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ベアトリス、外で遊ぶ

本日二本目です。

「お嬢様……真面目なのはいいと思いますが、お嬢様はまだ三歳。魔法の勉強はまだお早いと思います」


 苦笑いを浮かべながら、メイドが私を諭してくる。


「べんきょう……だいじだか、りゃ!」


「ですがお嬢様……もっとお外で遊んだほうがいいと思います!ですので、お庭に行きましょうね!」


「う、うん」


 メイドが私を抱きかかえて、書物庫もとい、図書室から連れ出す。

 私ことベアトリスはまだまだ子供だ。


 だから体を鍛えるのはまだ早いと思ってはいたのだが、


(運動か〜。ちゃんと体鍛えられるかな?)


 死にたくなければ鍛えろ!

 

 これは、前世で学んだ。

 抵抗するだけの力もないくせに偉そうにしても意味がない。


 頭も良ければ、死刑になんてされなかった。

 つまり、両方必要なのだよ。


 焦りすぎかもしれないが、今ぐらいからやっておかないと後々後悔する。


 だが、無理かもしれない。

 所詮は子供。


 効率が悪すぎる……。

 心は大人だが、体がついてこない。


 だから、この体で運動は確かにきついかもしれない。

 でも、ちょっとくらいなら筋トレしても別にいいよね!


 だって、筋トレだって運動だから!

 令嬢としては、多分しないのだろうけど、今の私だからこそ言える。


 鍛えろ貴族ども!

 数年先の未来では、多数の領内で豊作だからといって、食べ過ぎで急死する貴族が増えてたぞ!


 そんでもって、貴族が減ったからって調子に乗った領民たちが反乱起こしてたぞ!


 故に痩せなさい。

 Byベアトリス



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



 庭に出てみれば貴族の家らしいキレイに整った芝生と、それを映えさせる木々が並んでいた。私がボーッと景色を眺めていると、


「さあ、お嬢様!どんな遊びをいたしますか?」


「きんちょれ!」


「きんちょ……?筋トレですか?」


「うん!」


 メイドが困ったような顔をしている。

 昔の悪役令嬢とばかにされていた時だったら、面白いとか思ってたかもしれないけれど、今はただただ困惑ものだわ。


 そんな顔されたら、どう答えれば、もしくは訂正すればいいのかわからないではないか!


「あ、あの〜お嬢様。提案なんですが、球技で遊んではいかがですか?」


「きゅうぎ?」


「はい!ボールを投げ合って遊ぶことです!」


「やう!」


「わかりました!では、すぐに取って参ります!」


 すごいスピードでメイドが走り去っていく。

 と、思ったら、すぐに戻ってきた。


(そんなに球技が好きなのかな?)


 そんな疑問を尻目に、メイドはボールを投げる準備をしている。


「それでは、お嬢様!いきますよ〜」


「うん!」


 球技なんていつぶりだろうか?

 東の島国から蹴鞠(けまり)なる遊びをした以来だ。


「えい!」


 フヨフヨとボールが飛んでくる。


(手加減してくれてるんだ……。しなくてもいいのに)


 確かに私は三歳だが、それでも観察力は衰えていない。

 令嬢たるもの、顔色を窺うために、目を非常にいいのである!


 だからこのボールもーー


「わ!すごいですね、お嬢様!避けられたんですね!」


「う、うん!」


 多分避けて遊ぶゲームではなかったのだろう、若干ひきつった顔をしていた。


 避けたとき、若干バカにされたような気がするがこの際いいだろう。と、それよりも!


(反射神経の訓練だ!)


 思い出したのは、王城へと殿下に初めて挨拶に行ったときのこと。

 近衛騎士たちが、何かを使ってそれを投げあい、反射神経を鍛えていたこと。


 敵の攻撃を避けるためには、必須の技術らしい。


「もっと、なげちぇ!」


「わかりました!」


 その後も何度も球を投げてくれるメイド。

 やがて、私も体力の限界を感じ始める。


「お嬢様?辛そうなので、おやめになっても構いませんよ?」


「まだ、やりゅ!」


「そう言われましても〜」


 再び、困り果ててしまったメイド。

 すると、私の後ろからーー


「どうしたんだい?ベアトリス」


「あ、にいさま」


 声を聞き、すぐに振り返り抱きつく。

 その声は、レイル兄様の声だとすぐにわかったからだ。


「おぉ〜!よしよし!今日も一段と甘えん坊だな!」


「えへへ〜!」


 兄様の胸の中で顔を埋める私は二度目の人生にして、初めて兄様とここまで仲良くなれたことに感謝する。


 今までは、馴れ馴れしく話すのはダメと教わってきていて、それは兄様にも適用されると思っていたため、話したことなど数えるほどしかなったのだ。


 こればっかりは死んでしまったことに感謝する。(二回目)


「それで、どうしたんだい?」


「あ、あの。お嬢様が球技でもっと遊びたいと申されていたのですが、どうも疲れきった様子だったので……」


「なるほど……ベア。無理をして遊ぶのは良くないよ?体を壊したりしたら、父様たちが悲しむからね。もちろん僕も」


「わかっちゃ……」


 渋々、了承する。


「にいさま、なにするの?」


「僕かい?これから稽古なんだ」


「けいこ!」


 目をキラキラさせる私を見て、どう反応していいかわからなくなっている兄様。


(可愛い!)


 まあ、それを伝えることはないけどね。


「つれてって!」


「稽古にかい?う〜ん。どうする?」


「僭越ながら。お嬢様に危険が及ぶわけでもないと思うので、いいのではないでしょうか?」


 ナイスだ、メイド!

 いや、メイド様!


「そうだな、じゃあ来るかい、ベア?」


「うん!」



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



「違いますよ、もっと腰を入れて!」


「はい!」


 汗だくになって、稽古をしているレイル兄様を横目に私は、稽古をつけている人物に注目する。


(あれは、確か元近衛騎士のセルロスさん?)


 ちゃんとさん付けで呼んでいるあたり、少しは成長しただろう。

 と、そこは置いておいて……。


(二十代で近衛兵に上り詰めたエリートだったような?)


 そんなにすごい人が稽古つけてるって、さすがは公爵家。

 お金たくさんあるんだね。


「上半身と下半身が連動していませんよ!」


「っく!」


 それにしても、やはり速いな二人とも。

 私の目で追うのがやっとってことはかなり速いのだろう。


 先ほども言ったが、目がいいので多少の素早さであれば、認識できる。

 それなのに、ギリギリ見えると言うのは、あの二人の速さを物語っている。


(私もあのぐらいは強くならなくちゃ!)


 あれで近衛騎士なら、もっと強い人はこの世にいくらでもいることだろう。

 そんな人たちに対抗できるぐらいにならなければ、私は生きていけないと思う。


(だからこその、見学なんだ)


 見学すると言うのはその人に技術を垣間見ると言うこと。

 それは、過小して言えば、ただ視界に入っているだけ。


 過大して言えば、技術を盗み取るチャンスというわけ。


(今のうちにも、武器の使い方は学んでおいて損はない)


「手首を使って!」


「っはい!」


 砂埃が上がる中、私はと言えばーー


(ここは手首を返して遠心力を生む。柄は下の方が良さそうね。剣は両刃のものが多いから、まずは構えも……)


「お嬢様?どうされました?」


「っ、なんでも、ない!」


「そうですか」


 熱心に見つめすぎていたのだろうか?だが、そうでもしないと素人が剣術を学ぶことが出きる気がしないのだからしょうがないだろう?

 気をつけなくては。


(変な子とか思われたら、また評判が地の底に落ちてしまう……)


 学園生活において、友達がゼロ。

 取り巻き、多数。


 そして、敵視してくる人、大多数。

 昔なら、へっちゃらかもしれないけど、今の私には耐えられそうにない。


 なので、今は大人しくしておこう。

 じろじろ観察するのは良くなさそうだし。


 でも、今日で学べたことはたくさんあったし!


(三歳児だから、まだ覚えられていないことがたくさんあるけど、必死に勉強して強くなってみせるわ!)


 ベアトリス、ここに誓う。


「お嬢様、見てて飽きないのですか?」


「え?うん」


「そうですか〜。私はもう目が疲れてきました……」


 私と違って目が良くないメイドさんはチカチカ光る剣は眩しいのだろう。

 私の場合は慣れているので、問題ないが……。


「今日の稽古はここまで!」


「はぁ、はぁ。ありがとうございました!」


 お辞儀をする、兄様。


(あれ、もう終わっちゃたの?)


 時間が進むのは早いもので、あれから二時間が経っていた。


「あ、ベア。まだいたのか」


「うん」


「見てて、どう思った?」


「うん?」


 これは、感想聞いているのか?

 自分に足りないものを他人の目を使って確認しようとしている?


 流石は兄様!

 いいでしょう!


 教えてあげます!


「えっと、てくびはちゅういされてからうまくうごかせちぇるけど、そもそもうでがあまりのびてにゃいからそこをなおせばもっとよくにゃるとおもう」


「「え?」」


 二人が私の方を見て唖然としている。


(え?なに?アドバイス間違っていた?)


 それだったらどうしよう!

 恥ずかしい!


 ちゃんと、知識として学んできたつもりだけど、やっぱり本気で学んでいる兄様とはレベルが違ったというのか?


(これは、勉強の仕直しが必要ね!)


「………とりあえず、屋敷に帰ろっか」


「うん!」


「はい」


 兄様が気を遣ってくれたのだろう。

 その気遣いを嬉しく思いながら、私はメイドさんの手をとり、歩き出す。

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