はレオ君の元まで歩み寄った。
レオ君はベットの上で体を起こしていたが、私はそれを無理やり押し倒した。
半ば強引に、押し倒したので、レオ君はびっくりしているようだった。
それに、周りがいきなりのことで騒がしくなっている。
だが、私はそんなこと気にする暇はなかった。
「レオ君……」
「は、はい……」
緊張した顔持ちで、若干頬が紅潮している。
私の真剣な顔を見て、わかってくれたのか?
そんなことを考えつつ、私はその言葉を言った。
「私の血を吸わない?」