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条約

休みが素晴らしすぎる……。

自分のペースでこれから二本投稿も時々しますね〜

 ゴーノアと呼ばれたその国王は、私でもはっきりと表情が動くところが見えた。


「なれなれしいぞ!」


「……………」


「へー?」


 それぞれ反応が異なるが、ハイエルフの皆さんも混乱している。

 ただ、私はなんとなく状況を掴んでしまった……。


 それは、レオくんも一緒のようで、呆れて顔を覆っている。


「お前……なのか?」


「ああ、久しぶりだね」


「おお……」


 国王の表情が崩れる。

 フラフラの男もこれにはびっくりしているようだ。


 威厳ある父親が泣き出したのだから。


「お前というやつは……勝手にいなくなった挙句……条約を破ってここまで来るとはな……」


「それに関しては仕方なしにだよ。僕はただご主人についてきただけだもん」


「ご主人……?」


 国王が私の方を見てくる。


「そうか、()()()()()()


「まあ、ご主人のことは普通に好きだけどね!」


「ふふ、お前もそこまで堕ちたか」


「親バカには言われたくないね」


 いつまでも続きそうなこの会話を聴きながら、ハイエルフたちの顔色を眺める。


 大体のハイエルフは驚き困惑している。

 ノルさんもそれは同じだ。


 ただ、フラフラな男は少し違った。

 歯を食いしばって耐えている。


 怒りを堪えているような……それでいて瞳は冷静に国王とユーリを見ている。


 もはや、この場は国王とユーリの独壇場と化していた。


「はい、そこまで!」


 私は長くなりそうだったので、二人の会話を止める。

 再びハイエルフによる敵意の視線を浴びるが、私は早くこの部屋を出たくてたまらなかった。


「国王陛下、うちのユーリと会話をするなら、私を通してくださいな」


「それはすまなかったな。また今度、話をさせてもらおうか」


 寂しげな微笑みは私の心をえぐる。

 だが、また話せるのだからいいだろう。


「おっと、忘れるところだった。娘のトレイルを救ってくれた褒美を与えたいのだが、何か欲しいものはあるかな?」


「欲しいものですか?」


 正直、私が欲しいのは家族とともに過ごす平穏な日常なので国王に出せるわけない。


 その点を踏まえると、今望んでいるものなんてないんだよね。


「じゃあ、寝床を貸してください」


「寝床か……わかった。一つ空き家を提供しよう。お前たちもそれでいいな?」


 国王がハイエルフたちの顔色を見回した。

 ハイエルフたちは微妙な顔をしたが、国王が人間と馴染んで話をしているところから渋々といった具合にうなずく。


 私はそれを見た後、一旦この息が詰まりそうな部屋から出るのだった。



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



「さて……説明してくれるかしら?」


「な、ナンノコトヤラ」


「なーんで国王と仲良さげに話してたんでしょうねぇ〜ユーリくん」


 私はその部屋の一室の片隅で、ユーリを壁まで追い詰めていた。

 今は、レオ君は地形把握のため、外に出ているので絶好の機会だったのだ。


 壁まで追い詰めたユーリは目を逸らしながら、頬を掻いている。

 私は片手を壁に押しつけ問い詰める。


「少しくらい教えてくれてもいいんじゃないの?」


「い、いやぁ話したつもりだったんだけどぉ……」


「じゃあ、今!話して?」


「わ、わかったよー!」


 諦めて話す気になったユーリに満足しつつ、私は耳を傾ける。


「僕はご主人様の知っての通り、元魔王なんだ。で、エルフに知り合いがいるって言ったでしょ?その相手が……」


「国王ね」


「そう、それで僕たちは知り合いだったわけだけど……」


 やっぱりそうだった。

 なんというか、予想がついちゃうよね。


 出会ってから、覚醒して、そっから予想外なことしか起きていない。

 元魔王ですって言われて、普通に強いし、天然だし、どこか秘密主義だし。


 秘密に関しては個人の自由だし、私は信用しているので、話さなくてもいいけど、気になってしまうのだ。


「なんか……話が複雑になっちゃうから簡単に話すね」


 そう前置きをし、


「とある日に聖戦があった。第二次だっけかな?あ、聖戦ってのはわかる?」


「ええ」


「僕が……魔王じゃなかった頃、僕の生きてるその時代に聖戦が起きたんだ」


 魔王というのは、代々継ぐものではないらしい。

 最も強い、指導者たる人物が選抜されて、魔王へとなるのだ。


「それで、僕は人族と魔族の戦争に巻き込まれた。種族的には僕も魔族だけど、戦争なんて迷惑でしかなかったよ」


 聖戦の生き残り。

 寿命が長いとはいえ、数百年の魔族がそんな昔から生きてるの?


 ユーリの寿命って後どのくらい……。


「もちろんのことながら、戦争には亜人たちも巻き込まれたんだ。獣人を代表に吸血鬼、そしてエルフ」


「……………」


「中でもエルフが一番悲惨だった。エルフは……人族の手によって滅ぼされかけたんだ」


「どうして……そんなひどいことしたの?」


 エルフが人間を嫌う理由がようやくわかった。


「魔族と戦うため……奇襲を仕掛けるために……エルフの森を燃やして陽動しようとしたんだと思う」


 ユーリの表情は陰っている。

 昔から、ユーリの性格は変わってないんだな。


「それで、なんで僕がエルフと知り合いかっていうと、その長い戦争で僕はある()()を作って、戦争を止めたんだ。そのときに知り合ったっていうか……」


「ユーリが?」


 当時何歳なのかは知らないけど、すごいということだけはわかった。


「こう見えても魔王になるだけの実力はあるからね。頭も回るんだよ」


「条約……さっき言ってた『約束』とかの話だよね」


「もうその条約は守られていないっぽいけどね。エルフと魔族の間で交わした決まりは『不可侵』……まあ、言葉通りだね」


 不可侵条約。

 まあ、その提案は甚大な被害を受けただろうエルフにとっては妥当な判断だとは思う。


「でもそれだけじゃ戦争は止まらないでしょ?」


「そこだよね、僕の出した提案は双方に利益のあるものだった。人間は『魔法』という知識を与えられ、エルフには人族、魔族の不可侵……魔族は領地拡大、そして吸血鬼の支配。獣人は人族との協力関係を築かせる。それで戦争は終わった」


「まった、頭痛くなってきた……」


「あはは、ご主人様には難しかったかな?……っあた!」


「人を小馬鹿にするな」


 つまり言いたいことはこうだろう。


 魔法はもともと人間には扱えない技術なのだと思う。

 エルフに関しては……説明不要だろう。

 魔族、土地の確保。

 獣人は人族との協力関係を築くことで、その力を増した。


 ただ、ふに落ちないのは吸血鬼だ。


「吸血鬼は損だけしかしてなくない?」


「その……僕も完璧人間じゃなかったってことだよ……」


 それ以上は言えないというように、顔を悲しませるユーリ。

 その顔を見て、これ以上聞くのはよそうと思った。


 そこで、


「あ、そうだ!私たちもここの家のお風呂使っていいんだって!だからさ!後で一緒にいこ!」


「うん……って、え!?僕も!?」


「ふっふっふ、ちゃんと話を聞かない方が悪いのだユーリ!観念してわしとお風呂に入るんだな!」


「もー!ずるいよご主人様!」


 どうにか場をごまかして、私は話を無理やり切り上げる。



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



(ふぅ、どうにか誤魔化せたかな……)


 ご主人様の急な話題転換に安心する。

 もちろん、僕は嘘をついたわけじゃない。


 ただ、話を少しねじ曲げたってだけ、ほとんどは真実。

 ただし、話したくないことは話さない。


 ご主人様だってそれは良いと思ってるだろう。

 人には言いたくないことだってあるし、言えないことだってあるんだ。


 ただ、それが……少しだけ壮大だっただけの話。


「ほら!いくわよ!」


 無理やり連れられた僕は苦笑し、思い出した記憶をシャットダウンするのだった。

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