性質
やった。
やってしまった。
手に残る感覚。
生ぬるい感覚がする。
(私は……どうして……)
手に見えるのは、赤い液体。
(違う!私は……)
こんなことがしたかったわけじゃないのに……。
ただ、レオ君を守ろうと思って……。
動悸がする。
胸がとてつもなく痛い。
私は間違っていることをしているのだろうか?
自分はいったい何がしたいのだ?
前世でも今世も一切成長していないのではないか?
やってることは実力行使。
そして、また……
(裏切られた……)
どうして私ばっかりこうなるの?
どうして私ばっかりこんな思いをしなくちゃいけないの?
「あらぁ?やっぱり死んじゃったんだ、ヘレナ」
ようやくかという表情で、少女がどこからか戻ってくる。
気配を感じない分、余計に気持ちが悪い。
「……!黙れ!」
「あー怖い怖い!終わったんなら、私と遊んでよ」
ダメだ。
今は気にしちゃ。
私は、ヘレナのことなんか気にしない。
そう心に言い聞かせても、どうしても考えてしまう。
仮にも、十年間一緒に過ごしてきた人だった。
それを手にかけて……。
力を手に入れたのは、こういう目にあいたくなかったからなのに。
まだ足りないのだろうか?
(だったら、ここで止まるわけには……!)
「来なさいよ、外道」
「それじゃあ遠慮なく」
ニタッと笑い、少女が目の前から消える。
「そーれ!」
「!」
気づけば、私の脇腹まで潜り込まれていた。
当たる寸前で、私はすでに作動中の結界魔法を壊す。
体が若干軽くなり、その一撃をぎりぎり回避する。
「さすがぁ!」
「本気じゃなかったくせに……よく言えるわね」
「それじゃあ、もう少し早くいくわよ?」
再び、音もなく消える。
だが、私の探知魔法の一つの『魔力感知』には、しっかりと映っている。
「そこ!」
後ろに振り返り、カウンターを放とうとするが、
「!?」
「感も鋭いのね」
反撃の手を止めて、その飛んでくる二撃も避ける。
私が振り返ってカウンターを放つ瞬間、体に悪寒が走った。
それはどうやら正しかったようで、
「仕留めちゃったかと思ったわぁ」
彼女の黒衣服。
ふわっとしたドレスのような服、その袖口にきらりと光るものが見えた。
「針……」
「小細工しても面白くないし、これはもういらないわね」
その針を取り出し、横の壁に向かって投げつける。
そして、その針と壁が衝突し、壁のほうががれきと化した。
屋敷の一部が崩れて、大きく揺れる。
(ただの針であの威力?)
麻痺毒が付いていると思われる針は、もはやがれきの中に埋まってしまった。
「よそ見はだめよ?」
「あ……」
正面から飛んでくる拳。
それを目で追おうとする前に、体を捻ってかわす。
「うーん、おしい!」
私の頬が切れて、そこから血が出てくる。
私はそれをふき取る。
「反撃、そろそろしてほしいわぁ」
「やってやるわよ!」
魔力を拳に上乗せする。
そして、転移で一気に距離を詰めて、それを一気に放った。
それは、少女の後頭部にあたるかと思ったが、瞬間、少女の姿が消える。
(まただ)
拳が地面に激突して、破壊し、魔力が霧散する。
「転移魔法ね。演算の速度はもう申し分ないわ」
「ちっ。そっちも転移が得意なようね」
「あら、使えるものは使って損はないでしょ?」
私よりも転移魔法をうまく使えるっての?
結構自信のある魔法だったのに。
「本気がその程度?」
「んなわけないでしょ!」
「ふーん、じゃあもっと頑張ってよ」
この状況を楽しんでいるかのように、嗤う少女。
そこに、
「僕もいるよ」
「レオ君!?」
私と、少女の間にレオ君が割って入る。
だが、その姿は傷だらけで、頼りになりそうには見えなかった。
「僕は……これでも騎士のつもりなんだ」
「あんたが騎士?はっ!笑わせるわ!私たちよりも弱いくせに!」
「それでも、やるんだ!」
すでにお腹の傷は治っているようだが、体力は回復していなく、貧血で今にも倒れそうだ。
私は、それを支えに行こうとするが、その前に目の前の少女が速く動いた。
「邪魔するな、ごみが」
「グッ!?」
少女はその場から動くことなく、何やら魔法を発動する。
その影響によって、レオ君は壁まで吹き飛ばされ、そしてそこから動けなくなる。
「重力魔法……」
「惜しいわね」
私は目の前に突撃し、拳を振りかざす。
だが、それはまた当たることはない。
当たったと思った瞬間、かららに反発作用のようなものが働き、私も同じように吹き飛ばされる。
「なんで?」
「簡単よ、私の魔力の性質の結果」
以外にも私のつぶやきに答えて、少女が答える。
「いつの間に……」
「今の間に……なんちゃってぇ!」
「ふざけるな!」
性質というのは厄介だ。
何が厄介かというと、人間一人一人持っている能力で、強弱がはっきりと分かれているのだ。
筋肉を付けやすくする。
とか、
足が少し早くなる。
とかが一般的だ。
強いものでも、
魔力の容量が増える。
や、
反射神経が上がる。
とか、その程度だ。
それを考えたら、父様の魔力の性質は超級に優れているといえる。
だが、こいつの魔力の性質はいったい何だっていうの?
「じゃあ、もう一発いくわよぉ!」
「!?」
勝手に体が動き出し、今度は少女へと引き寄せられる。
そして、同時に引き寄せられていたレオ君の体に激突する。
「いた!」
「!大丈夫!?」
「うん、一応……」
その声は震えていた。
痛みを我慢してまで、私と一緒に戦おうとしてくれているのだ。
(だったら、私ももっと頑張らないと……)
「もうめんどくさいから、答えを教えてあげる」
「!?」
「私の性質は……」
そして、目の前に立つ少女が声を上げる。
それはあまりに非現実的で、私たちをさらに絶望させるのに十分だった。
「私の性質は……………支配、よ」
と……………。