兵站のお手伝いという簡単なお仕事
ここ数ヶ月は魔法薬の作成と魔道具の作成に邁進し、
魔力出力練習用のアラームを作成した。
手に持つ必要がなく、体のどこかに触れている状態で魔力を流すと
警報がなるという魔道具だ。
音は私のものに合わせてヴィームと警報音がなるが、簡単な素材でできているので
量産もできる。
上位の貴族であればそれこそ今すぐ欲しい商品になるだろう。
貴族の子女は幼い頃から魔力操作の訓練を始めるということなので、
さらわれた瞬間に意識さえあれば警報が鳴らせる。
そんなアラームを自分用によほど魔力を込めないと
まともに音がならない弱いものを試作したので、
歩きながら音がならないように身体強化したまま魔力操作をするのだった。
数ヶ月やってて未だにできないのでルイス教官にアドバイスを求めたが
やってればそのうちできると言われてしまった。
役に立たない奴め。
そんな折、いつもは3、4年生が実施していた
年度末に行われる兵站部隊の研修が秋に行われるというのだ。
兵站部隊の殿について奇襲に対して警戒するだけの簡単なお仕事だった。
1車両(?)につき10人前後が荷駄管理をし、30人前後が警護についている。
20両ほどの荷馬車が2列縦隊で少し距離を開けて搬送している。
先頭に隊長を置き、4両に1人副隊長がつく。
A班は真ん中くらいでB班は先頭にいるそうな。
なにかあったときのためにA班には大音量でビー鳴り、B班にはビビビビと鳴る
警報石(仮)を渡し、大変なことが起きたら思い切り魔力を込めろと渡した。
フェルミンの腰巾着ことトミー・セビリャが警報石(仮)を見て
なにか言いたげにしていた。
兵站部隊の新兵と老兵の皆さんに紹介してもらい、どうもどうもと挨拶をするが、
向こうにしてみれば学生で新兵以下の扱いとはいえ、貴族の子供か
自分の家族が働いている商家の子供だったりするわけで
腰の低さを見せても態度が軟化することはなかった。
荷車に乗った武器や防具などの消耗品に、日持ちのする野菜や塩漬けにした肉
小麦粉等の穀物や調味料が詰まった袋を載せた荷馬車を
ばんえい馬のような馬が引いていく。
遠足気分の私とイレーネに対して、気を引き締めて歩く兵士と私の仲間たち。
そして呆れた顔で引率するルイス教官。
その時B班のビビビビというアラームが聞こえた。
ルイス教官を見ると、すっと表情が引き締まり、
「イレーネとペドロ、様子を見てこい、何ならそのまま解決してきていいぞ」
と言って行かせた。
「なんでしょうね、どっかの敵軍に奇襲でもされたんなら陽動でしょうかね」
と聞くと、
「情報が来る前に想像するんじゃない」と嗜められた。
しばらく待機していると前の方から若い兵士が走ってきた。
「伝令!伝令!先頭車両でオーガの群れに接敵!その数12!支給援護を求む!」
「12か、多いな、しかし本隊というには少ない気がする、狙いは食料か」
ルイス教官が呟いた。
「ま、B班のおぼっちゃんにイレーネとペドロならなんとかいけんだろ」
援護はしないことにして兵站部隊の隊長の判断に任せることにした。
しばらくするとA班に渡したビーとなり、伝令が慌てて走ってくるのが見えた。
「やっぱり来たな」と嬉しそうにいうので
「そういうのは表情を隠してやるもんですよ、で、オーガってどんなんですっけ?」
と、聞くとお前は授業聞いてなかったのか、と言って説明してくれた。
「少し大柄で単品の脅威度で言えば牛頭よりちょっと下だが、
やつら群れを作ってリーダーの指示で動くから一般兵はやばい。」
「じゃあ、助けに行かないんです?」
「元々戦うために軍にいるしなぁ、平民はいっぱいいるし、貴族の子供って言っても
まともに戦えないから箔つけるために軍に所属させて兵站部隊でぬくぬくしてな、
おれやつら嫌いなんだよ」
まあ、ぶっちゃけるぶっちゃける。
「そんなこといって聞こえてたらどうするんですか、
いや、それよりその話をまとめるとここの主戦力は」と、咎めつつ聞いてみると
「風で魔術的に風下にいるから大丈夫、
そして対魔物の主戦力は我々だ」と言ってにやりとした。
「対人やら対部隊ならいいんだが、魔物相手となると人数も練度も足らんし、
部隊長も経験が浅くこの事態に対応できていない」と、評した。
「ラウル、ロペス、フリオはA班の救援に、ルディとカオルはここで待機だ」
と指示を出して駆け足!と叫んだ。
「おそらく来るだろうがこっちに来た場合は、荷駄隊には弓を射掛けさせるから
カオルが撹乱、ルディは直接戦闘」というとルディは暗い顔をした。
「騎士の家から来てても戦うのはいやなの?」と聞くと
「人が相手ならまだいいけど、魔物は、ね」と言った。
「私は人の方が相手にしたくないなぁ」と言ってルディから離れて
街道沿いの隊列の邪魔にならない所に
ヌリカベスティックで1m30cmほどの壁を作る。
矢を射掛ける時に隠れられて私とルディから
離れた相手が来ても逃げ回れるようにする。
「ロペスの今の疾風の刃の熟練度見たかったですね」というと
「しらんのか?今は身体強化を切った状態で振り回して攻撃の瞬間に
全力で魔力を込めているぞ」意外と生徒見てたんですね、というと
失礼な!と憤慨していた。
そういえば、ルディと私しかいないと思ったけど、この人も戦力になるんだった。
街道脇の森からバキバキガサガサと複数人が
低木を蹴散らしながらやってくる音が聞こえた。
「やっぱり来たか」ルイス教官は面倒くさそうに呟いた。
森の中に見える影を見ると、思ったほど多い数ではないらしい。
10は行かないくらいだろう。
「よかったな、少ないぞ」ルイス教官が言った。
「いやいや、だってあれリーダーですよね!教官!」ルディが悲鳴を上げる。
だって、私は逃げ回ってればいいけどルディは直接戦わないといけないのだ。
「大丈夫、骨は私が拾ってあげるから」というと泣きそうな顔をしていた。
大丈夫、心を強く持ちたまえ、ガハハ。
「しょうがない、私謹製のハードスキンかけるから頑張れ!」と言って
ぐっと魔力を込めてハードスキンをかけた。
幻体をかけてしまうと一般兵のほうが目立ってしまうので今回は無し。
むしろ一般兵にかけたほうがいいか、とも思うが
荷駄隊100人以上にかけてどのくらい魔力が残るかわからないので
普通に頑張ってもらうことにするとも思ったが今の私なら余裕か。
6体のオーガと1体のリーダーらしき個体が現れた。
雑魚と子供の群れを見たオーガのリーダーは荷馬車を指差して顎をしゃくった。
おお、高みの見物か、ありがたい。
「7体のオーガに囲まれているぞ!」と兵士が騒ぎ、
兵站部隊の副隊長が戦闘用意だ!馬車を守れ!と叫ぶ。
なるほど、たしかに練度が足りない。
6体のオーガは雑魚は相手にせず
間近にある4台の馬車のうち3台に2体ずつ向かっていた。
近づくオーガに及び腰の兵士。
ルディと2人で1人2体受け持ちで余った2体が馬車につくまでに倒して向かう。
なかなか厳しい。
しょうがないので、こっちに注目してもらうため攻撃を仕掛けることにした。
ルディとそれぞれ2体のオーガの前に立ちはだかる。
なんか変なのが現れたぞ、とちょっとだけ警戒したが無視して進もうとした。
「炎の矢!」火力高めの炎の矢を40本ほど。
1体につき20本あればなんとか倒せるか。
私が炎の矢を出したのをみてぎょっとしたオーガは
両腕で顔をガードし腕の隙間からこちらの様子を伺った。
さすが戦い慣れているが
ここ数ヶ月魔法を使ってきて、炎というものに囚われすぎていたことがわかった。
イメージで結果が異なるのであればもっと破壊力があっても良かったのだ。
以前の私の炎の矢は着弾して焦がすか燃えるかしていたのだが、
突然ひらめいた、もっと爆ぜてもいいじゃないか、と。
というわけで今の私の炎の矢はバージョン2と言える。
「まず両手が邪魔だな!」と言って4本、両腕めがけて放った。
下から弧を描いて襲いかかる炎の矢
4発の爆裂は剛力でしられるオーガの防御を解くには
まだまだ足りないようだったが脅威を与えることはできたようだ。
しかしそのせいで1対2だったものが1対3になってしまった。
もう1体はルディの方に行った。ルディにすまないと心のなかで謝った。
「炎の矢!」追加でもう30本ほど。
そしてヌリカベスティックを掲げルイス教官に向かって叫んだ。
「ヌリカベスティックの真の威力をお見せしましょう!」
一斉掃射して炎の矢を追って突撃する。
炎の矢を追って接近してくるニンゲンのメスを迎え撃つため、
それぞれ武器を出し、炎の矢を防御仕切ってからひ弱なニンゲンのメスを血祭りに
あげようとぐっと踏ん張って炎の矢を耐えきるオーガ達。
その手に持った棒で殴りかかるのかと思いきや急に立ち止まるニンゲンのメス。
また何かするのかと観察した。
思ったとおりに亀のように固まってくれた。
腰を落とし両手でヌリカベスティックを持ち、全力で地面を突いた。
一瞬のうちに2mまで伸びる土壁、その時間はほんの瞬き程度、およそ0.1秒。
秒速20mの速度で射出されたオーガは空高く飛び上がった。
オーガが何が起きたか把握して立ち直る前に次に移る。
ぽん、と横に1歩ジャンプし、同じく射出する。
それを3体分。
はたから見ると走り出したかと思うと急に立ち止まり、
中腰でぴょんぴょん跳ねるとオーガが飛んでいくという
変な光景だった。
いかに頑丈で頑強なオーガといえ、強烈なGには耐えられるはずもなく。
意識を失ったオーガが自由落下してくるので色々なものが
飛び散らないよう地霊操作を大きめの穴を掘った。
穴を背にしてルイス教官に「どうです?この初見殺し!」というと
「意外とえげつないな、お前」という声とともに
後ろからゴシャゴシャッという音が響いた。
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