家族
「ぐへ!」
大剣で攻撃を防いだものの、衝撃が伝わり吹き飛ばされる。
木にぶつかったのだが、これがまた痛い。
そして、私が離れたことで獣人君にターゲットを移した様子の男。
短剣で攻撃を繰り出すが、あたることはない。
私よりも強い人って、珍しいね。
惚れるわ。
いや、子供には無理だけど……。
とにかく、私がいけないのだろうか?
絶対この大剣なしの方がうまく戦える気がする。
というわけで!
「武器は、拳だぁぁ!」
一発ぶん殴る。
案の上避けられるのですがね……!
だが、子供の体の柔軟さを舐めてはいかん!
地面に手をつき、足で蹴り上げる。
こっちは当たった。
でも、対して痛くなさそうにしているのはなぜだろう。
体が小さい分威力が出しにくいってわけね。
「そういう時にはやっぱり魔力!」
魔力を込めるだけで、拳の威力は何倍にも膨れ上がる。
「今度は避けさせない!」
獣人君も度胸があるようで、後ろから体を掴みにかかる。
顔面に向かってストレート!
バキッという音がし、何かが折れる。
「あちゃー、俺死んだかもな」
「さっさと死ね」
あら怖い。
本気でお怒りのご様子の獣人君。
私もなんとなくブチ切れているつもりなので、私もさっさと死ねと思っているのは内緒である。
「ふふふ……俺を追い詰めたつもりか?」
獣人君が振り落とされ、私もステップを踏んで後ろに下がる。
「どういう意味よ」
「こんな簡単にやられるわけないだろ?」
そう言った瞬間。
「「!?」」
ドスンという音とともに、何かが地面に落ちてきた。
「お呼びでしょうか?」
「おっすー……って!オリビアかよ!」
オリビア?
私の中でイメージするのは学院で一緒のクラスになったオリビアである。
でもね!
まさかそんなわけない……。
ホコリが全て地面におち、完全に相手の顔を視認できるようになった。
そこには……
「オリビア?あなた……なの?」
私の想像通りの人物がいた。
「あ、そっか!知り合いだったよね!こちら、うちの情報部のオリビアだ!」
「どうぞ、よろしく」
ペコリとお辞儀をするオリビア。
「って、オリビア!なんであんたがそこにいるのよ!」
「それはどういう意味だい?」
男は笑いながら聞き返してくる。
「こいつは、俺が人形にしたんだよ」
「!?」
「いやー、肉体の依代としては不十分だけど、能力は高かったからさー」
そう言って、オリビアを指差す。
「あ、あの野郎……」
「おいおい!そんな呼び方しないでくれよ!」
「ぶっ殺す……!」
「さあて?できるかな?まあ、俺の出番はなさそうだけど、ね」
そう言われて、私は初めて気づいた。
後ろから誰かが近づいていることに……。
とっさに攻撃を避ける。
「トーヤ!?」
「ごめんね、大人しくしていて……」
「何考えてんのよ!」
どう見ても、私は捕まえるような状況じゃないだろうに。
「あ、そいつも操ってんだよねー」
そんな男の声が私の耳に届いた。
だが、それよりも今はトーヤの攻撃を避けるのに精一杯だった。
私はしまった武器を取り出す暇なく攻撃を避け続け、
「隙あり」
「しまっ!?」
高速で接近してくる男を視認できずに……気づいたら目の前にいた。
(死んだ?)
ここで終わりなのか……。
そう思って、目を瞑った時だった。
「な!?お前……」
尻餅をつく。
感じるはずの痛みがやってこないことに気がつく。
だが、尻餅をついた感触は確かにあった。
死んでない。
立ち上がって一歩後ろに引く。
そして目線を上げる。
そこには、
「メアリ……!なぜ死んでない!」
「あら?そんな不思議かしら」
魔力を纏わせた腕で、男の攻撃をガードする女性。
さっきまで倒れていた女の人だ。
「くそ!」
一旦男が後ろに下がる。
「君。大丈夫?」
そう言って私の元に近づいてくる。
「あ、危ない!」
後ろから迫ってくるトーヤ。
でも、女性は全く動じず、
「!?」
トーヤの剣は見えない障壁に弾かれた。
「精霊は加護をもたらしてくれる。勇者さんなら知っているでしょ?」
穏やかにそうトーヤに告げ、私の方に手を差し出す。
しゃがんでいた私は、それを掴んで立ち上がる。
「お母さん!」
そんな声が聞こえ、獣人君が走ってくる。
「こーら。男の子なんだからそんなに泣かないの」
「だ、だって……」
そう言って女性の胸で泣きじゃくる獣人君。
ん?
お母さん!?
この人、人間でしょ!?
いろいろ聞きたいことは多いが、この際それは後でにしよう。
私と知り合いだったかどうかとか。
記憶にはないんだけど、なんだか懐かしいよね。
あれか?
母親に久しぶりに会った時みたいな?
まあ、母様はちゃんと家にいるんだけどね。
「これで三体三よ」
「もう最悪だ……」
男の方は頭を抱え、女性は優雅に前に進みでる。
「さっきは殺してくれてありがとうね。おかげで大切なものが守れそうだわ」
そう告げて、どこからともなく剣を創り出す。
白い光の塊が剣の形を象る。
それはとてつもなく神々しい光を放つ。
「お礼に少しだけ本気を出してあげる」
「是非とも遠慮させてほし——」
男がそう口にした瞬間、
「!?あっぶな!」
トーヤを操ったのか、トーヤが男の前に一歩進み出て攻撃を受け止める。
(斬撃が飛んだ?)
十メートルほど離れている男たちのもとにも攻撃が届くなんて……。
「はは……洒落になんねーや……」
「洒落にするくらいなら、私が冥土の土産にしてあげても良くってよ?」
睨み合い、火蓋は切られる。
私は、もちろんあの子の方にかけていくのだった。