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ベアトリス、調査する②

木曜日ですね。

そろそろ、一週間も終わってくれる……。

楽園に早く行きたい。

「カイラス。こっちだ」


 寝そべっているラディが、カイラスという男を呼ぶ。

 扉が開いて中に入ってくる。


 目に入ったのはまず服装だ。

 かなり高貴な身分にいそうな服、それもターニャが着ているような奴よりずっと高級そうだ。


 家紋が入っているのか?

 わからないが、とにかく偉い人だというのはわかった。


「じゃあ、私は帰るわ」


「もういいのか?」


「うん、ゴルさんは酒場に戻っていいよ」


 今の私にとって、このカイラスという人はそこまで重要じゃないし。

 さっさと、伯爵さんの居場所を探らなければなるまい。


 というわけで、私はラディとカイラスという人、お医者さんを残してさっさとトンずらした。



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



「着いた……」


 ずいぶん苦労したみたいな言い方だが、転移をしたため、数分もかかっていない。


 酒場でゴルさんと別れて、すぐさま路地で転移を使用した。

 一瞬にして屋敷の前までつけるのだから便利だよね。


 今日は私一人で来たけど、ターニャは中にいるのかな?

 いつも、誰の家かわからない屋根の上で私を待っているらしいし、今日もそこに行っているのかも……。


 屋敷の中に入れるかどうかも怪しくなってきたな。

 でも、私には必殺の『不法侵入』がある。


 転移を再度使用すれば、この通り!


 視界が一気に様変わりする。

 そこは昨日も見た、ターニャの部屋だった。


「誰もいない……」


 やっぱりいなかった。

 だが、それは逆に好都合。


 ターニャに大人の汚い部分を見せずに済むしね。

 私の調べに付き合わせるのもいかがなものか。


 そういうわけで、ある意味これでよかったのだ。


「まあ、こういう時は安定の『不可視化』よね」


 いつでもどこでも便利な不可視の魔法!

 今ならなんと……。


 じゃじゃーん!


『隠滅歩行術』も使っちゃいまーす!


 なんだその名前?

 って思った人。


 いるよねー。


 私もわかんない。


 うん。


 適当だからね。

 ネーミングセンスはいったん置いておくとして、名前の通り歩行術の一種である。


 私の尊敬する大賢者さんによれば、『後衛職は敵に見つかることなかれ』って言っている。


 本を読んでいる途中で、これが紹介されたのだ。

 魔法も一切使わない歩行術だが、効果は抜群なのだよ。


 一つ例を挙げると、忍者の歩行術だ。

 抜き足差し足忍び足……音をたてずに歩く方法。


 それがこの歩行術。

 前回、帝国に潜入したときはばれてしまった。


 それは私の魔法が未熟だっただけでなく、こういう些細なところも影響していた。


 いくら魔法がすごいといっても頼りすぎな良くない。

 所詮私の魔法センスは壊滅……将来なるであろう職業的には適性外。


 なので、歩き方を工夫した。

 気配を完全に消して、音をたてずに歩き出す。


 それだけで、まったく音がしなくなった。

 屋敷の中、靴で歩くと少々音が鳴るだろう。


 だが、今は……


「うん、音しないわね」


 完璧だ!

 大賢者さんや、ほめて遣わす!


 っていうか、大賢者さんってすごい人なんだね。

 三歳くらいの時に読み始めた本。


 いまだに参考になるし。

 きっとすごい人なんだろうなーって、気持ちと、私が勇者と互角って言われてんなら、そこまで強くないんじゃないって思う気持ち半々に分かれてる。


 まあ、尊敬していることに変わりはない。


 気配を消して、音も消して、視界からも消す。


 これで何人たりとも私の存在に気づくことはないだろう。


「そろそろ捜索しますか」


 きっと伯爵家の人はここにいるだろうな。

 というか、絶対にここにいるってわかった。


 探知魔法とは便利なものだ。

 昨日にはなかった新たな魔力があるのがわかる。


 つまり、誰かお客さんがいらしているということ。

 もう皆さん誰かお分かりでしょう?


 そうです!


 伯爵様です!


 というわけで、そろそろ会いに行きましょうかね。


 ドアをゆっくりとあけ、スッと素早く動き出す。


 途中で何度かメイドさんにすれ違ったが気づかれない。

 小走りにしているのに、気づかないなんて……。


 流石私の歩き方!

 ほめるところが若干おかしい気もしながら、私は探知魔法を辿って、その場所につく。


「この部屋が……」


 おそらくこの屋敷にとっての来賓室的な場所なのだろう。

 屋敷の中はかなり広いため、道に迷ってしまったのは内緒である。


 探知魔法を使っても家の構造まで完全把握することはできなかった……。


「でも、これじゃ中に入れないわね」


 帝国の時は知らずに堂々と開けてしまった。

 中に人がいるとわかっているのに開けることはできない。


「とりあえず聞き耳たてるしかないわね」


 私には強化魔法がある。


「『聴力強化』」


 を使えば、この通り……。


「うるさ!」


 誰かが歩く音、包丁の音、洗濯している音、話し声など、いっぺんに耳の中へ入ってくる。


(うぅー……、早く終わらせて切ろう。この魔法は耳の負担が……!)


 そう思い、さっさと聞き耳を立てる。


「そ、そんな!では、侯爵様が!」


「その通りだ、何か問題でも?」


「問題大有りだ!私の娘を返したまえ!」


 いろんな意味で素早い展開。

 ってか、伯爵さんもう犯人が誰かわかっているんですね。


 この際ですから、そこに至った経緯は聞きません。

 そう思い、私は膝立ちの姿勢を続ける。


「君はいつからそんなに偉くなったのかね?たかが伯爵風情が侯爵に逆らうでないわ!」


「ぐっ!」


 貴族には階級が存在し、男爵家、子爵家、伯爵、侯爵、公爵という順番で地位が低い。


 そのことからも、伯爵より侯爵が偉いというのは一目瞭然だ。

 っていうか、あのターニャの父親って、侯爵だったのね。


 ってきり、子爵くらいかなとか思っていたけど、予想以上のお偉いさんだったっぽい。


 まあ、私が言えた話じゃないけどね。


「理性派閥の君が、野生派閥の私のもとに訪れたのが、間違いなのだ。せいぜい自分を恨むがいいさ」


「くそう……!」


「ははは!せいぜい竜人族にでも頼んで私の暗殺でもするがいいさ!まあ、無理だろうがね!」


 竜人族か……。

 そう言えば、竜っぽい人って今までで見たことないな。


 って、そうじゃない!


 そこじゃないだろう、私!


 野生派閥なの!?

 ねえねえ、野生派閥だったの!?


 まさかとは思うけど、伯爵と侯爵って対立していたの!?

 だとしたら、伯爵のほうバカすぎだろ!


 どう考えても自分たち狙われているなってわかるでしょ!


 これは……でも、確かに上位者から来いと言われれば逆らえないよね。

 だが、これはチャンスかも?


(私の正体を知っている可能性があるターニャの父親に何かするつもりはないけど、あの男が黙っているとは考えにくい)


 いつ私の正体がばらされても不思議ではない。

 そうなれば、ゴルさんとかに嫌われちゃうかも。


 それは嫌なので、ぜひとも黙っていてもらわなければならないのだ。


(そこで伯爵様の出番!)


 協力関係を築くのだ!

 私は、侯爵に私のことを口止めさせて、伯爵は娘さんを返してもらう。


 完璧な協力関係じゃないか!


(これは、いける!)


 私は早速伯爵様が部屋から出てくるのを待つのだった。

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