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燃え尽きるまで

「オリビア!」


 オリビアのもとへと向かった私。

 だが、声をかけても返答がない。


「ちょっと!返事してよ!」


「その権利は私にありません」


 いつもと同じ声。

 だけど、単調で抑揚のない声はまるで人間ではない何かのように思えた。


 操られている……。

 人形にした……。


 だったら、あの男を倒すしかないのか?

 そうすれば、オリビアは怪我することなく助け出すことができるのではないか?


 だったら、私はオリビアの相手をするより、あの男を……。

 横にいる男に向かって足を進めようとする。


 その瞬間、


「!?」


「任務の妨害はさせません」


 何かが私の頬をかすめる。


「オリビア……」


 掌をこちらにかざしている。

 そこからうっすらと煙が漏れ、何かが射出された跡が見えた。


(魔法?)


 どんな術式だったのか、そして、どんな魔法だったのか……。

 それは、残念ながら視認できない。


 もはや私は直感で避けているようなものだった。

 それだけ、オリビアの魔法が速いのである。


「オリビアをどうにかしないと、ダメってわけね」


「その通りです」


 オリビアが本気を出して攻撃するとな。

 聖女候補。


 ただの候補に過ぎない。

 だけど、こんな捉え方もできるのではないだろうか?


 英雄予備軍とか、災害予備軍とか。


 生ける伝説の勇者パーティのメンバーになるかもしれないってんなら、英雄候補の一人と考えた方が良さそうだ。


 何が言いたいのかといえば、オリビアも強者の一人というね……。

 何がどうしたらこうなるんだ!


 前世の方が穏便に過ごせていたのでは?

 だって、こんな過激な戦闘なんて参加したことないもの!


 私、こう見えて淑女ですのよ?

 おしとやかに生きることがモットーでありんす。


 なのに、どうしてだ!?


 馬鹿げた規模の戦いをしなくちゃいけないんだ!

 幸い、トラウマとか、拷問のおかげで精神は異常に強靭化しているものの、だからと言って、戦いたいわけなかろうが!


 仮にも友達、友人であるオリビアを傷つけるような真似ができるはずない。

 それをやったとして、意識が戻った後のオリビアとまた同じ関係になれるかと聞かれると、疑問が残る。


 だから、私は、オリビアを傷つけることなく、一瞬だけ気絶してもらうのが最適。


 気絶は怪我に入らん!


 極論だが、そうしないと勝機はない。


 現状は三対三と言いつつ、一人一人でタイマンしている状況。


 なんかとてつもなく強そうな女性は黒服の男を相手にしている。

 余裕そうに見えるが、やや動きがぎこちない。


 緊張しているのか、体が強張っている。

 なんでだろう?


 わからないが、私には焦っているように見える。


 そして、獣人君の方はといえば、勇者の相手を担ってもらっている。

 だが、こっちは明らかに押されている。


 勇者こと、トーヤ。

 あれでも世界を救う勇者様なわけだ。


 そんな化け物相手に翻弄されながらも、どうにか均衡を保ててる獣人君はすごい。


 確かに今のトーヤは全然本気でないっぽいけど、それでもだ。


 んで、私はオリビアと……。


 攻防は激しい。


 被害を気にせず、大魔法を連発してくるオリビア。


『神聖の雷』『天罰の矢』『神聖結界』とか、もう名前を聞いた時点でやばいのだろうなという攻撃がどんどんと飛んでくる中、私はただただ逃げ回る。


『神聖結界』などは、魔法で防御結界を張ってどうにか耐える。


 神聖結界


 魔力を持つ存在を全て消滅させる魔法だ。


 いや、本気で殺しにかかってくるやん……。

 防御に徹しているから防げているわけで、私が反撃に出ようものなら速攻死ぬだろう。


 というわけで、チョコチョコと弱めの攻撃を合間に入れることしかできてない。


(くっそ……どうにかしないと……)


 私は考えを巡らせるのだった。



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



「さっきまで死んでたとは思えないな……」


 そう呟くのは私を一度殺した男。


「次は容赦しないわ」


 そんなことを言っている私だったが、実際には体がうまく動かせていなかった。

 わかってはいた。


 恐怖を感じながら、それに立ち向かうことなんて不可能なのだと。

 恐れているものから逃げずに戦う……これがどれだけ難しいことか。


 理解できるだろう?


 私は戦いたくないどころか今すぐにでも隠れたい欲求に駆られる。

 だが、私にはそれができない。


 なぜなら、守るべきものがあるから。

 大切な心の支えである子供のためならば、いくら恐かろうと、身を投げ出す覚悟はある。


 今がその時だと思っただけ。

 これで、私は親としての役目をまっとうできるというものだ。


 子供を守ってなんぼ。

 それが親のあり方だ。


 タイムリミットは後少し。


 魔力によって、死んでいる状態から一時的に復活しただけに過ぎない。

 私が技を出すたんびに寿命は縮み、やがて再び朽ち果てる。


 それまでにどうにか、この男を倒す必要がある。

 強敵だ。


 恐怖をなしにしてもとんでもなく強いのは伝わってくる。

 私が戦いにここまで時間を費やすのは初めてだからだ。


(だけど、負ける気がしない!)


 近くには子供たちがいる。

 子供の目があるところで、かっこ悪い姿は見せられないでしょ?


 この身、燃え尽きようとも、絶対に戦い抜くわ。


 私は魔力の出力を一段階上げるのだった。

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