山の恵みと豊穣の神
堅パンと水で朝食をすませて散策をしながらロペス達を待ち、イレーネ以外が揃った所でイレーネを起こして2日目の狩猟にでかけた。
昼は見習い3人で拠点の番をしてもらい、野営したペドロ達は休憩を取ってもらう。
前日の反省で2部隊1チーム構成で出かけることにした。
ロペスと組むことになった私は2人で深く見通す目を使って獲物を探した。
そもそも1日目で獲物と出会えたのは運がよかったのか、森に入って日が大分昇ってきても見つけることができなかった。
木が多すぎる、と不満を漏らしながら高い所を目指して歩き、高所から見下ろして獲物を探した。
ロペスにあそこにイレーネがいる、とかあっちも獲物が見つかっていないようだな、と話していると巨大猪と戦っている豚頭が2頭見つけた。
「あれを見て!」
と、指をさすと、その先にいる獲物をロペスが見つける。
「ロペスと私で豚頭を1頭ずつ、彼らには巨大猪をやってもらおうか」
そう提案すると、頷いて返事をしたので獲物のもとへ向かった。
ここで問題になるのはやはり見習い達の足の速さだった。
むしろ鍛えてある分、普通の人より早いはずなのだが、魔法が使えないというのはこんなに違うのか、と改めて驚いた。
ゆっくり着いてあちこち傷ついて肉が痛むのも困るし、私とロペスだけがたどり着いても困るし、彼らにも役割を与える必要がある。
一つひらめいた私はロペスに、彼らを連れてきてほしい、と頼み先行した。
「何をするかわからんが、わかった」
と、返事を聞き、幻体をかけて一気に巨大猪達との距離を詰めた。
かれらの近くまで来ると、枝の上へ飛び上がり野生動物対魔物の戦いを眺めた。
牙と棍棒のぶつかり合い、怪我が増える前にハードスキンをかけてロペス達の到着を待った。
突然ダメージを受けなくなったことに困惑しながら恐る恐る戦う豚頭達。
しばらく待つとガシャガシャと鳴らしながらロペス達がやってきたので豚頭達のハードスキンを解除した。
「私とロペスは1人で1体豚頭を受け持ちます」
「お前たちは全員で巨大猪を仕留めろ、ハードスキン、シャープエッジ」
獲物を横取りにきた私達に豚頭は激怒し、2体とも一番弱そうな私に向かってくるのをロペスが1体引き剥がして相手をする。
私も今更豚頭には遅れを取らないが目的は肉。
いい肉を取るにはやっぱり血抜きはきちんとしたい。
ヌリカベスティックは寮に置いてきてしまったので鞘に納めたまま、剣を構えて棍棒をいなしながらフェイントを入れつつ豚頭の意識を刈り取るべく動いた。
なるほどこれが余裕がある時とない時の差か、と自分でもわかるくらい相手の動きが見えた。
フェイントを入れて大ぶりになった所で後頭部を思い切り叩き、豚頭の意識を刈り取った。
ロペスの方も私が終わる前にあっさりと首をはねて、ロープで縛って逆さ吊りにして血抜きを初めていた所だったので、私の方も逆さ吊りにしてから頸動脈を切って凍える風を掛けながら血抜きをしつつ見習いの彼らの様子を伺った。
ハードスキンのおかげで怪我はしないと思ったか、勇敢に戦い、あちこちを切り傷だらけにしてなんとか倒した。
まだ温かくて新鮮なうちに巨大猪も逆さ吊りにして血抜きと冷却を初めた。
堅パンと水を飲みつつ血抜きを待つこと数時間、いい加減日も傾き始めたので、拠点に帰ることにする。
見習い達には木の棒で巨大猪を吊り下げて持ってもらうとして、豚頭はどうしようか、と相談すると担いで帰るしかないらしい。
「獣臭いからいやなんだけどなあ……」
「持って帰らないわけにはいくまい?」
と言われ、言い返すことができずに大量の水でもみくちゃにした後、乾いた風で乾燥させ
頭の上に担いで持って帰り、見習い達に心臓とレバー、あとは猟師の子供のハビエル達のおすすめのホルモンを塩焼きにしてもらい、肉の方は凍える風で凍らせた。
2日目の夜はルディに寝ずの番をしてもらい、2日目が終わった。
──3日目
イレーネとコンビを組んで今日も山を散策し、木の上に止まっている山鳥を氷結の蔦で動けなくして、思い切りジャンプして枝ごと山鳥を捕獲した。
見習い達に山鳥の処理をしてもらい、凍らせた山鳥を枝にくくりつけ持ってもらい、1日中散策して夕方、牝鹿を2頭いるのを見つけた。
弓兵のユアンとイレーネの所のサージ以外の見習いにイリュージョンボディをかけて忍び寄らせ、前足を狙って矢を射掛けさせ逃げられる前に一気に駆け寄り首に刃を突き刺した。
森に内蔵を捨て、見習い達に担いでもらって拠点に帰りロペスの番で3日目が終わった。
──4日目
荷物は私達が運んで見習い達が早足でここまで来ているので、帰りの荷物がある状態では同じ速度では帰れない。
朝、ペドロが先頭に立って見習い達の号令を出し、荷車に凍らせた獲物を積み上げ意気揚々とファラスに帰る。
往路の半分以下の速度でゆっくりと進む荷車を眺め、そういえば兵站のお手伝いでもこんな速度だった、と思い出した。
あの時はオーガがでてきてそのあと新人狩りが出てきて大変だったなあ。
いつもは下っ端仕事をしているので、新たに下で働く者がいるというのは落ち着かない。
荷車に腰掛けてロペスとペドロの暇つぶしのチャンバラにイレーネやルディと一緒に野次を飛ばして楽しんだ。
──5日目
休憩の都度、水を振る舞い、疲れを見せる見習い達を労いながら夜までかかってなんとか5日目の日のうちにたどり着くことができた。
ふんぞり返るのも気を使うのも疲れる。
神殿の前にたどり着くと、中からルイス教官がでてきた
「あら、教官、どうしたんです?」
「用事があって神殿に来てたんだが、荷車が見えたからな」
「そうですか、只今戻りました。巨大猪と牝鹿に角兎と山鳥がたくさんです」
「山の恵は思ったより多かったな、凍らせてあるならちょうどいい、神殿の食料庫に運び込むよう」
見習い達に指示すると私達の仕事はここで終了となり、自室に戻った。
帰宅の連絡をするためにエリーを呼ぶと、しばらくしてやってきたエリーは少し痩せているように見えた。
「遅くにすみませんね。 ただいま帰りました、少し痩せましたか?」
「お待ちしておりました、最近はあまり多く食べられていないので少し痩せてしまったかもしれませんね」
「夕食はまだ食べられますか?」
「今日、新鮮な山鳥の肉が入ったとのことで、いつもより豪華なお食事ですよ」
と言って嬉しそうに笑ったので私も嬉しく思った。
「では大盛りでお願いします」
せっかくなので特権を使って多めに持ってきてもらい、エリーに分けて一緒に食べることにした。
「食料に関して助けてくれる神様がいないのはどうしてでしょうね」
「土の力に、水の力、風の力を必要として、育つのに時間が必要ですから、そこまで大きな奇跡を起こせる力がないだけかもしれませんよ」
「であれば、豊穣を司る神を祀る土地で力ある神官が集まって祈れば、毎日収穫できるかもしれないということですかね」
「大げさにいうとそういうことですね」
なかなかままならないことだけはわかった。
「最近はどうですか、やっぱり食べられるものは減ってきていますか」
「そうですね、日持ちのしないものはある程度使えるのですが、保存の効く小麦や芋はちょっと困る量しか使えないようです」
「で、あれば市中にも食料は減っているのでしょうね」
「先週から食料は国が管理して配給と炊き出しが行われています」
「いよいよ、という感じなのですね」
「いよいよ? ですか?」
「こちらの話です、早く終わってお腹いっぱい食べたいですね」
エリーを見送って就寝する。