主の討伐と反省会
ロペスは改めて身体強化をかけた状態で疾風の剣を振り回し始めたので離れてルイス教官の近くに移動した。
「いやー、お前が慌ててる姿っておもしれえな」ルイス教官がニッカニカ笑いながら煽ってきた。
「助けてくれても罰は当たりませんよ、むしろ助けないと罰が当たりますよ?当てますよ?」
「まあまあ、そういうなよ、それよりロペスのあの剣、どうだった?」
「片足立ちになれば殺人独楽になれますよ。試しに借りてみたらどうです?」というとそうだな!といってロペスのもとへ向かった。
ロペスと少し話をしてから疾風の剣を借りて真剣な表情で鞘から抜くと中段に構えて身体強化を使用した。剣先がぴくりと下に動いた。
その後、正対の構えで動かなくなったが、髪の毛がなびいたり止まったりしてる辺りきちんと魔力の制御ができているようであった。
そして、吊るしてある鹿の前に移動した。
その間、身体強化したまま風を出さないようにしているのは流石、と舌を巻いた。
そして、逆さ吊りの鹿の前に立ち、剣を構える。
正対から横薙ぎに剣を振るった瞬間、ゴッと風の音がして鹿の首がどん、と落ちた。
ふっと息を吐き、剣を鞘に納めてから振りむき、
「これがあれの答えということだな?いいものだ」と言って返した。
それから青空飲み薬作成教室が始まった。
それぞれ採ってきた薬草の名前と、薬効を教えながら次々と鍋に投入させていき手当たり次第に飲み薬を作らせた。
疲労回復効果のあるもの、数時間は寝ずにいられるカフェインのようなもの、中級程度の治癒薬、寒さに強くなる薬、呪いにかかりにくくなる防御薬、魔力回復薬はもっと遠くまで行かないといけないらしい。
様々なものをいっぺんに作らされたが、恐らく作業になれるために数をこなしているだけだろう。
そして、日が落ち、食事を取るとこのキャンプの役割分担が言い渡された。
「損害がでそうな時に声をかけるからロペス、カオル、イレーネはあまりなにもしないこと、見張りも戦闘もだ。」
「はあ、わかりました」
そうするとやることがないのでイレーネの炎の矢のでる方のナイフを借りて
身体強化をかけた状態で炎がでないようにする練習を始めた。
ロペスの疾風の剣と違って上に向ければ大丈夫なので助かる。
自分の練習用に何か作ろう、と思いながら魔力の調整をしてみると、これが実に難しい。
少なくしようとすると身体強化も一緒に弱まるし、身体強化を強くしようとすると魔力がでまくる。
いっそ不可能と言ってくれた方が助かるのだが、できた人がいるのでやるしかない。
イレーネがやることなさそうにしていたので、
「イレーネもできるようにしておくと二刀流ができるようになるよ」というと
「たしかに!」と言って黒炎のナイフで練習し始めた。
これでイレーネができるようになると相手する人は大変だろうな。
二刀流で常に2種類の魔法が飛んでくる。
しかも1種類は無詠唱で発現するのだから。
二人でボボボボと炎をとばし、近くでは暴れる剣に振り回される男。
ルイス教官はいつのまにか持ち込んだ酒を飲みながら横になりペドロ達は哨戒し始めた。
安心して寝るために近くにいたペドロに
「あ、森に向かって横から見るとこういう感じで穴を掘って光を光量をできるだけ強くして朝まで維持できるものを入れて頂戴光とはいえ、光量強くして朝までとなると結構大変だよ」
レを書きながらお願いした。すると、ルイス教官が
「おまえなぁ、なにもするなと言ったはずだが」と言って呆れた顔をした。
「夜営を任せるんですから安心して私が寝れるようにしただけです!」
「配置とかこれ以上はなしだからな、お前等はいつ寝てもいいぞ」といって火の番をし始めた。
さて、眠くなるまで魔力操作の練習をしてから寝よう、と決めイレーネと炎の矢を打ち上げながら話でもしてようかと思った。
「月がないと警戒するにも難易度が上がっちゃって大変だね」と、哨戒の邪魔にならないように小声でいうと
「月ってなに?」と言っていた。
月はないらしい。潮の満ち引きはどうなっているのか。
「私のいた世界だと夜になると白く輝く星が出てくるんだよ」と雑な説明をした。
「夜もそんなのがあったら眩しくて寝れないんじゃないの?」
「そこまで明るくもないんだよ、これくらいかな?」と弱めの光を出した。
「夜歩くのにちょうどいいくらいなんだと便利でいいね」と言っていた。
その後、元の世界の話を少ししていたら肌寒くなってきたのでリュックからポンチョを取り出して被って寝た。
朝、少し日が昇ったあたりで目が覚めた。
どうやら夜襲はなかったらしい。
朝の柔らかな日差しの中でぼーっとしているとドコドコと巨大な足音が響き渡った。
来たか、と思うとルイス教官が「来たか!」と言っていた。
ペドロをリーダーとしてルディ、フリオ、ラウルが緊張する。
森の中から足音の正体である立派な角を生やした雄鹿が現れた。
ばんえい馬を思わせる太く力強い足が不愉快そうに地面をたたいていた。
私は幻体をかけて見学する。
同じく幻体をかけたイレーネ達とルイス教官と集まりぼそぼそと話をする。
「ちょっとでかくないですか」
「思ったよりでかいな、悪いがハードスキン頼めるか」
うなづくと彼らにハードスキンをかけた。
「ロペスの疾風の剣が完成していれば角とか首の切断を狙えたんでしょうが、これはなかなかに難しい戦いになりますね。」というと
「参加したい」とロペスがぼそり、と呟いた。
「イレーネ、お前ならどうする?」とルイス教官に問われたイレーネはむーと、少し考えたあと
「一番楽なのはカオルに丸投げなんだけど」
「ひどいな!」
「あたしにできそうな手だと頭を炎で包むのかな、あたしは黒炎のナイフがあるから握って逃げ回るだけでいい感じ?」
「それは最後の手段、血抜きの前に焼けちゃうから今回は却下だね」
「いくつかやれそうなのは、鼻先を殴って脳震盪起こしてから水で窒息させるか、頸動脈狙って風の刃かな?お、いいこと思いついた!」
イレーネが疑わしい目で見てくる。
「ヌリカベスティックでアッパーカットだ!」
「やっぱり変だった」
妄想に耽って彼らを忘れていた。
立ち上がりからの踏み付けと頭を振る、後ろを蹴るの3パターンの攻撃方法で暴れる主。
綺麗に勝つんでなければ囲んで少しずつ切り付けるだけで済むが、やはり肉をとるためには最低限の手順でおわらせなくては。
魔力操作ができてないまま熱水の盾を構えるとお湯が出続ける欠点というか仕様だと使いづらいということには気づいていたようでお湯を出すには盾をふちを両手で持って魔力を込めるという使い方にしてしまった。
着眼点はよかったが解決方法がよくなかったね。
ロペスのようにしておけば攻撃を受けた瞬間にスプラッシュできたのに、これではただの日用品に防具の機能を付けました、というだけの代物で、ふちを両手で持つなんて指を飛ばしてくれと言っているようなものだろう。
魔力操作に慣れるまで持ってるだけで水がじゃばじゃば出続けるというのも邪魔くさいが。
ということで熱湯攻撃は難しいとなると、握ってるだけで光りながら炎が出る太陽神の剣かシャープソードくらいしか戦力にならないということになる。
普段なら野生動物は炎をかざすと逃げていくはずだが、必殺の意思を持って対峙するこの牡鹿は全くひるまない。
「お前らのその剣と盾の戦術的優位性を見せてみろ!」とルイス教官が檄を飛ばす。
なるほど、目的はこれか。
意識の低さを認識させたかったのだがいい手はないかとおもっていたところに私達がやらかしてしまったのを利用したということか。
「魔物化した動物でなくて運がよかったですね」というと
「正直助かった」と返事が来た。
ラウルが盾役になり、正面からひきつけ、ルディとペドロがアタックし、この中で比較的魔力に余裕のあるフリオが後衛となって氷の矢を撃つというオーソドックスなものだった。
おかげであちこち傷つけられになり、肉の品質が落ちていく。
返り血も浴びるので魔物化した動物だったら大変なことになる所だった。
両脇からアタックすることで立ち上がってラウルに巨大な足を振り下ろす攻撃ができないようだが、振り回す角が大きく硬いので苦戦している。
あと魔力の育成もあまりうまくいっていないのかもしれない。
「そろそろいいかな、カオル、さっきのやってこい」
「彼らのプライドとか」
「怪我されては元も子もないからな」ということでしょうがなく参戦することになった。
すすすす、と近寄りラウルの後ろにたった。
頭を振って角をラウルに突き上げて空振りした後、左右に振ろうと頭を少し下げたタイミングに合わせて、ヌリカベスティックの飛び出る方を2メートルほど飛び出るように打ち付けた。
地面から飛び出た土の塊は振り下ろされた巨大な牡鹿のあごを下から打ち抜き見事にカウンターでアッパーカットを受けた勢いのままふっとび仰向けに倒れた。
何が起こったかわからないペドロ達があっけにとられているので、幻体を解いた。
「カオルか」と言って気を抜いたの慌ててとどめを刺させた。
足首と頸動脈の血管を切って強めの水流で水洗いしてからロペスは離れた所でロペス式脳筋血抜き冷蔵法をしている間、反省会をすることになった。
「まず、自分より体躯の大きい殺意を持った相手に立ち回りは上々だった。」と、褒める。
「次に、この戦いの中で自分に足りないものが見えたかもしれない。
昨年の遠征で自分に足りないものに気づいたカオル達は
それを補うものを作ったが、
気づかせる機会を与えられなかった我々の落ち度だった。」
「次からはそういう視点で魔道具つくってみてほしい、以上」と言って締めくくった。
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