表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
169/522

魔は救いを差し伸べる

すみません、三本目を書いていたら、時間がかかってしまいました。

予定通り、今日は三本です!

(レオ……ユーリ……)


 私は、尻餅をつき立ち上がることさえ忘れていた。

 だが、それでも私は這いつくばって二人の元へ向かう。


(あ……あ……)


 やだやだやだやだやだ、二人が死ぬなんて。


(あ……い、かないで……)


 力が抜けて、足で立つことができない。

 それは、衝撃波による振動によるものではなく、動揺によるもの。


 私の五感は視覚をのぞいてシャットダウンし、その視覚は二人以外の存在を映さない。


 足を引きずり、ほふく前進をすること五メートル。

 崩壊しかかっている……いや、崩壊が始まっている公爵家の屋敷の端に、ユーリがいる。


 今にも死にそうに見えた。

 お腹のあたりから赤くなっている。


 茶色の綺麗な毛並みも、ゴワゴワになり、息しかしていない。

 その息も消えかかっている。


(レオ君……どこ……私……)


 ユーリとは違った方向に吹き飛ばされた、レオ君を探す。

 視界を右往左往させていると、


「こっちを向きなさい。ほら、喋れるようにしてやったわ。何か言ったらどう?」


「……………」


 顔を無理やり掴まれ、その少女の顔がはっきりと見える位置にまで移動させられる。


「ふん、所詮はただの子供ね。簡単に壊れるなんて……あーあ、興醒めだわ」


 そう言って、私を掴んでいた手を離す。

 それと同時にゆっくりと、ユーリの方に向き直る。


(なお……治さな、きゃ……治さなきゃ……)


 震えるてはすでに血の色で染まっているが、ユーリほどではなかった。

 手をかざして、魔法を行使しようとする。


「ふん、その魔獣と一緒におさらばしなさい」


 何かが空を切る音が聞こえる。

 だが、私はそんなの気にしない。


 早く助けて、レオ君も助けて……それで……。


「じゃあね。あんまり楽しくはなかったわ」


 何かが振り下ろされる、その瞬間だった。


「あああああぁぁぁぁ!」


「!」


 誰かの声がした。

 でも、ちゃんとはわからない。


 聞いたことあるな……。


 私は魔法の構築を始める。


「な!しぶといわね、この獣人が!」


「僕は……騎士だ!」


「なんなのよ、鬱陶しい!」


 鈍い音がした。

 ゴツン……いや、ガツンかな。


 あはは、もうすぐでユーリを……。


「あ、しまっ……」


 そんな声が聞こえると同時に私は魔力をユーリに流し込んだ。

 魔力残量の計算なんてせずに、ほぼ全てを注ぎ込む。


 そして、


「?」


「ちっ!くそったれ!邪魔をするな、()()如きが!」


 私の視界からユーリがいなくなった。


(あれ?どこに行ったの?)


 視線を彷徨わせ、再び後ろを向く。

 そこには、なぜか私のそばで倒れているレオ君と……。


「助けに来ました、ご主人様!」


 謎の、巨大なキツネがいた。


「え……どちら、様?」


「ユーリでございます!」


「あー?え?」


 ユーリと名乗る巨大なキツネは、女の子のようで、男の子のようでもある中世的な声だった。


 そして、茶色の毛並みはまるでユーリのようで……。


「って、ユーリ!?」


「おお!目に力が戻ったのですね!」


 感覚が若干戻り、炎による熱さ、燃え盛る火の音、焦げ臭い匂い。

 それら全てを感じ取る。


「魔族が!私の邪魔をしないで頂戴!」


「悪魔か……長らく戦ってこなかったが故、力試しといこうじゃないか!」


 流暢にしゃべるユーリ。

 全長三メートルにもなる大きさで、前までの可愛さはどこへやら、牙を剥き出しにしてとても凛々しかった。


「あ……それより、レオ君!」


「だ、大丈……生きて、る…よ……」


「待ってて、治療を!」


 そして、ユーリと同じように手をかざす。

 ただ、ユーリの治療のために魔力を使ってしまい、ほとんど残っておらず、治療に時間がかかる。


「貴様……私の人形のなり損ないが!あそこで死んでいればよかったものを!」


「生憎、悪運は強くてね。ご主人の魔力を存分に分けてもらったから、復活できたのさ」


「まあいいわ。所詮は雑魚。さっさと死になさい!」


 二人……一匹と一人?の攻防はかなり激しかった。

 なんせ、


「目じゃ……追えない?」


 やはり、少女は本気じゃなかったらしい。

 もはや私の目で追える速さではなかった。


 それに対抗するユーリの姿も同様に見えなかった。

 時々、ぶつかった散る火花だけが、かすかに見えた。


「しぶといわね!」


「魔力の順応力は獣型の方が良くてね!」


 言葉を交わす声。

 攻撃の余波とともに、聞こえる声はまだ余裕を感じさせる。


「あなたも私の支配下に入りなさい!」


 声が聞こえた。

 少女の支配がくる……!


「やめ——!」


「大丈夫だよ、ご主人様!」


「!」


 目の前に急に現れたユーリは私に向かって優しく告げる。

 その時の顔はいつものユーリと何一つ変わらなかった。


 そして、その支配が来て……。


「な!何をしたの!」


 少女の悲痛な叫びが私の耳を刺激する。

 人間の出せるような声ではなかった。


「忘れたの?魔族を束ねるものとして、『魔法無効』は当然の力さ」


「まさか……魔力の性質も……?」


「あはは!でなきゃ、あの時……魔族領にいたときにとっくに支配されてるさ」


「これは、誤算ね。だけど……私にはまだ切り札があるのよ!」


 切り札?


 私がその意味を理解する前に、それが姿を現した。

 黒い霧に包まれる少女の肉体。


 そして、


「母様……!」


 母さ……ヘレナの肉体が空中に浮き上がっていく。

 それは黒い霧の手前までやってくると、


「さあて、ヘレナは()になれるかしら?」


 そんな声が聞こえ、一気にヘレナの肉体が闇の中へと消えていった。


「……ふざ、けるな……」


 私の中でなぜか怒りの感情が生まれる。


「く……!」


 今すぐにでも、自分の手で葬りたい感情を、歯を食いしばって堪える。

 そして、それは姿を完全に現した。


「あははは!これが私!力の末端よ!」


 弾け飛んだ闇の力が弱く見えるほどに、それは強大だった。

 そこには、ヘレナの姿も、少女の姿もなく、あるのは一人の悪魔の姿だった。


 青白い肌と、黒いツノ……長身で長い黒髪に、闇の中でも光続ける紫色の瞳。

 肌はひび割れていて、そこからは青黒い光が滲み出ていた。


「あれは、まずいよ、ご主人様」


「え?」


「今の我じゃ、抵抗することも難しいよ……」


「じゃ、じゃあどうすれば!」


 私が慌てていると、


「だい、じょうぶ。僕に案があるんだ」


「え?」


 治療中にもかかわらずレオ君が立ち上がる。

 痛む箇所を押さえているので戦闘には参加できないだろう。


「案って何?」


「全員で転移するんだよ」


「でも、支配されてるって、この空間……」


「大丈夫、僕に任せて」


 私はそれを真っ向から否定することができなかった。

 どうしてそう断言できるのか、とか、一体レオ君にはどんな案があるのか。


 私はそれを聞く前にうなずいた。


「あなたたちは全員ここで死ぬのよ!」


「くる!」


「ユーリ、お願い!」


「任せてよご主人様!」


 再び姿が消えた。

 しかし、悪魔の姿ははっきりと見えた。


 大ぶりな攻撃だ。

 しかし、それが振り下ろされる瞬間に加速し、高速になる。


 何回か、私たちの方にその牙がむくが、


「ふん!」


 その度にユーリが姿を見せ、防御してくれる。

 闇の力は私たちに当たることはなく、そして、レオ君が動き出す。


「その時が来ば、我はきみぐし」


 何かの呪文を唱え始める。

 私にはそれがなんなのかわからない。


 けど、なぜか全員で生き残れると確信してしまう、何かがあった。


「来る厄災まで——」


 レオ君がこちらに目配せする。

 その意味を直感的に理解し、私はユーリに合図を飛ばす。


「ユーリ!こっちに来て!」


「え?でも——」


「いいから!」


 有無を言わせない私の声に反応してユーリが戻ってくる。

 そして、ユーリの口には見覚えのある……フォーマが咥えられていた。


(よかった、生きてる)


 それと同時に、レオ君は何かの呪文を唱え終える。


「——身を潜む」


 それが終わり切った瞬間に、私たち三人がいる地面が光だした。

 それは、私たちの周りを囲んで、文字が浮かび始める。


「な!転移魔法だと!?なぜ獣人の貴様が!」


 悪魔が焦ったような声を漏らす。

 そして、初めて動き出した。


「くそがアアアアア!」


 その動きは私には見えない、けど、ユーリが……レオ君がいてくれるから、安心だと思ってしまった。


(父様はどうしたんだろう。それにアレンは?ミサリーも……)


 そんな疑問を浮かべていると、


「大丈夫、全員無事だよ」


 怒号の声も、響く魔法の音も全てが聞こえなくなる。

 ユーリのいつも以上の優しい声だけが聞こえ、私の視界は暗転する。


「おやすみ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ