さよならバイバイ!
ついに100話だぁぁぁ!
「ベアトリス・フォン・アナトレス……と、その……ペット……?」
「はい」
「キュン!」
「わざわざ、理事長室まできてもらって、悪いね」
私がどこにいるのかというと、さっき目の前の扇子を持った女性の口から出てきた、『理事長室』である。
スタンピードが起こり、私がその後片付けを手伝おうとした時、レイの兄貴から呼び出されている旨を伝えてもらった。
理事長とは、初等部、中等部、高等部をまとめる学院長的な立場である。
ただし、周辺地域、一部の貴族のコネまで持っているので、影響力はかなりあると思われる。
学内ではなく、学外への影響を持つ権力者、そして、この学院には学院長の代わりに生徒会が取り仕切っているので、実質的な生徒会への命令権を持っている唯一の人物である。
ただし、基本的には生徒会に指示を出さない理事長。
だから、勝手に生徒会が絶対主義であると、生徒に思われるのだろう。
実際は、そんなこと全くなく、理事長が自らそんな話をしだしたわけでもないので、生徒会が一番偉いというのは間違いである。
なんせ、私はこの学院に、前世を含めて約六年間いたので、そのような真実も耳に入ることがしばしば……。
だからこの女の人のことも知っている。
名前は、
「改めて自己紹介をしておこう!私は、レナ・ドールだ!」
という名前は若干嘘で、レナ・フォン・ドーレンである。
いやぁ、驚きだよね。
ドーレン家は男爵家の家名であり、もちろんのことながら、レナ理事長も貴族である。
だが、学院を作るときに貴族として嫁ぐことをやめたせいで、男爵家から追い出されたので、ドールと名乗っているのだろう。
この学院のルールである、『学院内において、貴族的上下関係は関係ない』という、下級貴族たちにはありがたいルールがある。
それは、レナ理事長の過去も関係あるのだろうが、私はそこまで知らない。
知る必要もないしね。
「では、今回起こった事態の報告を君に頼みたい!」
「なぜ私ですか?生徒会の皆様から報告は受けてますよね?」
理事長の横……というか、壁際に並ぶようにいる数人をチラ見する。
高等部の生徒会長、副会長、書記が二人。
その人たちから報告は受けてるはずだ。
なんせ、生徒会だから。
生徒会が、学校を仕切っているので、しっかりとした情報網を確立しているはず。
「いやぁ!残念ながら、事態が起こったのは初等部の方だからな!高等部の生徒会には話が来てなくてなあ!」
「え、っと。つまり?」
「初等部の生徒会は被害の確認に忙しい!ということで、代わりに君に来てもらったのだよ!」
なんで、私が呼ばれたのか不思議でならないが、この際いいだろう。
「なにから報告をすればいいですか?」
「うむうむ!まずはやはり死者の有無からだな!」
「死亡数ゼロ、重症も同じく。軽症が多数います。魔物は約三十頭ほど逃しまし
た」
「なるほど、で、施設などのひが——」
「グラウンドが主な戦場となったため、施設への被害は軽微。ですが、グラウンドに置いてあった魔道具、および体育倉庫に保管されていた予備品がかなりの数が損失し、被害額に換算しますと……大体大金貨数百枚といったところです」
「そ、そうか……じゃあ、後は——」
「逃した魔物によって起こる周辺被害を考えると、学院の印象が落ちることも考えられます。逃した三十頭……排除も可能ですが、いかがします?」
「あ、あぁ……一旦落ち着いてくれ!話すのが早すぎで一瞬ではわからない……」
めんどくさいので、早くして欲しいものだ。
そもそも、なんで学院を貴族領の外に作るのか、意味がわからない。
だから、こんなふうに魔物の襲われるんだよ。
言ってしまえば、脱貴族した理事長が学院を立てるときに、どこからも受け入れられなかったんだろうなということだけはわかる。
貴族じゃなくなった相手に恩を売ったところで、利益にはつながらないし、当たり前のことではあるのだが……。
だけど、そこをなんとかして、お願いしてもらわないと、生徒にまで被害が及ぶので、さっさと、どこかの領に受け入れの手続きでもして欲しいものだ。
「ま、まあとにかく!こうしてスタンピードを人的被害なしで耐えきることができたんだ!ここは、一番活躍したベアトリス君に褒美でも与えようじゃないか!」
褒美という単語に、控えていた生徒会メンバーが私の方を一斉に見る。
っていうか、なんでみんな私のことを君付けするんだろう。
というか、それよりも、
「やっぱり、すでに報告は受けてたんですね」
「え……」
一番活躍したのが、私と断言した。
それすなわち、そう報告が入ったからだろう。
戦いを見てもいない人に、誰が一番活躍したかなんてわかるわけないもんね。
「ロイさんに理事長から呼ばれてると言われたので、怪しいとは思ってたんですけど、結局初等部の生徒会から報告は受けてたんですね」
「ロイ?そんな奴……。まあいい。とりあえず、君に褒美を受け取って欲しいだけなんだ!」
「なぜです?」
「形だけでも、理事長から褒美でもあげなければ、いろんなところで怒られてしまうからな!初等部全員に渡すお詫びはまだ考え途中で、一番活躍してくれた人にぐらいは私直々に褒美を渡しておこうかなと思ったわけだ!」
つまり、自分の保身のためと……。
いや、せめて隠せよ!
「で、で!何か欲しいものはあるか!権利でもいいぞ!あ、でも私にできる範囲で頼む!」
でも、この状況はある意味ありがたい。
私の好きなことをお願いできるのだから!
「じゃあ、一ついいですか?」
「な、なんだ!理事長の座は無理だが、生徒会にぐらいは入れてやるぞ!」
またもや、生徒会どもがこちらを見てくる。
もちろん、そんなことをお願いするわけない。
なので、私が選ぶ褒美は……、
「退学させてください」
「「「は?」」」
シーンとする。
理事長室に誰もいなくなったんじゃないかってレベルで……。
「いいですよね?」
「え?いやいやいや!それ褒美じゃないでしょ!」
「でも、私にとってはそれが褒美なんですけど?」
「そういうわけにはいかないのだ!」
一番活躍した生徒を学院から追い出すというのは、周りからの印象も悪くなるに違いない。
信用も落ちるだろう。
だが、そんなの私には関係ない!
「大丈夫ですよ!」
「私が大丈夫じゃないのだよ!?ベアトリス君!?」
「安心してください!根回しはしてあげますから!」
「根回しって……一体……」
「私が自らの意思で学院を辞めたと周囲には言いふらすので、問題ないです!」
「はぁ!?」
元々、辞めたいと思っていたので、それが当然だろう。
「どうしてそんなことになるのだ!?というか、そう言っても周りに信じてもらえなかったら意味がないだろう!」
「大丈夫です。私が直接、国王に報告しに行くので」
「うぇぇ!?」
どんな驚きかただよ……。
「それと、学院が襲われたのは、領外に位置してるからですよね?」
「あ……えっと……それは、すみません」
「じゃあ、こうしましょう!近くの領地を増築して、そこに新たに学院を立て直しましょう!」
「はい?」
簡単な話だ。
学院の近くの領地を持つ貴族に国王からお願いしてもらえばいいのだ。
貴族は国王に逆らえないからね。
「それはありがたいんだが……」
「ダメですか?国王陛下に直々に言いに行けますけど……。私なら、ね!」
「う……確かにメリットも大きいが……」
「キュン!」
そこに、一緒になってユーリが一鳴きする。
「ほら、うちの家族もこう言っているので、どうか……」
「だああぁぁ!そういうのはずるいぞ!」
頭の中がパンクしたみたいに理事長が立ち上がる。
そしてため息をつき、
「わかった!退学を認めよう!」
「ありがとうございます!」
「キュン!」
「ただし!私が辞めさせたのではなく、自分からやめたということ!そして……領地の件……よろしくお願いします!」
「任せてください!こう見えて公爵家ですから!」
そうして、私の退学が決まった。
「これで、ずっと一緒に居られるね!」
「キュン!」
ユーリの可愛さを再確認し、私は、支度の準備に部屋に戻るのだった。
百五十話くらいで終わろうと思ってましたが、無理そうですね。
物語完結まで、お付き合いのほど、お願いします!