行方不明者の探索をしよう
ロペスと私は休憩中だったので早めに切り上げ、盛り上がっている見習い達のところへ行き
「ルディの捜索に行く。お前たちは待機だ。」
そう言いながらロペスが足早に通り過ぎ、私が付け加える。
「あ、なにかおかしなことが起きたり私達が捜索に行っている間に戻ってきたら警報の魔導具を鳴らしてください」
身体強化と深く見通す目を使って森の中に入る。
と入っても私より頭1つ以上、背の高いロペスに探索をまかせることになるので、せいぜい周りに変なものがないか警戒するくらいしかやることがないのだけれど。
耳をすませて奥に進むと煌々とした光と叫び声に剣を打ち合わせる音が聞こえてきた。
ロペスと目を合わせてうなづくと、2人で幻体を使って音を立てないようにゆっくりと剣戟の音のもとへ向かった。
低くした姿勢のまま草をかき分け進んでいくと、剣戟の音と共にだれかが野次を飛ばす声が聞こえた。
「ガキと雑魚くらい早くやれよ、仕事に戻ろうぜ」
「そう言ってもこいつ意外とつえーんだよ、簡単に言うなよ」
野次の正体は木に寄りかかってだるそうに野次を飛ばしている男と、ルディと戦っている男の2人。
鉢金にジャケット、胸を守る薄い皮のプロテクターを付けた軽装の2人はアールクドットの戦士だろう。
軽装なのは斥候かスパイ行為のために来ているのだろう、と推測した。
ルディの方は配下の見習いの2人が負傷、無事な2人は介抱していて、ルディ本人は守るのに精一杯だったが、足元を払われ転ばされてしまった。
慌ててロペスの肩を叩いて休憩中の戦士を指差し、私はルディの救出のために飛び出した。
私は走りながら剣が抜けないのでルディに襲いかかっている戦士を蹴り飛ばした。
突然吹っ飛んだ相棒に驚きの声を上げた瞬間、ロペスが一瞬で抜いた剣で串刺しにしたのが視の端に見える。
蹴り飛ばした戦士は頭から木にぶつかり軽い脳震盪を起こした様でふらふらと立ち上がった。
態勢を立て直す前に、と私はルディの剣を拾って駆け出し戦士に駆け寄った。
相変わらず近接戦闘が苦手なので、私が食い止めている間にロペスかルディが協力してくれるのを期待して、身体強化を強めて戦士に切りかかった。
上段からの刃を戦士は剣をもって受け止めるために剣を構えた。
「1対1の戦いに割り込むとは戦士の誇りもない女め!」
「戦士じゃないし女じゃないからな!」
戦士は鋭刃を掛けていなかったのかルディのシャープソードに思ったより魔力を流し込んでいたのか、受けた剣は切断され、そのままの勢いで腿を切りつけ、変に勢いが抜けてしまったせいでよろめいて勢い余って木の根を叩いた。
その隙を見逃してくれず、かといって大きく動く余裕のない戦士は木に寄りかかったまま、私を足で押し込むように蹴り飛ばした。
横から押されてバランスを崩してよろめいて転ぶと、私の体勢が整う前に戦士は切りつけられた足に負担がかからない様に構えを取り直した。
自分の体勢を立て直すための時間稼ぎだったようだが、ルディがやってくるだけの時間も与えてしまった。
戦士は苦虫を噛み潰した様な顔をして、戦士の誇りを傷つけた私を睨んだ。
ルディに剣を返して自分の剣を抜き2対1、戦士の横から幻体をかけたままゆっくりと近づくロペス。
よほどの実力差がないとひっくり返すことができない戦力差に、それでも戦意を失わない戦士。
精神力強いな、と感心しつつ戦士の周りを軽いステップで動き回りながら散発的に攻撃を加えて消耗させ、私の攻撃の合間にルディが重めの一撃を加えた。
ステップを踏んで細かく仕掛けているからと言って私の一撃が軽いわけではなく、打ち込みの瞬間手首を返すことで先端に遠心力を生み、反撃を許す前に飛び退き、ルディが合わせて踏み込んで受けきれなかった部分に傷を負わせる。
本来ならこういうことを1人でできる必要があるのだろうけど。
2対1になって数十秒、もっと長い時間経っていた様に感じていたが後から聞くとそんなものだ、と教えられた。
目の前のことに精一杯ですっかり忘れ去られていたロペスが後ろから一撃で戦士を殺害し、私が破壊した剣を拾って
「第2階戦士だったな、あっちのも第2階戦士だったから、奇襲とはいえ強くなったんじゃないか?」
そう言って自分の剣の柄をなでて満足げだった。
「怪我人は?」
と、ルディに聞くと、
「ああ、そうだった。きちんとした治療をするには設備も人数の余裕もないし、手はまだ必要だからしょうがない」
ルディから5級の飲み薬を与えられた恐縮っぷりと言ったら、逆に見ていて可哀そうになるくらい小さくなっていた。
打撲と軽い切り傷なので瓶から1口ずつ飲ませると、体力の回復も待たずに拠点に戻ることにした。
見習いの彼らもなんとか回復できたようで、陰ながらホッとしてルディ達と歩き出した。
「深く見通す目を使って歩いてたら、ちょっと小さめだけど牝鹿がいてさ、うちの部隊に弓兵いないから直接叩こうと思って追ってたら鉢合わせして大変だったよ」
運が悪かったと言うか、良かったと言うか。
学生に猟師の真似事をさせる状況ということが漏れる心配は少ないほうがいいか。
「カオルとルディの連携、あれはよかったな」
急に何を言い出すんだと思えば、さっきの苦し紛れの戦い方のことだった。
「ただカオルは余裕ありげな雰囲気を出すくせに実戦となると、すぐに焦って単調になるのは直らんな。
ルイス教官があれこれやらせてみたくなる気持ちもわかる」
「そんなに余裕なさそうだった?」
「横で見てても必死だったよ、だから合わせやすかったんだけどさ」
「なるほど、フェイント部分はおまかせしてしまえば私は何も考えなくてもいいんだな!」
「どうしてそうなる! ばれたら1対1とほとんど変わらなくなるだろうが!? 頼むから上達してくれ!」
「じゃあ、手数で勝負するよ、ロペスもルディも練習相手よろしく!」
と、言うとロペスは肩を落とし、ルディは苦笑いで返してくれた。
拠点に戻ると心配そうに座っていたイレーネがぱっと顔をあげ、つまらなそうにしていたペドロを引っ張って来た。
「アールクドットの偵察が来ててルディと鉢合わせしてたよ」
そう説明すると、ロペスとルディが戦士の剣を掲げて見せた。
「すごいな! 2人とも第2階戦士か」
ペドロが自分も行きたかった、とつぶやいた。
ルディと部下たちが食事を済ませて、ルディ以外の4部隊で獲ってきた獲物に凍える風をかけて小さいものは半冷凍、大きいものは冷蔵した程度の温度にして、温度管理のためにペドロと見習い2人には寝ずの番をしてもらうことにして、ひとまず寝ることにした。
テントの中で無音で闇を出したり引っ込めたりすれば、外からは起きてるか寝ているかすらわからない。
イレーネと一緒に魔力を増加させる訓練をしてから寝る。
非力な体と立場の弱い私達は、高めた魔力を持って初めて自由になるのだ。
2日目の朝、イレーネを起こさないようにそっとテントを抜けて(多少のことでは起きないのだけど)ペドロの所に行くと、眠い目をこすりながらイレーネから借りたトランプで遊んでいるペドロと見習いがいた。
「おはようさん、交代するよ」
「そうか、このゲームが終わったら頼むよ」
手元のカードをにらみながら答えた。
ゲームの終わりを待っている間に、肉の温度を確認し、少し強めにかけ直した。