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ベアトリス、スパイする②

 インビジブル……不可視化の魔法


 五感による、私の発見が極めて困難になる魔法だ。

 触られたらさすがにバレるが、気配は消えるし、味覚は関係ないと考えて、視覚も聴覚も嗅覚も、私を発見することはできない。


 ってことで、今ランプを持って歩いている、目の前の衛兵も私に気づくことはない。


 ワハハ!

 哀れなり、哀れなり!


 私みたいな八歳児の存在に気づかない衛兵って……。

 私ってばサイキョーね!


 とりあえず、見つからないことは分かったので、ゆったりと探索することができるってもんだ。


(とりあえずは書庫から探して行ったほうがよさそうだよね)


 書庫には国の歴史とか、帝城の書庫なので、きっと秘匿情報とかがあってもおかしくはないはずだ。


 一応、下調べとして歴史はある程度把握してきたのだが、それでもやはりあやふやだ。


 千年の歴史を持つ帝国は、数多の勇者たちが召喚された歴史がある。

 それは初代勇者の話にまで遡る。


 初代勇者。


 最初に召喚された勇者にして、最強の人物。


 帝国が誕生した間もない頃に起きた魔族対人族の一次聖戦の時、召喚されたのが初代勇者だった。


 その初代勇者も黒目黒髪をしている。

 ちなみに私も……。


 ……………あ、聞いてないですか、すみません……。


 で、初代勇者の誕生とともに戦局が一気に押し戻されたんだよね。

 本来は大陸全土を支配していた人間側。


 七割の大陸を奪われたのが、今では奪い返しているではないですか!


 でも、完璧に今まで通りというわけにはいかなかった。

 初代勇者と、魔王が初めてぶつかった時、戦いは激しさを増し、ついには帝国のさらに東にある国が大陸から切り離されてしまったのだ。


 地面を破るほどの戦いって……。

 どんな争いだよ……。


 普通にお互いが化け物級だから、しょうがないのかもしれないけどさ。


 まあ、そのおかげともいうべきか、切り離され、島国となったその国は今では独自の技術を発達させて、サムライなる者たちが国を仕切っているそうな。


 剣術を極めた者たちっていうのがサムライらしい。

 独特な甲冑を見に纏い、どこからともなく振るわれる剣技が特徴。


 両手剣のはずなのに、刃が片方にしかついていない。

 しかも、それを作るように言った初めての人物が初代勇者っていうね。


 いや、どんだけだよ。


 初代勇者……魔王との戦いでは普通の剣使ってたらしいから、そのまま戦えばいいのに……。


 やっぱり勇者の行動理念がいまいちわからない。


 トーヤもそうだけど、なにがしたいんだいったい……。


 まあ、そんなことを考えていても目的地にはたどり着けない。


 明かりがないので、『暗視』を使って、どうにか探しているが、さすがに見つからん!


(もう、この部屋でいいかな……)


 適当に開けてみる。


「ん?誰だ!」


 開けた先、ランプの影に照らされながらうっすらと鎧が見えた。


(やば……!)


 私は思い切ってドアの下にしゃがみ込む。


 なんとなく、隠れなあかんっていうのは分かったんだけど、隠れられそうな場所……というわけでもないが、そうするしかなかったのだよ!


 その判断は正しかったようで……、


 バキッと音を立てて、木製でできていたはずのドアが半分に割れた。


(うっそ〜……)


 真ん中あたりを真っ二つに切られている。

 帽子かぶっていたら、かすっていたかもしれないと思うほどギリギリだった。


「賊か?」


「いえ、どうやらいないようです」


「扉が開くなど不自然極まりないが……」


「ええ、ほんとに」


 ギリギリ気づかれていないようだ。

 ならセーフ!


 そういうことで、私はここら辺でお暇させてもらいまっす!


「それで扉は……」


「よいよい。私が直しておこう」


 そう言って、もう一人。

 影になって見えない方が手を伸ばし、魔法を発動させる。


 しゃがんだ状態で部屋から出ようとした私の目の前で、扉が修復されていき、閉じてしまった。


(え?あのー……これ、次開けたら今度こそ終わるよね?)


 一度開けてしまったことで、中にいる鎧の人は絶対に警戒していることだろう。

 そして、もし開けたら今度は背後から攻撃を受ける羽目になる。


 え?


 避けようがないじゃないですか?


 もういいや、どうせなら話を盗み聞きしてやる!


 そんなこんなで私は、しゃがんだまま二人の話に聞き耳を立てる。


「それで、勇者の件はどうなった?」


 ん?


 勇者?


 勇者っていうのはトーヤのことだよね、多分……。


「抜かりなく、レベリングも稽古も今のところは順調に進んでおります」


「さすが勇者だな。先代とも引け劣らぬほど強くなるだろう」


「ええ、むしろそれ以上になってもらわないと困りますのでね」


 それ以上強くなる?

 先代勇者より強くならなきゃいけない理由でもあるってことか?


「なんせ、次なる魔王が誕生したのですから」


(魔王!?)


「ああ、そうだな」


 なになに?

 もうそこまで来ちゃったの!?


 魔王復活しちゃったの?


「ですが、先代の魔王も死んだか怪しいですよね」


「勇者の反射させた攻撃で自爆するはずがない……大賢者のこの読みは正しいかもしれないな」


 どうやら、先代とやらとは、別人らしい。

 だからと言って、魔王であることには変わりない。


 魔王とは、魔族を束ねる長である。


 その名の通り、魔に属する魔物の生みの親とされ、悪魔という、魔族とは違う存在との協力関係にある者。


 最も魔物を生み出したのは初代だけどね。

 いつからいたのか不思議である。


 だって、魔物を倒したらレベルが上がるのが世の摂理。


 だったら、昔からレベルという存在が知られているはずのこの世界では、いったいいつから魔王というのがいたことになるのだろうか。


 きっと初代勇者なんかよりも大昔だろうな。


「大賢者の長年の解析によれば、物理無効、魔法無効、精神攻撃も無効が魔王の基本的な能力らしいですね」


 鎧の方がいう。

 なにその化け物!?


 フォーマと比べても化け物もいいところだ。

 フォーマはしっかりと魔法が通じてくれたからよかったものの、魔王が人類に直接牙を向いた場合、きっと勝てる奴なんていないだろう。


 でも、先代は倒せなかったかもしれないが、初代とかはどうなのだろうか?


「どうやって魔王を倒すのか……唯一通じるのは体内に直接効果がある魔法のみ」


 らしいです。

 ドユコト?


「空間系統がいい例ですね。最終形である次元系統を使えば、魔王の内部から次元間に分離させることができますから」


 え……。


 つまりこういうことか?

 魔王の体内を別次元に送って、魔王は心臓ないない、臓器ないないしちゃうってこと?


 そんで持って中身すっからかんと……文字通り。


(……………なにそれ怖すぎぃー!)


 解放されるまでにはまだまだ時間がかかりそうである。

 その間、私は顔も知らん二人の会話を聞き続けるのだった。

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